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166 修行の誓い、選ばれる覚悟

ボクたちが港に着くと、そこには巨大な漆黒のドラゴンが待っていた。


決闘の時にも、その姿は見ていたが、改めて目にすると、その巨体が空を舞う光景は、まさに圧巻だった。


本来、魔物であるドラゴンは、その巨大な身体ゆえに飛ぶことはできない。けれど、このドラゴンは違っていた。


音もなく飛翔し、サイガとトガシゼン様の戦いが終わるまで、ずっと上空に静かに待機していたのだ。


そして、最後、トガシゼン様にかけられた呪いが発動した瞬間、まるで風のように舞い降り、魔素が枯渇していたサイガたちを、迷いなく救出してくれた。


「さっきは助かった、オテギネさん。あのまま地上にいたら、あっという間に魔素を吸われて、命の危機だったかもしれない」

<気にするな、サイガ。我もよい戦いが見られて満足だ。……久しぶりだったな、あの血沸き肉躍る感覚は>


サイガが「オテギネさん」と呼んだ漆黒のドラゴンは、重く、どこか荘厳な意思をこちらに飛ばしてきた。


その声はサイガだけじゃなく、隣にいたボクたちの頭の中にも、はっきりと響いてくる。


これほど明瞭な「声」として、魔族からの意志を受け取ったのは、ボクも初めてだった。


驚きながら、お姉ちゃんと顔を見合わせていると、サイガがボクたちに説明を始めた。


「この人は、魔竜のオテギネさんだ。魔族領でも三本の指に入る実力者で──昔、すごく世話になった。俺がこうして人間に戻るための旅を続けられてるのも、オテギネさんのおかげだ」


サイガが説明を終えると、オテギネさんがゆっくりと上空から降りてきて、ボクたちの目の前に静かに着地した。


間近で見るオテギネさんは、その巨大な身体に圧倒されそうになるくらい迫力があった。


――それに、全身を覆う漆黒の鱗は、どれも艶やかに輝いていて、ボクがこれまで遭遇したドラゴンたちとは、まるで別の生き物みたいだった。


<……そうだろう。地面を這いずる矮小なドラゴンと一緒にされては困る。我は、空を支配する魔竜なのだからな>


どうやらボクは、知らないうちにオテギネさんにも分かるくらい強く思ってしまっていたらしい。


ボクの気持ちを感じ取ったオテギネさんは、どこか誇らしげに、重厚な意思を飛ばしてきた。その様子に、サイガは苦笑いを浮かべながら、小さく呟いた。


「まぁ、事実だから仕方ないが……」


オテギネさんの尊大な態度を、サイガはちゃんと受け止めていた。その様子に満足したのか、オテギネさんも深く頷くと、サイガに視線を向ける。


<それで、サイガ。これからどうするつもりだ。やはり、我が治める「不死の森」で修行するのか?>

「ああ。リンやマヤ、アオには、そっちで修行してもらおうと思ってる。……でも、俺とライは、別の場所で修行するつもりだ」


突然の言葉に、ボクとお姉ちゃんは、思わずサイガの方へ視線を向けた。サイガは、ちょっと頬を掻きながら、バツが悪そうに説明を始めた。





「――――というわけで、俺とライは、以前行ったトンハイ領のシーサン平野で修行しようと思っている」


俺がなるべく理解してもらえるように、丁寧に言葉を選びながら説明すると、アオもマヤも、渋々ではあったが、なんとか納得してくれたようだった。


なぜ、俺がライを修行の相手に選んだのか……その理由ははっきりしている。


――それは、ライの持つ第4段階の呪術にある。


正直、以前対戦した時は、何の意味があるのか分からなかった。だが、トガシゼンとの決闘では、あの呪術がまさに切り札となり得る能力を持っていると実感した。


それに俺とライの戦い方は、どこか似ている。もちろん呪術も使うが、どちらかと言えば、格闘を主として好んで戦う。


一方、それに対して、アオたちは呪術の性能を遺憾なく発揮して戦うのが得意だ。それに三人は、まだ新たな呪術を習得できる可能性を持っている。


だが、俺とライはすでに第4段階までの呪術を覚えている。トガシゼンの話では、俺にはさらに第5段階の呪術を覚える可能性があるらしいが……。


とにかく、修行をする上でも、同じ戦い方をする者同士の方が、互いに助言もしやすいし、参考にもなるだろう。


そう考えて、俺は二手に分かれて修行したいと締めくくった。ついでに、ライは仮にも俺の弟子だから、そばで直接指導したい──と付け加えたところで、背後から声をかけられた。


「なるほどね、わかったわ。たしかにアンタの言うことは一理あるわ。けど、ライの呪術が必要ってことは、マヤもアオも、決闘には参加させないってことになるけど、二人はそれでいいの?」


いつの間にか現れ、会話に加わったリンは、頭から血を流し、両頬をパンパンに腫らしたライを引きずりながら近づいてきた。


そして、ライを地面に放り投げると、そのままマヤとアオに視線を向ける。


リンの目には、何か言葉にできない含みのようなものが宿っていた。だが、俺にはそれが何なのか分からず、ただ様子を窺うしかなかった。


マヤとアオもまた、俺と同じように何かを感じ取ったらしく、いつもより真剣な眼差しでリンを見つめた。


……やがて、沈黙を破るように、マヤが口を開く。


「……それは、もちろん、悔しいです。……でも、それを決めるのはサイガなので。トガシゼン様との決闘でライ君が必要だというなら、それに従うしかないと思っています……」


マヤはリンの問いを受け、必死に飲み込もうとしていた気持ちを、また、かき乱されながらも、自分に言い聞かせるように、小さく答えた。


その様子を見ていたアオが、マヤの気持ちを代弁するかのように一歩前へ踏み出し、リンに向かって力強く語りかける。


「お姉ちゃんも言ったけど、悔しいよ。だけどさ、リンちゃんはサイガとの約束があるんだから仕方ないし、それに、ライ君の呪術が必要だっていうなら、どうしようもないじゃないか。

戦う前も言ったけど、ボクもお姉ちゃんも、サイガと一緒に戦って、支えたいって気持ちは、誰にも負けないつもりだよ!」


アオは、最後の方は感情を抑えきれず、少し語気を荒げながらも、なんとか気持ちを伝えきった。


マヤとアオの言葉を静かに聞いていたリンは、ふっと小さな笑みを零すと、落ち着いた声で二人に向かって口を開く。


「やっぱりね。納得できるわけないよね。逆の立場だったら、私もきっと同じだったと思う。いいわ、ならこうしましょう。修行を終えた時、三人で戦って、勝った者がサイガと一緒に戦える──それでどう? その方がお互いに修行にも身が入るし、いいでしょ?」


リンの言葉に、マヤとアオは少し目を見開いた。けれど、すぐにリンと同じように笑みを浮かべ、大きく頷いた。


その様子を黙って見ていたオテギネさんから、重く、心に響くような声が頭の中に伝わってくる。


<ふははは、サイガもなかなか罪作りな(おとこ)よ。よかろう、我もマヤとアオのことが気に入った。

リンとまとめて、不死の森で面倒をみてやろう。それに、三人とも新たな呪術を習得できる可能性を持っている。

もしその力が、ライの呪術と同じか──あるいはそれ以上に有用なものとなれば、そやつの代わりに戦いに参加することもできよう……>


オテギネさんの優しげな視線を受けて、マヤが礼儀正しく頭を下げる。隣ではアオも勢いよくお辞儀し、その横にリンも並んで、同じように感謝の意を示した。


そんな三人の様子を微笑ましく見守っていると──不意に、足元を引っ張られる。


「……し、師匠、俺のことを忘れてもらったら、困るぜ……」


聞き覚えのある情けない声に、とっさに足元を見ると、僅かに原形を留めた顔で、俺を見上げるライの姿が目に飛び込んできた。


その惨状を見て──意識を失わせず、絶妙な力加減で叩きのめしたのだと、すぐに察する。


……さすがはリンだと、内心で感心しながら、俺はライに向かって口を開いた。


「そうか? 正直、俺は困らないから、別に構わんが──お前が困るなら、次からはちゃんと考えてから喋ったほうがいいぞ。じゃないと、修行を始める前に、リンに(精神的に)殺されるからな」


俺の言葉に、ライは少し考えるような素振りを見せた。──が、すぐに考えるのを諦めたらしく、にっこりと笑顔を浮かべながら俺に宣言する。


「わかったぜ、師匠! 俺に考えるのは無理だから、今度の修行でリン姉さんより(精神的に)強くなって、どんな教育(こうげき)にも耐えられるようになるぜ! 師匠、よろしくな!」


堂々と暴言を言い放つライを見つめながら、「そんな修行があったら、俺が真っ先に受けてる」と言いかけ、ぐっと言葉を飲み込む。


そして、代わりに笑顔を作り、親指を立てて言い放った。


「──任せろ!」


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価をお願いします。励みになります!


また、

『魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる』(完結済み)

『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたいのですが、王女や聖女が許してくれません~』

も連載中ですので、興味がありましたらご覧ください。


これからもよろしくお願いいたします。

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