表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/202

199 守りたい理由、深まる関係

本日も読んで頂きありがとうございます<(_ _)>

百話ぐらい大幅に構成を変えて、リライトしたいです。

仕事で時間ないけど。。。

 スミノエ様もようやく落ち着き、今は眠っている。その寝顔はどこか疲れていて、私が知っているスミノエ様とは、まるで別人のようだった。


 ――けれど、それも無理はない。


 信じていた神に裏切られ、敵だと思っていた魔人が、実は同じ人間(・・)だったと知った。


 そして、これまで正義だと信じていた戦いが、テンマシンの私利私欲による侵略と略奪だったと気づいたのだから。


 私でさえ、自分の根幹が揺さぶられるほどの衝撃だった。魔法が使えなくなり、自分が魔人になったと知った時ですら――ここまで動揺はしなかったと思う。


 少しだけ、夜風に当たりたくなって、私はアオにスミノエ様のことを任せて、部屋を後にした。


 まだ夜中というほどではないが、新月の夜は思ったよりも暗く、遠くを見渡しても何も見えず、心の奥に不安が募っていくのを感じた。


 言葉にできない感情が胸を満たしていくのを感じながら、私はただ歩き続けた。そして、気がつけば――サイガの部屋の前に立っていた。


 扉を叩き名前を呼ぶと、すぐにサイガが扉を開けてくれた。穏やかな笑顔で出迎えてくれたその顔は、いつもよりも柔らかく見えて――それが少しだけ気になった。


 ――けれど、きっと悪いことではない。そんな直感が、胸の奥に広がった。


 サイガに促されるまま部屋に入り、小さなテーブルを挟んで腰を下ろす。しばらく言葉も交わさず、ただ互いに見つめ合っていると、彼が優しく口を開いた。


「さっきは助かった。スミノエのこと、引き受けてくれて。……それで、どうしたんだ?」


 スミノエ様のことを気にかけながらも、私の様子がどこか違うと気づいたのだろう。サイガは少し心配そうに、私をじっと見つめる。


 そのまっすぐな視線に、私は思わず頬を赤らめてしまい、少しだけ視線を逸らしながらも、私は言葉を返す。


「……ええ、やはり人族の神――テンマシンのことが気になって。世界のために戦っていたと思っていたのに、実は……人間同士(・・・・)で戦っていただけなんて……」


 黙って、私の話を最後まで聞いていたサイガは、ゆっくりと立ち上がり、私の目の前に膝をついた。


 ……自然と顔の高さが揃い、サイガの真っ直ぐな瞳が、私の目を見つめると、私は隠しきれないほど顔を赤らめてしまう。


 そんな私にサイガは力強く、言い放った。


「大丈夫だ、マヤ。何も心配しなくていい。俺が、絶対に守ってみせる。たとえ、それが<神>だったとしても、だ。

 それに、俺から言わせれば――エルフやドワーフを含めた、すべての人間がテンマシンの被害者だ。責められるべきは、あの自称神だけだ」


 ……その言葉には、不思議な力が宿っていた。


 さっきまで胸を覆っていた、言いようのない不安がすうっと消えて、代わりに揺るがぬ温もりが心の中に広がっていく。


 ――やっぱり、私はサイガがいないと、ダメなんだ。情けないくらい、そう痛感するけど、それを嫌だとは思わなかった。


 むしろ――そんな自分を、少しだけ愛おしく思えた。それはきっと、サイガと一緒なら、私はどこまでも強くなれると信じているから。


 今もなお、顔を逸らさず私を見つめ続けているサイガ……。

 その頬に、そっと両手を添えると、驚いたように息を呑んだサイガを無視する。

……そして、私は目を閉じ――静かに、唇を奪った。





 鼻先にあるマヤの顔を、微動だにせず見つめ続けていた。


 突然の出来事に、頭は混乱して何が起きたのか理解できず――瞳を閉じたマヤから目を離すことができなかった。


 ……ただ、唇から伝わってくる熱い吐息だけを、確かに感じる。


 その温度が、唇から全身へと伝わり、熱病のように身体を焦がし、心までも燃やしていくようで――俺の鼓動はどんどん早くなる。


 本当に、何も考えられなかった。


 ただ呆然としている俺から、マヤが離れると、そっと立ち上がった。


 ――その瞬間、身体が固まって動けなかった俺は、情けなく尻餅をついてしまった。


 そんな俺を見て、優しく微笑んだマヤは、指を唇に当てて小さく頷くと――何も言わず、部屋を後にした。


 情けなく床に座り込んだままの俺には、何も言葉が出てこない……ただ、その後ろ姿を、黙って見送ることしかできなかった。





 少しだけ元気になって戻ってきたお姉ちゃんの顔を、不思議そうに見ていると――お姉ちゃんは、いつになく優しく微笑んで、ボクに「少し休みなさい」と言ってくれた。


 ちょっと聞きたいこともあったけど、いろいろあって疲れていたボクは、お姉ちゃんの言葉に素直に従い、自分の部屋へ戻ってしばらく休むことにした。


 ――そして、翌朝。


 目が覚めたボクは、お姉ちゃんにスミノエさんのことを任せていたのを思い出し、急いで部屋へと向かった。


 途中、ふと窓の外を見ると――中庭で、早朝から鍛錬をしているサイガの姿が目に入った。


 お姉ちゃんには少し悪いかなと思いつつ、中庭へと出て、サイガのもとへ駆け寄る。


「おはよう、サイガ! 昨日の今日なのに、相変わらず元気だね!」


 突然、背後から声をかけられたサイガは、思わず身体をビクッと跳ねさせ、振り向いてから苦笑いを浮かべた。


「なんだ、アオか。おはよう。……相変わらず気配を消して、人を驚かせるのがうまいな」


 その言葉に、ぷくっと頬を膨らませて抗議する。


「『なんだ』はないよ、サイガ! それに、ボクは忍びだから、気配を消すのは癖なんだってば!」


 そんなボクに、サイガはさらに苦笑いを深め、軽く頭を下げ謝ったあと、心配そうな顔で尋ねてきた。


「悪かった悪かった。それよりアオ、ずいぶん早いな。昨夜はスミノエの世話も頼んだし、疲れてるんじゃないのか?」


 そう言って、じっとボクの顔を見つめてくるサイガに、なぜか心臓の鼓動が少し早くなる。それを誤魔化すように、わざと明るく声をあげた。


「うん、大丈夫、大丈夫! 途中でお姉ちゃんが代わってくれたから。それより、サイガこそ大丈夫? よく見ると、目の下にクマができてない?」


 ボクは心配になって、サイガの顔を覗き込むように見上げる。すると、サイガは少しだけ顔を赤らめた。


 その様子が不思議で首を傾げると、今度はサイガが照れを隠すように、やや早口で話し始めた。


「まあな、昨日は色々(・・)あったからな。俺も柄にもなく考えすぎて、ちょっと寝不足だ」

「へぇ~、サイガでも眠れない時があるんだね!」


 そう言ったボクの言葉に、サイガは再び苦笑して、肩をすくめた。そして、ふと遠くを見つめながら、口を開いた。


「……俺は、近いうちに人族領に戻る。そして、自称神――テンマシンを倒して、人間への干渉を止めさせるつもりだ」


 ――その瞬間、ボクの頭の中が真っ白になった。


 もう、ボクたちが人間に戻る必要はない。なのに、テンマシンに洗脳された人たちが暮らす人族領へ戻る意味なんて……まったく分からなかった。


 正直、このジュウカン領で、サイガとお姉ちゃんと三人で暮らしていければ、それでいいと思っていた。


 だけど――サイガは、わざわざテンマシンを倒しに行こうとしている


 ボクは思わず、声を張り上げてしまった。


「何を考えてるの、サイガ! ここで、ボクとお姉ちゃんと三人で暮らせばいいじゃないか! せっかく、トガシゼンさんとの戦いも終わって、『人間に戻る』っていう目的も達成したのに!」


 いつもより激しく感情をぶつけ、目に涙を浮かべたボクに、サイガは一瞬目を見開く。


 ――けれど、すぐに首を横に振り、穏やかな声で語りかけてきた。


「いいや、それじゃダメだ。人族領には、仲間や家族がいるはずだ。そいつらを放っておいて、俺だけが幸せに過ごすなんて、できない。それに……ここまで知った以上、テンマシンが手を出してこないはずがない」


 そう言ってサイガは、優しくボクを見つめたあと、ポンっとボクの頭に手を置いて、言葉を続けた。


「別に人族全員を敵に回すつもりはない。邪魔する連中は全部無視して、テンマシンのところへ一直線に突き進んで――ぶん殴って、説得(・・)する。それだけさ」


 冗談っぽく笑いながらそう言うと、サイガは少しだけ声を落として、ボクの頭を撫でてくれた。


「……俺には、人間だった頃の記憶はあまりない。でもな、家族ってのは、やっぱり大事だと思うんだ。たとえ勘当されたとしてもな。

 アオやマヤの両親が、洗脳されたままお前たちと敵対するようなことになったら――嫌だ。……それに最悪、人質に取られるかもしれない」


 その言葉に、ハッとする。たしかに、それは十分にありえる。


 外交目的の婚約から逃げ出して勘当されたけれど……母さんたちは、それでもずっとボクたちを見守ってくれていた。


 もし、そんな母さんたちが人質になって、最悪――命を奪われでもしたら。そう思った瞬間、心が冷たく凍っていく。


 俯いて動けなくなったボクの頭を、サイガは変わらず優しく撫でながら、声をかけてきた。


「大丈夫だ。だから俺が行くんだ。……アオにだけ言うけどな、俺の本当の目的は、アオやマヤを守ることなんだ。

 他のことは、正直どうでもいい。好きな人を守りたい――それだけの、ただの脳筋(・・)な理由だ。

 ……まあ、周りには『人間のため』って言うけどな」


 そう言って、サイガは手を止めると、最後にもう一度ポンっと頭を叩き、満面の笑みを浮かべた。


 その笑顔に、ボクの顔は一気に熱くなり、耳まで真っ赤になる。


(……ずるいよ、そんな顔見せられたら、何も言えないじゃないか)


 熱く火照った顔を隠すように、呪術を発動する。


「呪術:潜沈染零 (ゼンシンゼンレイ)!」


 ――次の瞬間、サイガの目の前から、ボクの姿が完全に消えた。


 消えたことに気づいたサイガは苦笑いを浮かべながら、きっと戻っただろう屋敷を見つめていた――


 その時。


 目の前に突然ボクは現れた。


「うわっ! って、アオ――」


 驚いて口を開こうとしたサイガのその唇を


 ――ボクは、勢いよく塞いだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価をお願いします。励みになります!


また、

『魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる』(完結済み)

『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたいのですが、王女や聖女が許してくれません~』

も連載中ですので、興味がありましたらご覧ください。


これからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ