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191 血の宝石が語る真実

私は、リンさんとララさんの気持ちが落ち着き、姉妹の仲に溝が生じなかったことに、安堵の息をついた。


そして、周囲を見渡すと、他の皆もスミノエ様の話を聞く覚悟が決まったように見えた。


――そのとき、サイガがスミノエ様に向かって、重く低い声で口を開いた。


「……ここなら、いいだろう、スミノエ? お前が知ってることは、すべて話してもらう」


その言葉を受け、スミノエ様はすっと笑みを消し、能面のように無表情になった。


翡翠色の瞳からは光が失われ――その色は、黒に近い深緑のような濁った色合いへと変わっていた。


――スミノエ様は、私、アオ、サイガへと順に視線を移し、短く息を吐いた。そして、ゆっくりと周りを見渡すと、席に座るよう促し、静かに口を開く。


「もう一度、聞くけど、話してもいいのね? 本当に、後戻りできなくなるわよ?」


いつもの陽気で歌うような口調ではなく、どこまでも暗く、事務的な響き――。


そんな声に、私は少しだけ驚く。だが、覚悟はすでに決まっている私は深く頷き、周りを見ると、誰一人として席を立つ者はいなかった。


スミノエ様は、達観したような表情を浮かべると、わざとらしく陽気な調子に戻り、笑みを浮かべる。


――けれど、その笑みには、どこか自嘲めいた……そんな影が差していた。


思わず私は、スミノエ様が心配になり声をかけようとした――その時、努めて明るく、彼女は口を開いた。


「本当に、みんな、いい度胸してるわね。いいわ、話してあげる。この世界の真実を……」


『世界の真実』――いきなり飛び出したその言葉に、部屋の全員が息を呑んだ。


なぜ、私とアオが魔族になったと分かった話が、『世界の真実』と繋がるのか誰も理解できなかった。


――そんな私たちの動揺をよそに、スミノエ様は淡々と話を続ける。


「……まず、なぜ私がマヤたちを魔族だと分かったのか。それは簡単よ。私の呪詠(・・)が、二人にも影響したから。この呪詠は、神から下賜された力――」


そこで言葉を止めて、スミノエ様は胸元に下がる首飾りの宝石を見つめ、それこそが魔族のみに影響を与える呪詠の力の源だと語った。


――その赤く怪しく光る宝石は、容姿媚態のスミノエ様に良く似合っていた。


しばしの間、部屋にいる全員が深紅の宝石を見つめる――と、突然、今まで沈黙を守っていたトガシゼン様が、低い声で尋ねた。


「おい、エルフの女。なぜ、その宝石から祖母の呪い(におい)がする……?」


その言葉の意味を誰も理解できなかった。全員が宝石からトガシゼン様へと視線を移し、驚愕の表情を浮かべた。


――ただ一人、スミノエ様を除いては……。


トガシゼン様の鋭い視線を受けても、彼女は気にした様子もなく受け流した。


それでも、魔族に君臨する魔神の殺気は凄まじく――よく見ると、彼女の頬には一筋の汗が伝っていた。


……わずかに動揺しながらも、スミノエ様は余裕の態度を崩すことなく、トガシゼン様に向かって口を開いた。


「さすが、()といったところかしら。……それとも、最強の魔族・魔神だから、分かったのかしら――」


スミノエ様は、いまだに睨みつけるトガシゼン様をまっすぐ見つめ返す。そして、胸元に飾られた深紅の宝石をそっと握り込む。


その仕草には全ての罪を告白する覚悟のようなものを感じた。


……そして、彼女は感情をすべて殺し、ただ事実だけを突きつけるように語った。


「そうよ。この宝石は――あなたの祖母、テンマココロの()でできてるわ」


もはやその言葉に、誰もが口を閉ざし、息をすることすら忘れていた。


――そんな、重く深い沈黙が場を支配する中、サイガが静かに口を開いた。





スミノエの言葉は、あまりにも衝撃的だった。


マヤとアオは目を大きく見開き、リンとララ、それにライは、唇を強く噛みしめながらスミノエを睨んでいる。


――そして、トガシゼンは無言のまま立ち上がり、スミノエのもとへと詰め寄ろうとしていた。


俺は、そっとその肩に手を置く。


すると、トガシゼンはゆっくりとこちらへ振り返った。……その表情は、怒りなのか、悲しみなのか判別できなかった。


――ただ、確かにわずかに歪んでいた。


正直、そのままトガシゼンの気の済むようにさせてもいいのかもしれない――そう思った。


だが、俺たちはまだ、何も知らされていない。だからこそ、今は決断すべきではない。


そう考えた俺は、無言で首を横に振り、肩に添えた手に力を込めて、ゆっくりとトガシゼンを座らせた。


まだ理性を保ち、俺の意図を理解してくれたトガシゼンに、感謝の意を込めて視線を落とす。


――そして、顔を上げてスミノエを見据え、容赦なく圧力を込めた声で問い詰める。


「おい、スミノエ。知っているなら教えてほしい。トガシゼンの祖母・テンマココロは、生きているのか?」


――その言葉に、部屋中に緊張が走る。


誰もが、そこに思い至っていなかったのだろう。


トガシゼンは三百年以上を生きる伝説の魔神。その祖母ともなれば、少なく見積もっても四百歳以上――到底、生きているとは思えない。


だが、スミノエの胸元で妖しく光る深紅の宝石からは、魂が染みついた魔素の気配を感じた。


だからこそ、トガシゼンも祖母の呪い(におい)を感知することができたのだろう。


重々しい空気が再び、この場を支配する中、スミノエはただ一人、いち早く緊張から脱すると、肩をすくめて口を開いた。


「相変わらず、妙に勘がいいわね。アンタのそういうところ、大っ嫌い。……でも、どのみち話すつもりだったから、まあ、いいわ」


スミノエは俺に向けて、少しだけ嫌そうな顔を見せると、短く息を吸い、話を続けた。


「ええ、生きてるわよ。トガシゼンの祖母にして、私たちの神に逆らった魔族の始祖・テンマカイの娘――テンマココロは、今も神の聖地『ジンガイマキョウ』で保護されているわ」


『ジンガイマキョウ』――その言葉を聞いた瞬間、マヤとアオだけが顔を青ざめさせた。


他の者たちは、その言葉の意味を知らず、ただテンマココロが今も生存しているという事実に驚き、目を見開いていた。


俺は、スミノエから視線を外し、青ざめる二人にそっと声をかけた。


「二人とも……大丈夫か? なにか気になることがあったのか?」


その問いにマヤとアオは、はっとしてこちらを振り返るが、顔色は変わらぬままで、明らかに何かに怯えている様子だった。


そんな俺たちの様子を見ながら、スミノエがゆっくりと口を開いた。


「まあ、二人が怯えるのも無理はないわね。人族なら、小さいころから、ずっと刷り込まれてるもの……。世界を滅ぼす最悪の厄災が封印された、絶対不可侵の大地――『人外魔境(ジンガイマキョウ)』ことは」


『人外魔境』――その言葉を口にしたスミノエは、静かに目を閉じた。そして、再び目を開くと、世界の真実について、改めて語り始めた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価をお願いします。励みになります!


また、

『魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる』(完結済み)

『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたいのですが、王女や聖女が許してくれません~』

も連載中ですので、興味がありましたらご覧ください。


これからもよろしくお願いいたします。

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