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019 サイド:忍者アオ(3)

今回は短めになったので、2話連続で投稿したいと思います。

<(_ _)>

建物はすっかりゴブリンたちに包囲されていた。さっきアイツを襲った時とは違い、今度は慎重に、じっとこちらの様子をうかがっている。


そんな中、サイガは自信たっぷりに笑いながら、ボクの頭に手を置いた。自然と視線が上がり、視界の端に、自分の黒髪が揺れるのが見える。


――ボクは、この少しクセのある黒髪があまり好きじゃない。まっすぐに伸びた、お姉ちゃんの髪がずっと羨ましかった。


そういえば前に、跳ねた髪を梳いてたとき、サイガが「アホ毛だな」って笑ってたっけ――。


そんなどうでもいいことを考えるくらい、サイガの笑顔はボクを安心させてくれた。


……心に、ほんの少し余裕が生まれる。


「で、サイガ、妙案とはいかに?」

「さっき屋根から飛び降りて、屋敷に入ろうとしたんだが……露台がなくて困ってな。仕方なく屋根を見回したら、煙突を見つけた。そこから中に入ったってわけだ」


突然、屋敷に侵入したときの話を始めたサイガ。意図が読めず、ボクはじっと顔を見つめる。


すると、サイガは少し苦笑いを浮かべながら、話を続けた。


「そこで、面白いものを見つけたんだ。暖炉の奥に、地下へと続く入口があった」


その言葉に、ボクははっとした。屋敷に忍び込んだとき、床下から聞こえたあの声を思い出したのだ。


「あっ! アイツ、そこに隠れてたのかも!?」

「……??? ま、そいつが誰かは知らんが、軽く覗いた限りでは、誰かが潜んでいる様子はなかったぞ」


――どうやら、ボクが気づいたことでアイツは逃げ出し、サイガが後から地下を見つけたということみたいだ。


とにかく、地下に隠れてやりすごすというのが、サイガの提案なのだと分かった。


これなら――生き延びられるかもしれない。ほんの少しだけ希望が灯る。そんなボクに向かって、サイガは真剣な目で言った。


「幸いなことに、その部屋には小さな換気口しかないし、入口も扉ひとつだ。どれだけの大軍が来ようと、相手にする数は限られる。ここでなら、やりようはある」


(……サイガは何を言っているのだろう? 地下に籠って嵐が過ぎるのを待つんじゃないの、戦う? どういう意味?)


サイガの言葉に一瞬、思考が停止した。だが、すぐにその意味を理解しようと必死に頭を動かすが、意味が分からない。


ボクは、思わず語気を強めて叫んでいた。


「ちょっと、待った! 戦うって、どういうこと? 地下に籠るんじゃないの?」

「ああ、そうだ、アオには地下に隠れてもらう。俺ひとりの方が戦いやすい」

「いや、いや、サイガも地下に籠ろうよ。わざわざ戦う必要もないでしょ、ゴブリンたちが諦めるまで隠れていようよ!」


ボクは必死に引き留めようとするが、サイガは一向に引く気がないようで、静かに首を横に振った。


「ダメだ。きっとヤツらは俺たちを殺すまで諦めない」

「『きっと』って、なんでそんなこと言い切れるの?」

「カンさ、カン」


サイガはこめかみを指でつつきながら、そう言った。


――『カン』って、確かに異様な雰囲気をもったゴブリンたちだけど……勘で命を懸けてまで危険な選択をとる必要はない。


それに少数を相手に戦うっていうけど、相手は200匹以上はいる。どれだけの時間戦い続けないといけないんだ。


――無理、絶対に無理だよ!


頭がぐちゃぐちゃになったボクは、泣きそうな顔でサイガを見上げる。


「俺の流派には千人組手っていう修行がある。ざっくり言うと1対1の組手を千人相手に行う、そんな荒行だ。まぁ、千人も集めることなんて無理だから、五十人ぐらいを相手に何回も組手を行うのだが……」


サイガはボクの頭を優しく撫でながら、静かに語りかける。


「俺も挑んだことがあるが……326人目でぶっ倒れた。ゴブリンたちの数も同じか、少ないくらいだろう。まぁ、良い修行ってことさ」


そこで、サイガは笑って、手を止めると、泣きそうなボクを励ますように軽く頭をポンと叩く。そして、真剣な表情になり、重く低い声で口を開く。


「……だから、もう時間がない。さっさと暖炉の部屋に行くぞ、ヤツらが来ちまう」

「だったら、ボクも戦うよ、1人より2人の方が良いに決まってる!」


サイガの言葉にボクは、必死に反対する。だが、サイガの意思は強く、黒い瞳には譲れない思いのようなものが見えた。


「ダメだ。俺は前衛小隊の隊長だ。特別小隊のお前を守るのが俺の役目だ。命を懸けて役目を全うした部下の誇りを隊長の俺が汚すわけにはいかない」

「でも、でも………」


頭にあるサイガの手を両手で握り、縋りつくように見上げる。


すると、サイガは真剣な表情から笑顔に変え、優しく握られた手をほどく。


――あぁ、ダメだ、もうボクが何を言っても、サイガは変わらない。強引にでもボクを地下に押し込めるだろう……。


「……わかったよ。……でも絶対に生きて、生きて帰ってきて!」


――その言葉を最後にボクたちは何も言わなくなり、しばらく沈黙が続いた。


これ以上、きっと言葉なんていらない――


ボクとサイガは暖炉のある部屋へ無言で向かった。


暖炉のある部屋の中に入り、ボクが振り返ると、サイガは頷いて扉の方を向いた。そして、いつゴブリンたちがなだれ込んでも、大丈夫なように扉の方に意識を集中する。


とっさに声をかけようとして、その口を閉じる。ボクはサイガを引き留めようとする気持ちを押さえ込んで暖炉の方へ歩く。


――ふたたび、暖炉の奥へ入る瞬間、後ろを振り返る。けど、サイガは振り返らず、大きな背中を見せつけ、力強く親指を立て、無言で頷いた。


お読み頂き、ありがとうございます。

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