055 魔王と再会
『ちょっと、起きなさい! いい加減に目を覚まして、サイガ!』
どこか聞き覚えのある声で目を覚ます。窓を見るとまだ日は高く、さほど時間は経っていないようだ。
目の前にはアメキララに似た少女が宙に浮いて俺を見ている。……どうやら、まだ夢を見ているようだ。
『夢じゃないわよ。あなた、私の事を憶えてないの?』
幻が勝手に喋っている……。誰だ、コイツ? なんか馴れ馴れしいな、憶えているも何も初対面です。
『………。あなた、性格変わっていない? 戦った時と違うような感じがするんだけど』
すごいな、俺は喋っていないのに会話が成立している。【知識の神の加護】や【二進外法】は会話というか、もっと一方通行的な感じだったから、何だかちょっと嬉しい。あまり現実逃避するのも駄目だな。目の前の少女の幻から凄く睨まれている。
「あ~、悪い。ほとんど人間だった時の記憶がないんだ。それに性格が変わったっていうが、それも分からん。アンタは以前の俺を知っているのか?」
『記憶がないって……呪術の影響かしら? 私も初めて使った呪術だから、どんな影響があるか詳しく分からないのよね。ちなみに私は魔王アメキリンよ。人間だった時のあなたと戦って負けたの』
だよな、アメキララにそっくりだし、流れ的に姉である可能性が高いことは俺でも分かる。あとは何で行方不明だった魔王が俺の前に現れたのか……。戦いで負けたといったが、俺に殺されたということか。現状を理解しようにも情報が少ないな。
「知っているなら、色々と教えてくれ。俺はアンタを殺したのか? そして、今のアンタはいったい何なんだ?」
『……そうね、あなたよりは知ってると思うわ。まず、あなたは私を殺していない。殺されかけはしたけどね。命が尽きる寸前に呪術を発動したの。命と引き換えに器を死し生まれ廻わる「呪術:器死廻生」をね』
「それで俺は呪術をかけられ、人間から魔族に生まれ変わったというわけか。それでアンタは何なんだ?」
目の前で宙に浮いている魔王に何者なのか尋ねた。
『私? 私も同じよ、生まれ変わったの。けど、中途半端なままだけど。肉体は無いし会話ができるのはあなただけだし。……魔素が足らなかったのかしら?』
「なぜ、今なんだ。俺が魔族になって、かなり時間が経っている。いつでも俺の前に現れる機会はあっただろう」
『う~ん、そうね。簡単に説明するわね。「呪術:器死廻生」は術者、被術者を転生させる呪術なの。発動条件は命を使うこと、正確には生まれ変わるから違うかもしれないけど。少なくとも死んでも良いという覚悟は必要よ。そして、術者は被術者に呪いを託すの。その呪いが叶うと術者も生まれ変われるの。だから、呪いが叶わない限り術者は生まれ変われない、死んだままよ』
なるほど、アメキリンが生まれ変わるための条件が揃ったのが、ついさっきだったということか。そして、条件の1つは俺が呪術を口にすることだったのだろう。ただ、呪術を発動した時の魔力が少なかった為、肉体までは復活できなかった。
分かったような、分からないような中途半端な感じだな。よし、とりあえず【知識の神の加護】が憶えているから後でもう一度、確認しよう!
『言い忘れたけど、あなたの加護はもう無いわよ。私が生まれ変わる時に依り代として使わせてもらったわ。「神の加護」っていうから大層なものを想像していたけど、魔素と意識の融合体みたいなものなのね。昔、似たような物を生み出す呪術を使う魔族がいたわね』
「………ちょっと待て、何を言っているんだ。【知識の神の加護】は、もう無いのか? それじゃ、これから別世界の言葉や知識は誰が教えてくれんだ!」
衝撃の事実を突き付けられて思わず俺は叫んでしまう。
『別世界の言葉や知識って……。心配するところ、そこなの? まぁ、十全じゃないけど、私が知っていることは教えられるし、無いものは仕方ないんじゃない?』
「なんで、そんな他人事みたいに言えるんだ……」
『だって、他人事だし』
「………………………」
なんて酷いヤツなんだ。俺の趣味を奪いやがって……。やっぱり、魔王は人族の敵なんだ、少なくとも俺にとっては敵だ。魔王なんて生温い、大魔王だ! 別世界の言葉でいう「ビビンバ」「フルート」……いや、違うな。くそっ、こんな時に加護が使えないなんて。
『…………ひょっとして、「クッパ」と「ピッコロ」?』
「!!!! それだ! なぜ、分かるんだ! 神か、それとも『ググった』とか?」
『ごめん、ちょっと何言ってるか、分かんない。依り代として使わなかった僅かに残った部分に聞いたら、たまたま、教えてくれただけよ』
「ということは、まだ【知識の神の加護】は完全消滅した訳じゃないんだな?」
『まぁね、1割も残ってないと思うけど。あと、私しか使えないわよ』
よし、問題無し! 別世界の言葉でいう『モーマンタイ』だ。とりあえずギリギリで趣味は確保できた。あとはコイツのことをノーベさんに知らせるかどうかだな。
『そうね、知らせた方がいいと思うわ。多分、ノーベは無理だけど、妹なら私のことを感じることができると思うわ。私と同じぐらい魔素を感知する能力が高いから』
「そうか、なら直ぐにノーベさんに知らせるか」
部屋にあった呼び鈴を鳴らし使用人にノーベさんを呼んでもらい、魔王アメキリンが見つかったことを伝えた。普段は冷静なノーベさんが目を大きく見開き驚く姿が面白かった。詳しく説明できないので、アメキララを呼んでほしいとお願いするとノーベさんは足早に部屋から出ていった。
しばらく待っていると廊下から誰かが走ってくる気配がしたので、俺が扉を開けるとアメキララが飛び込んできた。
「サイガ、姉さんが見つかったって、本当なの!?」
「あぁ、見つかったっていうか、ここに居るぞ」
俺が左肩辺りを指差して言うと、アメキララは怪訝な顔をして指差した空間をじっと見つめている。そして、急に目を見開き驚きの表情をすると俺の方を見る。
「サイガ、これはどういうことなの?! 姉さんの存在は感じるのに何も見えないわ……」
俺は苦笑いを浮かべ、魔王アメキリンが生まれ変わった経緯を説明した。もちろん、所々でアメキリンから補足を受けながら……。
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