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20/202

020 サイド:忍者アオ(4)

2話連続投稿の2話目です。

今度は、長くなりました。

<(_ _)>

ボクは地下室で膝を抱えて座っていた。


微かに聞こえるゴブリンの悲鳴や叫び声は途切れることなく続いた。いったい、どれだけの時間が過ぎたのだろうか……。


サイガの無事を祈りながら膝を抱え蹲っていると、突然、地面が揺れ、爆発音や炸裂音が聞こえてきた。


いったい、上で何が起きているのだろうか――顔を上げ天井を見つめる。


確かめに行きたいが、サイガとの約束がある。それに、またボクが暴走してサイガに迷惑をかけるかもしれない。ボクは膝を抱えた腕に力を込めて、ふたたび顔を埋めた。


――しばらくすると、爆発音や炸裂音、悲鳴と叫声……全ての音が聞こえなくなった。ボクは戦いが終わったのだと直感した。


ボクは、自分の勘を信じ、恐る恐る暖炉から出る。


すると、すぐに強烈な血の臭いが鼻を刺激する。死屍累々――何十匹ものゴブリンの死体が積み重ねられ、散乱していた。


さほど広くない部屋は、本当に足の踏みどころはなく、壁一面は血でべったりと塗りつぶされていた。


凄惨な景色が広がる部屋を見渡すが、サイガの姿はなかった。


扉を開け廊下に出ると、そこもゴブリンたちの死体で埋め尽くされていた。


――いったい何十匹のゴブリンを倒したのだろうか。……ふと、窓から外に目を向けると、無数の黒焦げた物体が転がっていた。


それが何か気になったボクは、窓から外に抜け出すと周りを見渡した。


すでにゴブリンの姿はない。死体と思われる黒焦げの物体が、あちこちにあるだけだった……こちらも凄惨な光景が広がっていた。


遠くに仲間たちの姿が見えた。足元には血まみれで倒れているサイガ――そして、その胸に抱きついて号泣しているお姉ちゃんの姿があった。


その光景が目に入った――その刹那、頭が真っ白になり、夢中で走り出していた。


ボクは黒焦げの死体につなづきそうになりながらも、必死に走る。そして、ようやくたどり着くと、息を切らしてサイガの前に立った。


みんながボクに気づいて振り返る。けれど、お姉ちゃんだけはサイガに抱きついたまま、泣き続けていた。


「うそだよね、サイガ。『絶対、生きて』って言ったじゃないか! そして、ボクのことを守ってくれるって約束したじゃないか!」


膝から崩れ落ちたボクは、そのまま横たわるサイガの頭を抱きかかえ泣き崩れる。


アルスが、声をかけづらそうにしている。だが、そんなことはどうでもよかった。


「……アオ、落ち着いてほしい。すごく言いづらいんだけど……その、なんというか、サイガは生きているよ。大きな怪我もしていない。ただ、疲れて寝ているだけなんだ」

「…………。えっ?」


(……じゃあ、なして、お姉ちゃん、そんなに号泣しているの? ていうか、ボク、今、ものすごく恥ずかしいのですけど……)


耳まで真っ赤になって顔を伏せるボクの目の前には、すやすやと寝息を立てるサイガの顔があった。


(あっ、そういえば、ボク、サイガの頭を抱えたままだった……)


そっと、サイガの頭を地面に戻し、ボクは静かに立ち上がる。


「いやー、みんな、ごめんね。心配かけたよね? 別世界では『スマソ』っていうんだっけ? いや~、スマソ、スマソ」

「…………。まぁ、無事そうでなによりだよ。正直、サイガの部下から二人がいなくなったと聞いた時は、かなり焦ったけどね」


優しいアルスは、さっきのことには触れず、ボクの無事を喜んでくれる。その隣で、フォルが肩をすくめながら言葉を引き継ぐ。


「そうだぜ、マヤなんて明らかに動揺してたからな。ひとりで追いかけようとして、止めるのが大変だったんだぞ」


その言葉で、お姉ちゃんがどれだけ心配していたかが胸に迫る。号泣していた理由もわかって、フォルにお礼を言った。


「フォルもごめんね。迷惑かけちゃって。お姉ちゃんを止めてくれてありがとう」


――アルスやフォルにも心配をかけた。みんなのために偵察に出たつもりだったのに、結果的には迷惑をかけただけだった。本当に反省しないといけない。


そう思いながら、いまだサイガに抱きつき泣いているお姉ちゃんを見つめていると、ティアが声をかけてきた。


「アオ、本当にみんな大変だったのよ。マヤなんて、血まみれのサイガを見て、カッとなって……いえ、何でもないわ」

「ティア、ごめんなさい。……で、今の、何を言いかけたの?」


ボクが振り向くと、ティアはさっと目を逸らす。


(……なんで、みんなお姉ちゃんの話ばっかりするのかな?)


お姉ちゃんに視線を戻すと、まだサイガに抱きついて泣いていた。


……もう、いい加減に離れては?


――そして、しばらくすると、サイガが目を覚ました。


「うーん、よく寝た。あれ、アオもいるのか? 起きたら迎えに行こうと思ってたんだが……結構、寝てたか?」

「いや、全然だよ。マヤがゴブリンを殲滅してから、まだそんなに時間は、たってないよ」


サイガは、腰に抱きついているお姉ちゃんを気遣いながら、ゆっくりと上体を起こす。そして、周囲を見渡した後、深々と頭を下げた。


「本当にすまなかった。俺の判断が良くなかった。1人で行くべきじゃなかった」

「だな、サイガ。お前らしくもない。ちゃんと一言、声をかけるべきだったな」


フォルは頷きながら、一言だけ釘を刺した。


「そうだな、フォル。ティアも治療してくれて助かったよ。痛みもかなり引いた」


サイガは再び頭を下げ、ティアに礼を述べるが、ティアは少しむっとしたように否定した。


「……違うわよ、アルスが加護を使って治したのよ、私じゃないわ」

「……そうか。アルス、助かった。指揮や戦闘で疲れてるのに、すまなかった」

「気にしなくていいよ。今回は、ほとんど戦ってないからね」


――みんなが順にサイガと言葉を交わす。


そして、サイガはいつまでも泣き止まないお姉ちゃんに視線を落とすと、そっとその頭に手を置き、優しく撫でた。


――それを見たボクは、胸が少しだけ痛くなった。


「マヤも、ありがとう。あのまま戦い続けてたら、正直、きつかった。マヤの魔法のおかげで生き延びられたよ」

「………………」


お姉ちゃんは顔を伏せたまま頷いた。それを見て、サイガは苦笑する。


「けど、本当にすごいな、マヤの占星魔法は。『火暴絨焼(ヒボウチュウショウ)』だったか……あんな魔法、初めて見たよ」

「………………」


(えっ!? お姉ちゃん、占星魔法なんて使ったの!?)


「火暴絨焼」――巨大な炎の竜巻を発生させ、あたり一帯を烈火の絨毯で覆い尽くす魔法。そして、その熱風による異常上昇気流が生んだ雲が、最後には超強力な雷を落とす――お姉ちゃんの切り札のひとつ。


(……あれ、めちゃめちゃ疲れるから、使いたくないって言ってなかったっけ?)


――いまだにサイガに抱きついたまま泣いているお姉ちゃんを、サイガ以外のみんなが、少し引いた目で見ていた。



――――――――――



そんな昔のことを思い出しながら、稽古に向かうサイガの後をついていく。


(けど、本当に大きな背中だな……どんな修行をしたら、あんな立派な身体になるんだろう?)


その頼もしい背中を眺めながら、ふとそんな他愛ないことを考えていると、突然、声をかけられた。


「アオ、着いたぞ。さっそく始めるか?」

「うん、いいよ。手加減はダメだよ」

「了解! じゃあ、始めるか」


相変わらず鍛錬となるとせっかちなサイガに、苦笑いを浮かべる。そして、ボクは静かに構えを取ると、サイガめがけて全速力で駆け出した。



――――――――――



「やっぱり、サイガは強いね。魔法を使わなかったら、全然、敵わないや」


軽く手を合わせただけで、サイガの驚異的な身体能力を痛感する。


「そうか、アオも強いと思うぞ、スピードは俺よりも上だ。何度も背後を取られそうになった」


その言葉に嬉しくなったボクは、最近覚えた技を披露すると宣言した。


「ほんと!? じゃあ、とっておきを見せてあげる! 『暗駆(あんく)』!」


大きく後ろに跳んで距離を取ったボクは、今度は疾風のごとく全力で駆け出した。


――歩幅や姿勢を強引に変えることで、加減速の差を生み、上半身は上下左右に大きくぶれる。


今のサイガには、きっとボクの姿がぼやけて見えているはずだ。


その証拠に、サイガは目を見開いて驚いている。それに狙いを定められず、突き出された拳にも迷いがある。


その甘い打突を、ボクは上体を低くして躱しながら背後に回り――


がら空きの背中に短刀を突きつけようとした――その瞬間。目の前に、サイガの肘が迫っていた。


右の正拳突きが躱されたと悟ったサイガは、引き手の左腕をさらに引き、限界まで腰をひねって、背後のボクに左肘を打ち込んできたのだ。


「わっ! あたたたた……!」


油断した一瞬の隙に撃ち込まれた反撃――ボクはもんどり打って後ろに倒れ、尻もちをついた。


(……絶対に勝ったと思ったのに。やっぱりサイガには敵わないや)


お尻にじんじんとした痛みを感じながら、また負けたことを悔しがっていると、サイガがゆっくり近づいて声をかけてきた。


「大丈夫か、アオ? すごい技だったぞ! 焦って力加減を間違えた。歩けるか?」


差し出された手を握り、ボクは立ち上がる。けれど、『暗駆』で足腰を酷使したせいか、ふらついてサイガに思わずもたれかかってしまった。


「やっぱり、どこか痛めたか? すまん。俺も修行不足だ。テントまで背負って行こう」


そう言って、サイガは後ろを向いてしゃがみ込む。


ボクがどうしようか迷っていると、サイガが親指を立てて、笑顔で振り返った。


「……やっぱり、サイガには敵わないなぁ」


ボクは小さく呟いて、その大きな背中にそっと身を預けた。


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