140 カミニシとの再会
今回は3話投稿します<(_ _)>
私はフーオン領を出て、サイガの後を追っていた。馬の魔獣を駆って走るが、一向に距離は縮まらず、むしろ少しずつ離されていく。
必死に走る馬の魔獣は、あまりの速さで駆けていくサイガを化け物でも見るような目で見つめ、追いつけず申し訳ないと意思を飛ばしてきた。私は首を軽く叩いて、「あれは魔族でも人間でもない、別の世界から来た怪物だから気にしなくていい」と優しく返す。
とにかく、少しでも追いつこうと、私は馬の魔獣を励ましながら、ララから預かった地図を広げ、ダオユンまでの最短経路を割り出して伝えた。
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最小限の休憩だけを取りながら進み、なんとかダオユン近くの集落にたどり着いたとき、私はすぐに異変に気づく。住民たちに囲まれるようにして、地面に横たわる男……カミニシの姿が目に入る。
カイさんの話では、彼もまた魔王であり、ジュウカン領の魔王となるべく儀式に参加したという。どの王領の魔王かまでは知らないが、それが本当なら、なぜ今もジュウカンに留まっているのかが引っかかる。まさか、この地で何か良からぬことを企てているのでは……そんな警戒が自然と心をよぎる。
私はカミニシをじっと睨みながら近づいていく。すると、こちらに気づいたサイガが、軽く手を上げて声をかけてきた。
「意外に時間がかかったな、リン。着いて早々悪いが、コイツをフーオンまで連れていきたい。問題ないか?」
「ダメに決まってるでしょ、バカ。そいつは魔王で、ジュウカン領を狙ってたのよ。そんなヤツをララが治めるフーオンに連れていけると思うの?」
私がサイガの意見をきっぱりと退け、それよりもなぜカミニシがここにいるのかを問いただすと、サイガもそのことは聞いていなかったらしく、どこか抜けているなと、私が小さく溜息をつくと、サイガは視線をカミニシに向け、なぜ他領であるジュウカンにいる理由を尋ねる。
「……助けてもらって悪いが、ここで話すわけにはいかないな。もし聞きたいなら、場所を変えろ」
カミニシが冷たい眼差しを向け、話がしたいなら場所を変えろと条件をつけてきたので、助けられたことに感謝しているのなら、さっさと頭の一つでも下げておけと、優しく説教する。
「はぁ、舐めた口を利くじゃない。何ならもう一度、死免蘇花を使わなきゃいけないほどボコボコにしてやってもいいのよ。少しは言葉遣いを改めないと、うちのサイガが黙ってないわよ」
私は地面に座るカミニシを見下ろしながら、後ろに控えているサイガに親指を向け、次にふざけた態度をとったら、サイガの第4段階の呪術で木っ端微塵に吹き飛ばすと脅す。すると、すぐ隣でサイガが「いい加減にしろ」と呆れた声を上げて仲裁に入る。
「いい加減なことを言うな、リン。それに勝手に俺の呪術をばらすんじゃない。万が一、カミニシと戦うことになったらどうするんだ。それにカミニシ、お前も少しは言葉遣いに気をつけろ。魔王で上位の魔族かもしれないが、助けてもらって、その態度はどうかと思うぞ」
サイガは私の肩に手を置いて、「余計なことは言うな」と釘を刺すと、そのまま私を後ろに下がらせ、カミニシを正面から見据えて、いつもの説教を始めた。私はその背中を見ながら、「またオッサンの小言が始まった」と呟き、やれやれと首を横に振る。
『……おい、温厚な俺でも怒るときは怒るぞ。いい加減にしろ……』
説教中だというのに、私は後ろで肩をすくめながら、近くの集落の住民たちに「ほんと、説教が長くて困るのよ」と軽口を叩いていたら、サイガがこめかみに青筋を浮かべて睨みつつ、静かに意志を飛ばしてきた。
私は頭に手を乗せて舌を出し、片目をつぶり、完璧な『てへぺろ』で謝罪したつもりだったが、サイガはまったく許す気配を見せず、むしろさらに青筋が一本増えたように見える。……【知識の神の加護】曰く、これは別世界で最上級の謝罪ポーズのはずなのに……いったい何が気に食わないのか、私は首をひねる。
『……わかった、もういいから、ここは俺に任せて、集落の住民たちに襲撃してきた魔物たちについて聞いてきてくれ』
私が首をひねりながら、いったい何がいけなかったのか考えていると、サイガがまた意志を飛ばし、カミニシの対応は自分がやるから、私には住民たちから話を聞いてきてほしいと頼まれる。私は本当に任せて大丈夫なんだろうか、と一瞬だけ不安がよぎるが、しかし、以前サイガから聞いた魔眼の能力を思い出し、まぁ、どうにかなるかと判断して、おとなしく指示に従うことにした。
◆
俺は前魔王のアメキリンに散々脅され、少しでも怪しい動きを見せれば、サイガを嗾けると言われ、その言葉を受けて、サイガが間に入ってリンを俺から遠ざけてくれる。
「……それでカミニシ、お前は俺たちに危害を加えるためにジュウカン領に来たのか?」
集落の住民たちとともにその場を離れていくリンの背中を見送りながら、サイガはジュウカンに来た理由を問うより先に、まず敵意の有無を確認してきた。
「……お前たちに敵意はない。魔王選定の儀の決勝で敗れたが、それについて特に思うところはない」
「そうか。敵じゃないなら、それでいい。それで本題だが……やはり、ここで話すのは都合が悪いか?」
俺がサイガたちに対して特に何も思っていないと伝えると、サイガはほっとしたように軽く息を吐き、続けてジュウカン領に来た理由を尋ねてきた。だが、それはあまり多くの人間に聞かれたくない内容だったので、正直にそのまま答える。
「……正直、ここで話したくない。俺個人のことも話さなきゃならんしな……」
「……わかった。やっぱりここじゃ無理か。悪いが、フーオンに来てくれ。リンのことは俺が説得する。それと、だいぶ魔素を消費してるようだな。フーオンに着いたら、少し休め」
サイガは俺の言葉を素直に受け取り、ジュウカン領に来た理由にはそれなりの事情があると察してくれたようだった。そして、フーオンで、信用できる者にだけ話してくれればいいと、静かに頭を下げる。
「わかった、フーオンまで行こう。ただ、理由については、俺が話してもいいと思った相手にだけ話す。それで構わないか?」
「あぁ、わかった、それで良い。それじゃ疲れているところ悪いが、すぐに出発させてくれ」
俺は、自分の目で見て信用できると判断した者にだけに話すと伝えると、サイガはしっかりと頷き、それで問題ないと受け入れた。そして、リンを説得するために俺をその場に残し、静かに歩き出していった。
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俺は集落から少し離れた場所で待機させていた配下の馬の魔獣と合流し、サイガたちとともにフーオンへと向かった。
道中、リンがずっとこちらを睨んでいたが、俺は気にしている素振りは見せなかった。ただ、先頭を走るサイガの背中を見つめながら、「あいつは本当に俺と同じ魔人なのか」と、非常識な光景に頭を抱えるばかりだった。
半日ほどでフーオンに到着した俺たちが、正門に着くと、門番が駆け寄り、サイガたちの無事を確認して安堵の表情を浮かべる。そして、俺の姿に気づき、何者かと尋ねると、サイガは、俺がダオユン近くの集落を魔物の群れから守った恩人だと説明した。
「そうですか、あなたが討伐してくださったんですね。あの集落には知り合いがいて、心配していたんです。本当にありがとうございました」
中年の門番はサイガの言葉を受けてこちらに歩み寄り、深々と頭を下げて感謝を伝えてきた。俺は人間たちについて話そうか少し迷っていたが、リンが口を挟む。
「ほら、さっさと早く中に入るわよ。後がつかえているみたいだし。感謝の言葉は後からでもいいでしょ」
リンは後ろに並ぶ魔族たちを指さし、邪魔になるから早く入れと促すと、そのまま俺たちを置いて、さっさと町の中へと姿を消していった。
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