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173/202

173 進化する魔物と魔人

本日より、夜の投稿に切り替えさせていただきます<(_ _)>

仕事の都合による変更となり、いつも読んでくださっている皆様には申し訳ありません。

「転生忍者」は、変わらず木曜の昼に頑張って更新していきます!

私は、眠りから目覚めた部下からサイガたちの修行の様子を報告され、思わず頭を押さえた。


あまりにも常識外れな内容に、あの方(・・・)たちに一体どう報告すればいいのか……考えるだけで頭が痛い。


――サイガに渡した短刀には、ある呪いをかけてあった。


それは、私の部下の中で唯一、捜査系の呪術を扱える者が、自らの命を削って発動したものだ。


その呪術――『()(マイ)夢知(ムチ)』は、道具に術者の意思を埋め込み、その道具から得られるあらゆる情報を、夢の中で見ることができる。


サイガを見張らせるため、特別な薬で二週間以上眠り続け衰弱しきった部下に、私は労いの言葉をかけ、しばらくの休養と十分な報酬を渡した。


そして、召使いに医務室への付き添いを命じると、私は再び深く溜め息をつく。


……呪術も使わず、肉体のみでシーサン平野の魔物を全滅させたバカ共のことを、いったいどう説明すればいいのか――頭が痛い。


――それでも、いつまでも待たせるわけにはいかない。


私は、何と報告すべきか悩みを抱えたまま、重い足取りで、あの方(・・・)たちの使いが待つ玉座の間へと向かった。





「ようやく、全員、第4段階まで呪術を覚えることができたわね」


私は、地面に手をついて肩で息をするマヤとアオに、優しく声をかけた。


――この三週間で、二人はついに二つの呪術を習得し、私と同じく第4段階の呪術すべてを身につけるに至った。


人間から魔人になって、まだ半年も経っていない。それにもかかわらず、この短い期間で、最上位の魔族の証である第4段階の呪術を習得してみせた。


その類まれな才能に、私は修行中、何度も驚かされた。


正直、すでに私たち三人とも、魔王の領域を超えている。おそらく、魔王選定の儀の頃のサイガよりも、今の私たちのほうが強いはずだ。


だが、それほどに強くなったとしても、トガシゼンとの決闘に参加できるのは、たった一人だけ……。


私たちが新たに覚えたすべての呪術は、どれもライの呪術の代わりにはなり得なかった。


それはつまり──ライの決闘への強制参加が決まったことを意味する。そして、あと一つの枠を巡って、私たち三人が戦うしかないということだった。


「ありがとうございます、リンさん。これなら、なんとかトガシゼンさんが相手でも戦える自信が持てました」

「本当に感謝してるよ、リンちゃん。でも、何度か殺されかけたことは忘れてないからね」


マヤは礼儀正しく頭を下げ、アオは、あの無茶な修行を思い出したのか、半目で私を睨んできた。


そんな二人に苦笑いを浮かべた私は、すぐに表情を引き締め、静かに語りかける。


「二人とも、本当にご苦労様。まさか、たった三週間で二つも呪術を習得するとは思わなかったわ。だけど、これで──お互いに悔いなく戦うことができるわね。今日は、かなり疲れたでしょう。だから、明日はしっかり休んで。そして二日後……戦いましょう。誰が、サイガと共にトガシゼンへ挑むかを決めるために」


その言葉に、マヤもアオも表情を引き締めて深く頷いた。


私も二人をまっすぐに見つめて、静かに頷き返す。そして私は、決闘の立会人を頼むため、上空から様子を見守っていたオテギネさんの配下の魔鳥へ、意思を飛ばした。





俺は、地面に横たわるライを担ぎ上げ、丘の上にあるテントまで運んだ。


「おい、大丈夫か、ライ?」


テントの中で横たわったままのライに静かに声をかけるが、目を開ける気配はまったくない。


仕方なく、しばらくはこのままにしておこうと判断し、俺はテントの外へ出た。目の前に広がる、魔物の姿がひとつも見えなくなったシーサン平野を黙って見下ろす。


――ライとの修行を始めて、三週間が経った。


これまで何度も魔物を全滅させてきたが、翌日になると深大奈落から再び大量に湧き出し、あっという間に平野を埋め尽くしていた。


だが、そんな日々を繰り返すうちに──ついに魔物たちは、深大奈落から現れなくなった。


俺は誰もいない平野を、ぼんやりと眺めていると──視界の端に、わずかな空気の揺らぎを捉えた。


平野の隅で起きたその小さな変化は、徐々に広がりを見せ、やがて平野全体へと波及していく。


その次の瞬間──突如として、大量の魔物が姿を現した。


忽然と出現した魔物たちに驚いた俺は、すぐに魔眼を開き、情報を集める。そして、大量の魔素を代償に、何が起こったのかを探った。


どうやら、擬態や認識阻害の能力を持つ魔物たちが、深大奈落から多く湧き出てきたらしい。


理由も理屈もよく分からないが……おそらく、俺たちがあまりにも多くの魔物を狩ってしまったせいで、<環境に適応した新たな魔物>が出現し、ある程度の数が揃うまで身を潜めていたのだろう。


たった数日で肉体の構造を変化させる──そんな魔物の驚異的な進化には、さすがに驚かされる。


だが、魔法を使わず、火を吹いたり氷を生み出す器官を備えた魔物もいる。擬態や認識阻害であれば、それほど進化に時間は必要ないのかもしれない。


とにかく、今は目の前に現れた大量の魔物をどうするか考えなければならない。


――ただ、このまま全滅させるのは簡単だ。


だが、そうすれば、次の<環境に適応した新たな魔物>が生まれてくるだけだ。


かといって、このまま放置すれば、擬態や認識阻害を持つ魔物たちは、その能力で身を隠し、平野を抜け出して村や町を襲う危険がある。


しばらく考え込んだものの、結局、決定的な手段は思いつかなかった。


俺は覚悟を決めると、目の前に現れた魔物たちに向かって、新たに覚えた第5段階の呪術(・・・・・・・)を発動した。


「呪術:似心化法 (ニッシンゲッポウ)」


カミニシの呪術、逡複太刀(シュンプウタイトウ)を思い浮かべながら術を展開すると、もう一人の自分が太刀を構えて姿を現す。


同じように太刀を手にした俺は、相変わらずよく分からない呪術だと思いながら、苦笑を浮かべる。


それと同時に太刀を地面へと突き立て、術が解ける前に、続けて呪術を発動する。


「呪術:弐迅牙砲 (ニッシンゲッポウ)」


互いの両手に深紅の魔素が集まっていくのを確認した俺たち(・・・)は、威力よりも範囲を重視して、平野一帯に向けて魔弾を放つ。


四つの魔弾は、地上に届く直前で炸裂すると、紅蓮の流星となり、魔物たちへと降り注いでいく。


逃げる間もなく襲いかかる魔弾の豪雨に、魔物たちは一瞬で殲滅された。


その光景を見届けながら、隣にいた『もう一人の俺』へと目を向けると、すでにその姿は消えていた。


――本当に、何が条件で、何が制限なのか……よく分からん。


そう思いながら苦笑いを浮かべるが、とにかく目的は果たせたと安堵して、心の中でカミニシに礼を述べる。


無数の魔物の亡骸が横たわるシーサン平野は、再び静けさを取り戻す。その光景を眺めた俺は、丘を駆け下りる。


用心しながら周囲を見渡し、わずかに残った魔物を片づけながら──すべての魔物たちを生み続ける深大奈落(・・・・)へと歩を進めた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価をお願いします。励みになります!


また、

『魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる』(完結済み)

『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたいのですが、王女や聖女が許してくれません~』

も連載中ですので、興味がありましたらご覧ください。


これからもよろしくお願いいたします。

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