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141 サイガの魔眼

召使いから「サイガが魔王カミニシを連れてきた」と伝えられた私は、すぐにノーベに魔王を迎えるための準備をするよう指示を出す。


「いや、そんなに気にしなくていい。それよりカミニシには少し休んでほしいから、部屋の用意を頼む」


いつの間にか執務室に姿を現したサイガが、魔王を招くための準備に慌ただしく動く私に何も畏まる必要はないと苦笑して、魔物の討伐で疲労したカミニシを休ませてやりたいとお願いする。


「アンタ、一体どういうつもりで魔王なんか連れてきたのよ。出迎える私の身にもなってよね」


私がいきなり魔王を連れてきたことに対して、私は文句をぶつけると、サイガは少し申し訳なさそうに頭を下げ、カミニシが魔物から集落を守り、その際に負傷したこと、そしてなぜ他領であるジュウカンにいたのかを聞くために、ここまで同行させたことを説明した。


――――――――


「本当にサイガって、バカで仕方ないわよね。まさかジュウカンを狙ってた魔王を助けて、しかもフーオンまで連れてくるなんて、信じられないわ」


私がカミニシが休む部屋を手配し、執務室に戻ると、ソファに座った姉さんがノーベに向かって、サイガの世話は本当に疲れると愚痴をこぼしていた。


「姉さん、お帰りなさい。色々と大変だったみたいだけど、結局、魔物の大量発生(スタンピード)を未然に防げて良かったじゃない」


私が執務室に入りながら声をかけると、姉さんは軽く微笑んで、ソファに座るよう手で合図してくれる。そして、私の言葉に「まあね」と返しつつ、やっぱりサイガに振り回されるのは骨が折れると、また愚痴をこぼす。


そんな疲れたような顔をしている姉さんだけれど、どこか楽しそうに見える。たぶん、内心ではそんなに悪い気はしていないと思う。でも、それを口にしたら最後、姉さんは意地でも認めず、必要以上にサイガを虐めそうな気がしたので、私は何も言わずにおくことにした。


……とにかく、まずはカミニシをしっかり休ませて、それからジュウカンを訪れた理由を聞かなければならない。そして、なぜ魔王であるカミニシが、他領であるジュウカンの魔王になろうとしていたのか、その答えも求める必要がある。


私は、カミニシが本当のことを話してくれるかどうか、不安な気持ちになり、自然と表情が曇った。そんな私の様子に気づいたのか、姉さんは苦笑しながら「サイガがいるから大丈夫」と言い、続けてサイガの魔眼の能力について話し始めた。



私は心配そうな顔をするララを見て、何も考えずに行動するサイガに不安を覚えたのだろうと察する。たしかにサイガは馬鹿だけど、あいつの魔眼は信用できる。私はそう伝えて、ララを安心させるために魔眼の能力について説明する。


……サイガの魔眼は、【知識の神の加護】に近い力を持っていた。サイガが見聞きしたあらゆる情報を記憶として蓄積し、その蓄えた知識をもとに分析し、サイガが求める「答え」を導き出そうとする。


ただし、その能力を発動させるには莫大な魔素を必要とし、しかも、「答え」を導き出すための情報が不十分な場合には、膨大な魔素を消費した挙げ句、出てくる答えは不明瞭で、時に意味不明なものになることすらある。


つまり、占いや予言のように見えるこの能力は、実際のところ、これまでに得た記憶や経験をもとに、非常に優れた頭脳が最も確率の高い答えを導き出しているだけにすぎない。ただし、求める答えに対してどれほどの魔素が必要になるかは予測できず、簡単に済むと思った質問であっても、想定以上の魔素を消費することもあるらしい。


サイガの話によれば、本人が自覚していない記憶も大量に蓄積されていて、人が意識して見ていない視界の隅に映った人物や物体なども例外ではないという。例えば、誰かを探索しようとしたとき、自分では覚えていなくても、どこかで一瞬でも目にしていれば、その情報をもとに予想以上に少ない魔素で探し出すことが可能になる、ということだ。


「――――ってサイガは言ってたわ。つまり、あの魔眼はサイガの『第二の頭脳』みたいなもので、本人を遥かに上回る超優秀な脳力を持ってるってわけ。だから、サイガ本人はバカでも、あの魔眼は信用していいと思うわ。……まあ、自分の頭より目の方が優秀なんて、本当にサイガって哀れな生き物よね……」


私が魔眼についてひと通り説明を終えると、ララはその破格の能力に驚き、大きく目を見開いた。たしかに膨大な魔素を消費するとはいえ、当たるかどうかも分からない占いと違って、情報さえ揃えば確実に答えを導けるというその能力は、もはや異常と呼ぶべき代物だ。


「本当にサイガって、同じ魔人なの? ちょっと会わない間にまた強くなってるし、魔眼の能力も常軌を逸してるわ……」

「そうね。きっと、あいつは魔人じゃなくて別の生き物なんだと思うわ。確か、別世界の言葉で『宇宙人』っていうヤツよ。なんでも戦闘に特化した民族で、猿の魔獣みたいにお尻に長い尻尾が付いてるらしいの。しかも、満月の夜になると巨大化して大暴れするって……。本当に恐ろしいわよね」


ララは私の話を聞いて、首を傾げる。だがこれは、ちゃんと【知識の神の加護】から聞いた情報だと説明すると、妹は苦笑いしながら「それ、まるでサイガみたいね」と揶揄ってきたので、私は真顔で「断じて違う」と答えたが、ララはなおも楽しそうに笑っていた。



俺が中庭でライに稽古をつけていると、ノーベさんが「カミニシが目を覚ました」と知らせに来た。そこで稽古を中止しようとライに提案したが、ライは「一本取るまで絶対に嫌だ」と言い張り、渾身の正拳突きを放ってくる。


その意地の張りように溜息をこらえながら、俺は正拳を額の外殻で受け止めると、鈍く嫌な音が響き、拳を押さえたライは後ろへと下がって距離を取ろうとする。だが、すかさず間合いを詰め、下段蹴りで足元を崩すと、体勢を失ったライの脇腹に中段の回し蹴りを叩き込んだ。


ライは呻きながら体をくの字に曲げ、脇腹を押さえる。その隙を逃さず、俺は前蹴りでライの顎を跳ね上げさせ、顔を上に向けさせると、そのまま動きを踵落としに変え、額にかかとを打ち込んだ。


そして、打ち抜かれたライは、そのまま白目を剥いて仰向けに倒れ込む。


「すまない、ノーベさん。ライが気を失ったみたいだ。後でもいいから、部屋に運んで休ませてやってくれ。それより、カミニシをあまり待たせるのも悪いから、案内してくれないか?」


我儘を言い張るライの躾を終えた俺は、急ぎ足でカミニシの部屋へ案内してほしいとノーベさんに頼むと、ノーベさんは苦笑いを浮かべながら、そばにいた使用人にライの介抱を指示し、そのままカミニシのもとへと案内してくれた。


――――――――


俺がノーベさんの後についていくと、屋敷の奥にある来客用の部屋まで案内された。ノーベさんが扉を軽く叩くと、中からリンの声がして「入ってきて大丈夫よ」と返ってくる。


ノーベさんに礼を言って中に入ると、ベッドから起き上がったカミニシに対して、リンとララが並んで睨みをきかせていた。


「……どうした、なんだかただならぬ雰囲気だが」


俺が険しい表情のリンに状況を尋ねると、彼女は少しだけ表情を緩めてこちらを見やり、カミニシがジュウカンに来た理由を口にする。


「こいつがジュウカンに来たのは、自らの尻拭いをするためよ。もともと魔物の大量発生(スタンピード)を起こそうとしたネズミの魔獣は、こいつの領地……ワントンから来た魔族だったの」


そう言ってリンは再び憎々しげにカミニシを睨み、「こんな奴、助けるんじゃなかった」と小さく吐き捨てるように呟いた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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