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153 復讐と反省と……バカ?

「師匠、どうしたんだ? 髪の毛が真っ白だぞ?」


俺たちは、カミニシの案内でハイヤンの町を歩いている。


昨夜、俺はリンの手によって拷問を受けた。その内容はあまりにも壮絶で、脳が自己防衛機能を発動し、一部の記憶を自動的に消去するほどだった。だが今朝、その消えた記憶(・・・・)をリンの手によって、まざまざと甦らされ――俺は再び、恐怖のどん底に突き落とされたのだった。


「……ああ、真っ白か。頭の中まで真っ白になってくれたら、どれだけ楽か……」


ライの言葉に、かろうじてそう返しながら、もし昨夜の出来事を綺麗に忘れられるなら、どれほど幸せだろうかと考える。そんな俺の様子を見かねたマチさんが、「少し休もう」と近くの食堂に入ろうと提案してくれる。


「そうだな、ずっと歩いているし、昼食も兼ねて、少し休むか」


カミニシも頷き、視線の先にある大きな食堂を指さして、「あそこの料理は、海の幸をふんだんに使っていて美味いぞ」と勧める。俺は特に断る理由もなく、少しでも悪夢を忘れられるならと頷くと、ライたちもそれに同意し、俺たちはその食堂へと足を向けた。


――――――――――――――


食堂で出された料理は、どれも美味しく、さまざまな海の幸が皿に盛られ、目にも鮮やかだ。マヤやアオは、その中に人族領では見たことのない奇妙な生き物が混ざっているのを見つけると、驚きの声を上げて、「本当にこれ、食べられるの……?」と、心配そうに料理を見つめていた。


しばらく料理を楽しんだ俺たちは、食事を終えると、これからの予定について話し始めた。


「そういえば、これから例の人族の船が漂着した港に向かうんだったな」

「ああ、そうだ、サイガ。あの事件から、もうかなり経つし……。見たところで、お前の魔眼でも何も分からないと思うが」

「まあ、とりあえず、見るだけ見せてくれ。何か分かれば儲けものだろ?」


俺の言葉に、カミニシは肩をすくめながら「期待はしていない」と口にし、お茶を一口含んだ。その会話を俺の隣で聞いていたマヤが、「もし犯人の手掛かりが分かったら、どうするのか」と静かに問いかける。


「……それは、当然、姉さんや仲間の無念を晴らすために――復讐する」


カミニシの言葉に、マチさんがうつむき、暗い影を落とす。その様子を見たマヤが、少し心配そうに視線を向け、カミニシもそれに気づいて、ふと優しい声音に変わった。


「心配しないでくれ。もう無茶はしない。それに、復讐と言っても、何か手掛かりが見つかった場合だけの話だ」


そう言ってカミニシは、隣に座るマチさんの肩にそっと手を回す。すると、彼女はその手に導かれるように、静かに身を預けた。その様子を見ていたマヤが、ちらりと俺の方を見やり、「本当に手掛かりを見つける気なのか」とでも言いたげな視線を送ってくる。


……たしかに、もし犯人に関する手掛かりが見つかったら、カミニシは復讐心にとらわれ、マチさんや多くの領民の存在を顧みず、無謀な行動に出るかもしれない。それが本当に、トンハイの住民やカミニシ自身にとって正しい選択なのか――それは、正直、俺には分からない。


マヤの気持ちは痛いほど伝わってきたし、マチさんの心配そうな表情も胸に残る。だからこそ俺は、もし事件の手掛かりを本当に見つけてしまったとき、自分はどう動くべきか――その答えを今のうちに考えておくべきだと思い、静かにカミニシに声をかけた。


「もし手掛かりが見つかったとして……お前はどうするつもりだ? 復讐って言うが、もし犯人がゼウパレス聖王国にいるか、あるいはその関係者だとしたら……陸路じゃ相当な距離があるし、海路を使うにしても、大型の船が必要になるぞ」


俺の言葉に、カミニシは顎に手を当て、しばらく黙って考え込む。これまでのヤツは、漠然と人族すべて(・・・・・)を憎み、復讐しようとしていた。だが、もし姉や仲間に非道な行いをした人物や組織が特定できれば、もはや人族全体を相手取る必要はないはずだ。


それどころか、今までのように多くの同志を集めて、大がかりな計画を立てる必要すらない。相手の正体さえ分かれば、自分ひとりの力でも、復讐は可能かもしれない。――もっとも、それはあくまで、相手のいる国までたどり着ければの話だが。


「正直、何の手掛かりもなかった今までは、人族すべてが復讐の対象だと思っていた……というか、それ以外に憎しみを向ける相手が分からなかった。でももし、万が一にも、姉さんたちを攫って、あんな残虐非道なことをした連中が特定できたなら。そのときは、俺は魔王の地位を捨ててでも、単身で人族領に乗り込む覚悟だ」


カミニシは、自分の気持ちを整理するように、ゆっくりと言葉を紡いだ。やはり、どれほど困難であろうと――カミニシは、復讐を果たすつもりでいる。そしてもし、相手が特定されれば、その憎しみはより鋭く、より深く、カミニシの中に根づいていくだろう。


――そうなれば、きっとあいつは、自分のすべてを復讐に捧げ、誰の制止も聞かずに人族領へと向かっていく。……そんな未来が、俺には、はっきりと見えてしまった。


そんなカミニシの横顔を見ながら俺は、たとえ手掛かりが見つかったとしても、その答えを伝えるべきかどうかは、マヤたちと相談して決めた方がいいと感じていた。そして、心配そうにあいつを見つめるマチさんの姿を目にしながら、できることなら――復讐なんか忘れて、たったひとりの女性を幸せにする道を選んでほしいと、心の底から願った。



私たちが珍しい海の幸を堪能している横で、サイガのバカが、珍しく真剣な話をしている。どうせマヤに良いところでも見せたいだけだろうと思い、私はものすごく不機嫌になった。


そして、この怒りを晴らすため、いまだ食事に夢中なライの大バカに激辛の調味料を手渡し、「これをかけたら、超美味いわよ」と嘯く。


私の言葉にまんまと騙されたライは、「さすが、リン姉さんだ」と、「さすが」の意味を本当に分かっているのか怪しいセリフを吐きながら、焼き魚に大量の調味料をぶっかけて口に放り込んだ。


ライは骨なんか気にも留めず、ボリボリと音を立てながら、ひたすら美味しそうに食べ続けている。私は、もしかして調味料を間違えたのかと疑いながら、ライに渡した容器を取り戻し、ひと舐めしてみた。――その瞬間、信じられないほどの激痛が、口の中全体に広がった。


「なによ、辛いじゃない! ライのバカ!」


私は慌てて水を飲み、口の中を洗い流すと、思いきりライのバカの頭を叩きながら、「お前の舌は、頭と一緒でバカなのか」と文句をぶつけた。するとライは、不思議そうな顔で首をかしげ、「こんなの、俺の村の郷土料理に比べたら全然辛くないぞ」と、真顔でのたまう。さらに私の手から調味料を奪い取ると、今度は別の料理にまでかけて、嬉しそうに食べ始めた。


……やっぱりライがバカなのは、生まれ育った環境のせいなのかもしれない。そう思いながら、「ある意味、アンタも犠牲者なのね」と、私は少しだけライに優しくしようと心に決める。


そんな私たちのやり取りを見ていたサイガが、呆れたように溜息を吐きながら、「いい加減、ふざけるのはやめろ」と、偉そうな口調で言ってきたので――私はにっこり笑って、『うるさい、バカ』と、言葉の代わりに意志を飛ばして睨み返した。


するとサイガは、ようやく自分の立場を思い出したらしく、慌てて頭を下げ、さっきまでの無礼を必死に詫びはじめる。その滑稽な姿を、マヤやアオが不思議そうに見つめているが、サイガは気づいていないのか、ただひたすら私に頭を下げ続けている。


そんな空気を断ち切るように、カミニシがわざとらしく大きな溜息をつき、「もう、そろそろ出発しないと、日が落ちるまでに港に着かないぞ」と言いながら、くだらない話はもうやめろとでも言いたげに、鋭い視線をこちらへ向けてきた。


腕を組んだまま、なおも頭を下げ続けているサイガを見下ろした私は、カミニシの言葉に頷くと、いまだ食べ続けているライの方へ顎をしゃくり、『早くバカ弟子を何とかしろ』と意志を飛ばす。


その命令を受けたサイガはすぐに席を立ち、食事に夢中なライの背後に回り込むと、有無を言わさず首筋に電光石火の手刀を叩き込んで気絶させ、そのまま背負い上げた。


そして『準備はできました』と私に意志を飛ばし、ピシッと敬礼してみせた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

もし楽しんでいただけたなら、ぜひブックマークや評価をお願いします。励みになります!


また、

『魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる』(完結済み)

『転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたいのですが、王女や聖女が許してくれません~』

も連載中ですので、興味がありましたらご覧ください。


これからもよろしくお願いいたします。

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