表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/202

143 真実の行方(1)

本日3本投稿<(_ _)>

カミニシは、かつて自身の故郷で起きた「人族による魔族の集団拉致」について語り終えると、俺たちに向かって頭を下げ、「人族領への侵攻に協力してほしい」と告げた。


話を聞く限り、人族が行ったという非道な行為には、確かに俺も強い嫌悪感を覚える。だが、それだけを理由に、今度は何の罪もない人族を襲うことなど、俺にはできない。それに、カミニシの故郷を襲ったのが本当に人族だったのか、その確証もないのだ。


とはいえ、カミニシの姉を含む多くの魔族が攫われ、残酷な実験の犠牲になったという事実は消えない。どう応えるべきか……迷っていたそのとき、リンが静かに口を開いた。


「それはできないわ、カミニシ。確かに、聞いていて反吐が出そうな話だったし、あなたには同情する。でも、ジュウカンを戦場にするわけにはいかない」


リンは、カミニシが私利私欲で人族領への侵攻を望んでいるわけではないと理解し、安堵していた。そのうえで、カミニシの考えに一定の理解を示しつつも、ジュウカンの住民を危険に晒すことはできないとして、提案をはっきりと拒絶した。


さらにリンは続ける。確かに人族は、数十年に一度、ジュウカンの魔王を討伐するために侵攻してきている。だが、それは領地拡大を目的とした侵略ではなく、あくまでも魔王一人を標的とした謀殺に近い行動であり、一般の住民たちが巻き込まれることはほとんどない……そう説明した。


「あなたが話したような残虐なことが、ジュウカンで行われていたとは思えないわ。それに、魔王討伐のとき以外に、人族がこちらへ干渉してくることは、ほとんどないの。正直、人族領から最も遠いワントンの、そのさらに東端にあるハイヤンまで、人族が侵入できるとは思えない。……船なら可能かもしれないけれど、あなたの話では、人族の船が着く前から行方不明者が出ていたんでしょ? なら、先に陸路で潜入していた人族がいたってことになるわよね」


リンは、カミニシの言葉を否定しているわけではないと、あらかじめそう前置きしたうえで話した。ただ、それでも理由もなく人族が魔族に対して、あれほど残酷なことをするとは思えない、というのが彼女の見解だった。加えて、人族領と直接接しているジュウカンを無視して、最奥のワントンにまでわざわざ侵入して拉致を行う意味がどこにあるのか、その合理性に疑問が残ると告げた。


「確かに実験体として拉致するなら、陸続きのジュウカンの住民を狙った方が手っ取り早いな……。カミニシ、思い出したくない記憶だと思うが、もし覚えていたら教えてほしい。お前たちを襲った人族は、本当に人間か? 例えば、エルフやドワーフ、ホビット、それに獣人とかもいなかったか?」


俺は事件の詳細を知ることで、誰がこのような悪逆非道なことを企てたのか突き詰めようと、カミニシに当時の様子を詳しく尋ねる。


「……そうだな、確かに人間と言ったが、エルフが多かったような気がする。船の中で実験を行っていた連中はエルフしか見なかったな。まぁ、ほとんど船にはいなかったから、他にもいたかもしれないが……」


やはりあまり思い出したくない記憶だったようで、当時の様子を話すカミニシの表情には苦痛の色が見える。俺はやはり聞くべきではなかったと謝罪しようとして、リンがマヤとアオも含めて話をした方が良いと提案する。


「正直、私たちだけじゃこれからどうして良いか分からないわ。少しでも多くの人の意見を聞くべきよ。カミニシ、悪いけどさっきした話だけど、他の仲間に教えて良いかしら? もちろん、ちゃんと口留めもするし、信用できる仲間にしか話さないから」


一瞬だけ逡巡する様子を見せたカミニシだが、その話し合いに同席するなら話しても構わないと了承すると、リンはノーベさんを呼んで会議室の準備とその周辺の人払いを頼む。そして、カミニシに暫く待っていてほしいと告げて、俺とララを連れて部屋から出た。



ボクとお姉ちゃんが部屋でお茶をしていると、リンちゃんがサイガを連れてやって来た。ふたりとも少し真剣な表情をしていて、ただの挨拶じゃなさそうだった。


……どうやら、ダオユン付近で起きた魔物の大量発生(スタンピード)を鎮圧してくれた魔人が、目を覚ましたらしい。そして、それがきっかけで新たな問題が発生したとのことで、話し合いを開きたいとリンちゃんが説明すると、サイガが「人族に関係することだから、ぜひ一緒に参加してほしい」と言って、少し頭を下げた。


「うん、別にいいけど。人族にも関わることって……どういうことなの?」


ボクがそう言って、話し合いに出るのはかまわないと述べ、問題の内容について尋ねると、リンちゃんとサイガは一瞬だけ視線を交わし、ほんの少しだけ黙った。でもすぐに、「話し合いが始まったら説明するから、それまで待ってほしい」と言って、言葉を濁す。


なんとなく気まずい空気が流れ、部屋の中に沈黙が広がった。そんな時間が少し続くと、ノーベさんが現れて、会議室の準備が整ったことを伝えてくれた。そして、リンちゃんはボクたちの方を向いて「悪いけど、一緒に来て」と言い、そのまま部屋を出ていった


――――――――――


ボクたちが会議室に着くと、大きなテーブルにはララちゃんと、紫色の髪をした冷たい雰囲気の男性が座っていた。


「ごめんなさい、待たせたわね」

「いや、俺も今来たところだ。それで、後ろにいる2人は誰だ?」


リンちゃんが部屋に入って男性に声をかけると、彼はボクたちに警戒するような視線を向けて、何者なのか尋ねる。


「カミニシ、お前の気持ちも分かるが、そんなに殺気立つのはやめろ。この2人は長い間、人族領にいて、俺たちよりも人族について詳しいから来てもらったんだ」

「そうよ、だからそんなに不機嫌そうな顔をするのはやめて。まずは、互いに自己紹介でもしたら?」


サイガとリンちゃんが、紫色の髪の男性にもう少し協調性を持つよう注意し、自己紹介を促す。けれど、彼は胸の前で腕を組んだまま、黙り込んでしまう。


「ボクはアオ。人族領には、お姉ちゃんと一緒に住んでいたんだ」


ボクとお姉ちゃんが魔人になった時、他の魔族から疑われないように、サイガたちと話し合って決めていた内容をそのまま口にすると、お姉ちゃんも、紫色の髪の男性に向かって自己紹介をする。


「私はアオの姉で、マヤリと申します。妹や仲が良い方からはマヤと呼ばれています。私も妹と同じく、昔、人族領に住んでいた時がありました」


お姉ちゃんは、紫色の髪の男性に負けないくらい冷たい視線を向けて、いつも以上に無感情な口調で話し終えると、軽く頭を下げた。ボクは、お姉ちゃんがけっこう怒っているのが分かって、思わず苦笑いを浮かべながらサイガの方を見ると、サイガも同じように苦笑していた。


「ほら、2人は自己紹介したんだから、アンタもさっさとしなさいよ」

「そうだぞ。お前から聞いてきたんだ。お前がしないでどうする」


リンちゃんが、紫色の髪の男性に「早く自己紹介しないと話が進まない」と文句を言うと、サイガもそれに同調して、「先に名乗った2人に失礼だから、お前もさっさと名乗れ」と注意する。そんなふたりを睨みつけながら、紫色の髪の男性は溜息をひとつ吐いて、ようやく口を開く。


「……俺はカミニシ。ワントン領の魔王だ」


カミニシは、自分が魔王であることを名乗ると、今回の魔物の大量発生(スタンピード)の原因を作った張本人であることを認め、申し訳なさそうに頭を下げた。

お読み頂き、ありがとうございます!

この作品を『おもしろかった』、『続きが気になる』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになりますの、どうかお願いします<(_ _)><(_ _)>

さらに何か感想を頂けると嬉しいです!<(_ _)>


また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ