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047 サイド:魔王アメキリン(8)

俺は何度も刺突を繰り出すが、緑鬼の腹部にある口から発せられる音波で平衡感覚を乱されて、攻撃を当てることができない。


それどころか足元が覚束なくなった俺は、緑鬼の容赦ない攻撃を受け、被弾する場面が増えていく。


「フォル、大丈夫かい? サイガが赤鬼を抑えている間に一気に倒そう!」


アルスが駆けつけて俺に声をかけると同時に、緑鬼に斬りかかる。緑鬼は俺への攻撃を止め、後方に跳び退いて斬撃を躱す。


だが、アルスは振り下ろした剣をそのまま腰まで引き付けて刺突を繰り出した。


アルスの剣が緑鬼の腹部に目掛けて伸びるが、腹部の口を大きく開いてその刺突もなんとか躱す。


――器用なヤツだと感心しかけたが、それは悪手だ!


俺はアルスの脇をぎりぎり掠めながら、槍を緑鬼の腹部を目掛けて突き刺した。


ザシュッ!


腹部の口に深々と刺さった槍を手放した俺は、とっさに後退。すかさずアルスが槍を握り、魔法を発動した。


「放電 (スパーク)」


槍を通じて大量の電気が緑鬼の腹部に流れ込む。感電して痙攣し続ける緑鬼は、しばらくすると黒く変色して跡形もなく崩れ落ちた。


絶縁対策はしているとはいえ不完全だったアルスも、わずかに感電したようだった。


アルスに少し休むように伝え、俺は地面に落ちている槍を拾い上げると、サイガの援護に向かった。





俺は四本の腕を縦横無尽に振り回す赤鬼には、受けずに避けることに徹する。


攻撃を受けて動きを止めれば、四本の腕から放たれる連打の集中砲火を浴びることになる。


神経を擦り減らしながら、紙一重で赤鬼の攻撃を避けていると、フォルが加勢に駆け付けた。どうやら緑鬼は片付いたらしい。


フォルが背後を取ろうと大きく回り込もうとするが、赤鬼も上手く立ち位置を変えて後ろに回らせない。


ただ、フォルも意識しないといけなくなった赤鬼は、俺にだけ集中することができず、攻撃の手を緩まざるえなくなった。


わずかに余裕が生まれた俺は、あえて一撃を受けて赤鬼の動きを止めにかかる。半歩前に出ると、頭を狙った横振りの裏拳が飛んでくる。だが、腰をかがめて最小限の動きで避ける。


続けて少し下がった頭を狙って振り上げた拳が迫るのを、今度は両腕を交差して地面に突き立てて受けた。


わずかに体が浮き上がり体勢が崩れそうになるが、なんとか耐えると顔面を目掛けて正拳が飛んでくる。


歯を食いしばって額を突き出すと、ゴンッと鈍い音が響く。


大きく後ろに仰け反った俺だが、赤鬼も拳が砕けたのか、攻撃が一瞬止まる。その隙を見逃さず、フォルが赤鬼の背後に回り、槍を横薙ぎに振り抜き首を刈る。


ズサッ!


遠心力で力と速度が乗った穂先は、きれいに赤鬼の首を刎ねる。ポトリと地面に赤鬼の頭が落ちて、引きずられるように体も倒れた。


俺は額から流れる血を拭い、フォルに視線を向けると肩で息をしている。緑鬼を倒した後、休む暇なく駆けつけてくれたフォルに感謝する。


横たわる赤鬼に目を戻すと、他の鬼たちと同じように黒く変色し、やがて宙に霧散した。





呪術で生み出した鬼たちも勇者たちに倒されてしまった。絶え間なく続く攻撃を躱しながら、自分に残された選択肢が、わずかしかないことを自覚する。


急に女たちが攻撃を止めると、すぐに勇者たち三人が合流して再び私と対峙する。なんとか攻撃を凌いでいたが、もはやこれまでか……。


もはやこちらから攻撃する気力もなく、立ち尽くす私に、勇者が声をかけてきた。


「魔王、すまないが、ここで死んでもらう。なるべく苦しませたくない。できるなら、これを飲んで自害してくれないか? 苦しまずに死ねるはずだ……」


勇者が腰袋から小瓶を取り出し私に差し出す――おそらく毒だろう。体力も魔素も残っていない私に唯一残っているのは戦う意志だけだ。


……それすら奪うというのか。


自らの手を汚す覚悟も無い。こんな奴らに負けるのか――そう思うと、悔しくて泣きたくなる。だが、それをぐっと堪える。


「……アルス、駄目だ。それは、魔王に失礼だ」


確かサイガだったか……。黒髪の男は、勇者の腕を掴み小瓶を戻すように諭す。


「だけど、サイガ……」

「駄目だ。それだけは絶対に……」


勇者が何か言おうとするが、サイガは頑なに小瓶を戻すように促す。


それでも勇者は決心がつかず、小瓶を差し出す手を下そうとしない。


バリンッ!


サイガは勇者が持っていた小瓶を奪ってとると握り潰す。驚く勇者を見つめて、ゆっくりと首を横に振ると、サイガは一歩前に出て構えた。


「魔王『雨麒麟(アメキリン)』、俺がお前に止めを刺す。全力で抗ってみせろ!」


サイガは真っすぐに私を睨みつけると、拳を前に突き出して叫んだ。


「ふふ、面白いことを言うわね。サイガ、死ぬのはあなたよ(感謝するわ。人族にもマシなヤツがいるのね)」


強く鋭い視線を受けた私は、なぜか少し嬉しくなった。そして、私の中にあるすべてをぶつけてやると覚悟を決める。


突然、サイガは私に向かって全速力で走り出した。勇者たちは手を出さないようだ。立ち尽くして事の成り行きを見守っている。


目前に迫るサイガに鉄扇を振り下ろす。サイガは突進を止めて、腕を振り上げ鉄扇を止める。


ミシっと骨がきしむ音が聞こえたが、お構いなしに鉄扇を払い退けて拳を突き上げると、拳が深々と鳩尾に突き刺さり、私の身体はくの字に折れ曲がった。


強引に下げられた頭を掴まれると――次の瞬間、側頭部に衝撃が走る。こめかみに肘を打ち込まれて鮮血が飛び散る。


堪らず後ろに下がるが、さらにサイガが距離を詰めてくる。私は鉄扇を開き闇雲に横薙ぎに振ると、威嚇のつもりの一撃が、突っ込んできたサイガの額を切り裂く。


すると、額から流れる血で視界を奪われたサイガは、突進を止めて一旦、距離を取った。


「……魔王とはいえ、幼い少女にそんな酷いことをするなんて。あなた、本当に勇者の仲間なの?」


再びサイガと対峙した私は、満身創痍にも関わらず、どこか楽しげに声をかけた。その冗談めいた言葉にサイガは、真っすぐ私を見つめ答える。

「……魔王だろうが少女だろうが、命をかけて戦っている相手に手を抜くつもりはない。勇者の仲間? それも関係ない俺は俺だ。どんなに非難される行為だとしても、すべて俺が受けるべきことだ。誰かのせいにするつもりはない」


額から流れる血を拭いながらサイガは、私の目をしっかりと捉えて言い放った。


「ハハハ、あなた、面白過ぎ。なんだか世界のためじゃくて、自分のために戦っているように聞こえるわ」

「そうかもな。世界って言うが、行ったことない場所や知らない人間がほとんどだ。そんなよく分からないモノの為に命を懸けるほどバカじゃない。俺は、仲間や家族、そういった分かりやすいモノの為に命を懸ける」


その言葉にサイガという人間の本質を少しだけ垣間見たような気がした。


「……そうね、私も家族や周りの人達を守るために魔王になった。正直、魔族も魔神もどうでも良い……。ふぅ〜、すっきりしたわ。サイガ、そろそろ決着をつけましょう」


サイガの言葉を受け、自分の原点を思いだした私は、憑き物が落ちたように清々しい気持ちになった。


もはや悔いも迷いも無かった。


私はサイガと決着をつけるべく、そっと鉄扇を構えた。


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