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054 魔名と記憶

会話を止めて急に悩み始めたアメキララをノーベさんが心配そうに見ている。俺は声をかけて良いか分からず、冷めたお茶を飲みながら様子を覗う。


しかし、いくら待ってもアメキララから会話を始める気配がない。


「あ~、すごく悩んでいるようだが、あまり無理する必要は無いと思うぞ。答えが出ない時は、いくら考えても出ないもんだ」

「いいえ、答えは出てるの。ただ、決心がつかなかっただけ。姉さんの名前を伝えるべきかどうかを……。もちろん、あなたが気づいているのは分かってるわ」


なるほど、俺が感じてた違和感の正体は魔王の名前だったのか。……いや、ごめん、全然、気付いてなかったです。


「確かに違和感を感じていたが……。なぜ、魔王の名前を伝えるかどうかで迷っているんだ?」

「いくつか理由はあるけど、名前を教えることで姉さんの呪術にどんな影響が出るか分からないわ。それにあなたの記憶が戻る可能性も高い」

「よく分からないな。なぜ、名前を知ると俺に掛かっている魔王の呪術に影響がでるんだ? それに記憶が戻れば行方不明になった魔王を探す手掛かりになると思うのだが……」


魔王の名前と呪術、そして俺の記憶にどのような関係があるのだろうか。俺はアメキララに魔名まなについて、そして、魔名まなによる呪術への影響について説明を求めた。


アメキララによると、呪術と魂には何らかの関係があり、習得する呪術は魂の在り方で決まると言われているらしい。環境でも遺伝でもなく、ましてや歩んできた人生すらも関係ない……その者が持つ魂によって呪術は形成されて習得される。


魂の在り方を示す魔名まなを知るということは、良くも悪くも自他の呪術に影響を与えてしまう。特に俺に掛かっている魔王の呪術は魂に強く干渉しているらしく、どのような影響が出るか分からないとのことだ。


「なるほど、魔名まなと呪術については分かったが、記憶についてはどんな理由があるんだ?」

「そっちは、あなたの魂が関係しているの。再び加護が付与されたということは、あなたの魂は魔族より人族に近い。もし記憶が戻り私たち魔族を憎むようにならないか心配なのよ」


そういえば魔族に生まれ変わった時は【知識の神の加護】は付与されていなかった。最初の進化後に付与され、その時に魂が人間に近づいたと言われたような気がする。俺の人間に戻りたいという願いが呪術に影響を与えて進化させたのかもしれない。


「確かに加護は付与されているが、魔族に対して特に何も感じない。むしろ良いヤツが多いと思う。記憶が戻った程度で、この気持ちが変わるとは思えないが……」

「まぁね、あなたが人間だった時に魔族をどう思っていたか知らないし、無用な心配をしているだけかもしれない。正直、私たち魔族も、あまり人族のことは知らない。なんで魔族を嫌っているかとかね」


確かに何故、人族が魔族に敵対しているのか分からない。以前【知識の神の加護】は「『魔族とは世界に害をなす悪なる存在』という教義」があると言っていたが、『世界に害をなす』って具体的に何か教えてもらっていない。俺が憶えていない可能性が高いけど。とりあえず、あとで【知識の神の加護】に聞いてみるか……。


「少し話したら、なんだか気持ちが楽になったわ。ウジウジ考えても仕方ないし覚悟を決めたわ」


俺が考え込んでいる間に、アメキララは魔王の名前を教える覚悟を決めたらしい。真っ直ぐ俺を見つめて魔王たる姉の名を告げた。


「姉さんの名は『アメキリン』。魔名まなは『雨麒麟あめきりん』よ」

「……………………」

「……………………」


いつ何が起きるか分からないと警戒しながらアメキララが俺を見ている。


「……え〜と、良い名前だな。それに結構、似てるな、姉妹だからか?」

「……そうね、血の繋がりというより、魂が近いと魔名まなも似てくるらしいわ。私はぬしになる時に魔神様から頂いたわ。それまでは唯の『ララ』よ。っていうか、あなた、何か変わったところとか無いの?」


……無い。全然、無い。全く変わっていない。俺も名前を聞いた瞬間に全身が光り髪が金色となって逆立つかもと期待したが……何も起こらなかった。


「多分、何も変わっていない。頭も体も特に変化はない……です」

「……そう、なんだか拍子抜けね。色々と心配したのがバカみたい。かなり話し込んだようね、もうすぐ昼になるわ。私も執務があるから、今日はこれぐらいにしましょう。もし、何か思い出したらノーベに知らせて」


アメキララはノーベさんに指示を出すと部屋から出ていき、俺は使用人に案内されて部屋に戻った。


使用人に礼を言って部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。『雨麒麟』……魔王の魔名まならしいが、聞いても何も思い出せなかった。やはり人間だった時の記憶は殆ど残っていないようだ。結局は【知識の神の加護】に聞くしかないのか。


「魔王『雨麒麟』と俺の関係は? 知っていることを教えてほしい」

《サイガと魔王『雨麒麟』は敵対していました。『知っていること』とは何を対象としているか分からないため回答できません》


……そうだった、【知識の神の加護】は面倒くさいヤツだった。内容をしっかり考えて質問しないと何も答えてくれない。とにかく簡潔に核心を突くような質問を考えないといけない。……うん、無理! とりあえず、ダメもとで魔王の呪術について聞いてみるか。


「魔王『雨麒麟』の呪術についての情報は持っているか? もし、あるなら教えてくれ」

《あります。魔王『雨麒麟』とサイガの戦いで4つの呪術を確認できました。戦いの中で魔王は半透明の獅子を生み出し、無数の透明の針で攻撃し、3体の鬼を呼び出し使役しました。そして、最後の呪術を発動後に付与が外され確認不能となりました。その全ての呪術を発動する時に『呪術:キシカイセ』と言っていました。以上です。》


やっぱり俺は魔王と戦い、何らかの呪術を受けた結果、人間ではなくなり【知識の神の加護】の付与が外れたらしい。しかし、魔王やその呪術の事を聞いても全く記憶が戻る気配はない。ただ、魔王が使っていた呪術の名を聞いた時に何か大切な事のような気がした。


「『呪術:キシカイセイ』か……」


思わず呟くと目の前が真っ白になり俺は意識が無くなった。

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