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136 勇者と魔王(1)

「大地竜の顎 (アース・ニードル)」


ティアが魔法で氷漬けにした魔物たちを粉々に砕く姿を見て安堵する。人間強化を施しているとはいえ、ティアの場合は肉体より脳や神経を重点的に強化する魔法特化の施術を行ったため、若干、戦闘には不安があったが、魔素干渉能力の驚異的な向上により、魔法発動時間も大幅に短縮され、魔物たちが間合いを詰めるより早く殲滅する事ができたようだ。


とりあえず、ティアの安全を確認できた僕は、オーガが使う厄介な呪術に対処するため魔法を発動する。


「幻天の煙雨 (ミラージュ・ミスト)」


僕はオーガの周りを囲む魔素を微小の水滴に変化させて大気中に漂わせて、濃い霧を作り出して視界を悪くする。オーガは巨大な戦斧を振り回し濃霧を払おうとするが、どれだけ強風を作り煽っても霧が晴れることはない。


何度も戦斧を振るうが、一向に晴れることのない霧に苛立ちを覚えたオーガが一旦距離を空けて呪術での攻撃に切り替えると、再び、透明な球状の物体が僕を目掛けて飛んでくるが、今度はその球体を余裕で躱してみせる。


先程は、透明の球体を避ける事ができず、攻撃をする度に球体で撃たれ邪魔をされて、致命傷を与える事ができなかったが、今は大気中に漂う霧のおかげで、透明の球体の軌道は手に取るように分かり、難なく回避する事ができる。


しかも、視界が悪い霧の中で呪術を発動する度に自分の位置を教えていることに気づかないオーガに、僕は笑みが零れそうになるが、気を引き締め一気に距離を詰めて剣を振り下ろすと、オーガは頭から綺麗に両断されて左右に別れながら地面に崩れ落ちた。



俺がヘイジャーシュに操られたトロールを全て殺して、急いで魔物の群れを追うと、黒焦げになった死骸や体中に穴が空いた死骸が辺り一面に転がり、死屍累々といった光景が広がっていた。


そして、その地獄のような光景の先に俺を負け犬呼ばわりしたヘイジャーシュが操るオーガと対峙する魔人が見えた。おそらく、この100体以上の魔物を討伐したのは、オーガと対峙する男とその後ろで戦いを見守る女で間違いないだろう。


とにかく、集落への襲撃を止めてくれた2人の魔人に礼を言うため、オーガのところに向かうと、濃い霧が現れて視界を遮る。濃い霧の中をオーガが懸命に斧を振るい払おうとするが、霧は濃くなるばかりで、痺れを切らしたオーガの中にいるヘイジャーシュが呪術を発動して、男を攻撃し始める。


だが、男はヘイジャーシュの呪術から発射させる魔弾を難なく躱し続けて、瞬く間に距離を詰めると上段からの一振りでオーガを両断した。


あまりにも見事な剣技に見惚れてしまうが、まだ、オーガの中にいるヘイジャーシュは生きているはずだ。俺はオーガを倒して安心する男にまだ、敵は生きていると注意して、両断されて地面に横たわるオーガに駆け寄ると、耳の穴から抜け出すヘイジャーシュを見つけて呪術を発動する。


「呪術:瞬風帯刀 (シュンプウタイトウ)」


俺は細剣を抜き、刃が風を纏うのを確認すると、逃げ出そうとするヘイジャーシュに風刃を飛ばし両断する。


ヘイジャーシュが何か憎悪の意思を飛ばしてきたが、所詮、負け犬の遠吠えだと気にせず無視すると、魔物の群れから集落を守ってくれた男女の魔人の方に近寄り、声をかけた。


「お前たちが、この魔物の群れを討伐したのか?」

「あぁ、そうだよ。今日、僕たちがお世話になる集落だからね」


俺の問いかけに男は、旅の途中で立ち寄る予定だった集落が襲われるのが見えたので、咄嗟に討伐したと答え、俺が集落を守った事に礼を言うと、当たり前の事をしただけなので、気にしないでくれと言った。


俺が礼を述べても、気にした様子もなく悠然と佇む男を見て、これほどの力を持つ魔人が何の目的も持たず、ただ旅をしているはずはないと思い、俺はじっくりと男を観察すると、信じられない事に体内に魔素が全く無い事が分かり、すぐに距離を空けて細剣を抜く。


「貴様、人間だな! なぜ、魔族領にいる? 目的はなんだ!」


細剣を抜き敵意をむき出しにして睨む俺に、男は余裕なのか首を横に振り、やれやれといった様子で話しかける。


「いきなり、剣を向けるなんて、ひどいな。アーロンはこの領地の魔族は良い人ばかりと言っていたけど、やっぱり魔族は魔族だ。やっぱり凶暴だね」


俺は人間の男の戯言に一瞬、頭に血が上りそうになるが、サイガとの戦いを思い出し深呼吸をして落ち着くと、なぜ魔族領に来たのか尋ねる。


「狂暴で結構だ。俺の姉を殺したお前たちに褒められても全然、嬉しくない。それより、何が目的で魔族領に来た、答えろ!」


人間の男は俺の言葉に少しだけ表情を変え、思案する素振りを見せると、いきなり頭を下げ謝罪した。


「何も分からず、凶暴などと決めつけてすまない。それに身内を殺されたのなら、恨まれても仕方ないと思う。ただ、君たち魔族も僕たち人族を殺しているのだから、一方的に恨まれる謂れはない」


俺は男の言い草に再び、頭に血が上りそうになる。男は魔族も人間を殺していると言ったが、わざわざ人族領に侵攻して殺戮をした事など過去に一度もない。定期的に人族の奴らが、世界の安寧の為だと嘯いて、一方的に侵攻し魔王を討伐しにくるだけだ。しかも、俺のいるワントン領は、人族領に面しておらず、距離も離れている。そんな離れた領地にまで入り込み、何もしていない仲間たちを殺戮し、何人もの領民を連れ去った。一体、どこに正当な理由があるというのだろうか……。


俺を助けるために人間の犠牲となった姉の顔を思い出し、もはや怒りを制御することが不可能だと分かり、俺は人間の男に決闘を申し込む。


「俺の名は、魔王カミニシレン! 魔神トガシゼン様より魔名(まな)『神に試練』を授かり、八王の1人だ。魔族の仇敵であるお前たちを殺し、死んでいった仲間たちの手向けとしよう!」


俺が魔王が行う決闘の口上を述べて構えをとると、人間の男は薄く不気味に笑い、剣を抜いて構えた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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