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015 サイド:占星術士マヤ(上)

サイガのすぐ後ろを、フォルが苦笑しながら歩いていた。2人とも背が高く、赤と黒――それぞれの鮮やかな髪色が目を引く。


……金髪や茶髪が多い人族の中で、黒髪はとても珍しい。だからこそ、同じ黒髪の私も、しばしば好奇の目で見られることがある。


二人の背中を見ながら、そんなことをぼんやりと思い出していた。……そういえば、サイガたちはどこに向かっているんだろうか? すごく気になります。


補給部隊の隊長に今後の行動について指示を出していた私は、視界の端にサイガの姿を捉えた瞬間、何を言おうとしていたのか、ほんの一瞬だけ頭が真っ白になった。けれど、誰にも気づかれないよう、極めて冷静を装って言葉を続ける。


「このまま補給線を維持するのは危険な気がします。北のルートから東回りのルートに変更できないか、検討してください。補給基地は現在地のままで構いません。では、引き続き、よろしくお願いします」


私は早口にならないよう、意識的にゆっくりとした口調で指示を出し、打ち合わせを終えた。皆が席を離れ、誰もいなくなったのを確認してから、そっと椅子を引いて立ち上がる。そして、気持ちを整えるように深呼吸をひとつして、静かにテントの外へと出た。


私は、少し陽が沈みかけた辺りを見渡す――けれど、サイガとフォルの姿は、もうどこにもなかった。どうやら、すでにこのあたりから離れてしまったようだ。


……仕方ない。そう、自分に言い聞かせる。けれど、それでもほんの少しだけ残念な気もする。特別な用事があったわけじゃない。ただ、少し話がしたかっただけだ。


そんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。


「マヤ、補給部隊との打ち合わせは終わったのかな?」

「アルスですか……。はい、ついさっき終了しました」

「そうか。いつも助言、ありがとう。こうして安心して補給が受けられるのも、マヤのおかげだよ」

「……アルス、何度も言っていますが、感謝は不要です。私は、自らの役割を果たしているだけですから」


アルスの気持ちはありがたい。でも私は、当然のことをしているだけ――感謝される理由はない。それに、無用な気遣いで隊長である彼に余計な負担をかけたくもない。


「マヤ、そういう言い方しちゃだめよ。アルスは繊細なんだから。どこかの単細胞とは違ってね」

「……ディア、私、傷つけるような言い方をしましたか?」

「まぁまぁ、僕は何とも思ってないし、傷ついてもいないよ。ティアもマヤをからかわないであげて」

「は~い、ごめんね、マヤ~」


私は黙ってうなずいた。


……どうして、私はいつも上手に話せないのだろう。 ゆっくり、丁寧に話しているつもりなのに――何がいけないのか、わからない。


……昔は、それをずっと悩んでいた。けれど、今はもう諦めました。だって、わからないものは、わからないんだもん。考えても仕方がないです。


仲良く話しているふたり(特にティア)に、これ以上邪魔をするのも悪い。……私は、そっとその場を離れることにした。


「少し……疲れました。申し訳ありませんが、テントに戻ります」

「そうだね。引き止めてごめん。ゆっくり休んで」

「マヤ、疲れが取れないようなら、ちゃんと言ってね。魔法で治すから」

「……ありがとうございます。それでは、失礼します」


私は静かに頭を下げ、その場を後にする。そして、割り当てられたテントへ向かう――ふりをして、私はサイガの姿を探すように歩き始めると、さりげなく周囲に目を配る。


ふと、さっきのティアの顔が思い浮かんだ。嬉しそうに話していた、あの笑顔。……アルスとうまくいくといいと、そう思う。思うけれど――やっぱり、私より先に付き合ったりしてほしくはない。


ティアの恋が実ってほしい。でも、あまり順調にいっても困る――そんなややこしい気持ちを抱えたまま、私はしばらく当てもなく歩き続けた。


そのとき――少し先で、サイガとフォルの姿が目に入った。ふたりは向かい合い、何かを話している。フォルは槍を構え、サイガは彼に助言しているようだった。


「なるほど……柄の使い方を意識するのは大事なんだな」

「そうだな。槍は突きが主体だから、どうしても動きが読みやすくなる。だが、柄で払う動きを混ぜられると――俺だったら、かなり嫌だな」

二人は真剣な表情で向かい合い、言葉を交わすたびに、まるで技術を磨き合っているようだった。そんな様子が少し気になり、私は思わず声をかけてしまう。

「……おふたりとも、本当に勉強熱心ですね。頭脳労働は苦手なはずなのに」

心の底から、ふたりの脳に過剰な負担がかかっていないか、心配して声をかけたが、フォルが少し嫌そうな顔をした。なぜでしょう?


「げっ! マヤ、見てたのかよ!」

「フォル、私が見ていたらダメなことでもあるのですか? もしやお二人は付き合っているとか?」

「そんなわけないだろ! サイガ、悪い。あとは任せた!」


フォルは慌てて槍を背負うと、そのまま逃げるように立ち去っていった。走り去っていくフォルの後ろ姿を、サイガはぼんやりと眺めている。気づけば、この場所には私とサイガの二人だけが残されていた。


私も、彼と同じようにフォルの背中を見送る……そういえば昔、フォルを見たサイガが『ヤンキー』と呟いたことを思い出した。


フォルの無様な姿を見ながら、そんな昔のことをふと思い出していた――そのとき、サイガがふいにこちらを振り向き、話しかけてきた。


「マヤ、仕事の方は大丈夫か? 兵站は一番重要だからな」

「問題ありません。……大量に食料を消費する人もいるので、抜かりなく手配しています」

「うん。本当に助かる。毎日、美味いメシが食える。マヤに感謝だ」

「……………美味しい食事は糧食班のおかげです。私に感謝は不要です」

「そうか。でも俺が感謝したいと思ったんだ。それは俺の勝手だろ? ありがとうな、マヤ」


サイガは、思いっきりの笑顔で――真っ直ぐに、私に感謝を伝えてきた。


…………………………

…………………

…………


好き。……大好き!

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