表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/202

134 不老の実と施術

ティアの提案を受け入れた僕は翌朝、アーロンにセップという魔人に協力してもらうように紹介状を書いてくれないかと相談すると、彼は少し考えて危険な目に遭わせないと約束するなら書いても良いと言った。


僕たちは魔族とはいえ、マヤたちがお世話になっている者に対して恩を仇で返すような真似は絶対にしないと言うと、アーロンは僕の目をジッと見て頷き、すぐに紹介状を書くので、暫く待っていて欲しいと言って宿屋に戻って行った。


「アルス、よかったわね。紹介状を書いてくれるって」

「そうだね、けど、彼は魔族に対して凄く好意的で驚いたよ。確かにこの村の人たちは良い人ばかりだけど、この村が特殊なだけという可能性だってある訳だから、手離しで信用するのは危険だと思うんだけど……」


僕が宿屋に向かうアーロンを見送りながら呟くと、ティアはあまり気にしても仕方がないと言い、それよりもショウオン村までどうやって行くのか考えるべきだと、まずは自分たちの事を心配した方が良いと注意する。


「確かにそうだね。とりあえずは、ここで手に入れた保存食と、人族領から持ってきた非常食があれば、なんとかマヤたちがいる村まで大丈夫だと思う。それに最悪、食糧が尽きても、魔物や動物を狩って現地調達することも可能だし、1週間ぐらいの短い旅なら問題ないよ」


ティアは僕の言葉を聞き、ショウオン村まで食糧が無くなる心配がないと分かり安心する。確かに僕たちにとって一番必要な物はこの体を維持するための食糧であり、正直、狂暴な魔物が出ようが、魔王(・・)が現れようが、討伐する自信はある。


僕はショウオン村にいるマヤとアオの事を案じ心配そうな顔をするティアを見ながら、自分とティアに施した施術について思い返す。


――――――――


「とりあえず、上手くいったみたいだ。これなら十分に1人でも魔王と戦うことができる」


僕は魔王討伐の褒美として頂いた『不老の実(・・・・)』を摂取し、【医療の神の加護】から得た知識と技術を駆使し、治癒魔法と肉体強化魔法を応用した人体強化を自らの体に施した。


僕が摂取した『不老の実』とは読んで字の如く、老いる事がなくなる薬のことで、若さを保ちたい貴族や王族の女性たちの間では、物凄い高額な値段で取り引きされている。ただ、不老であるが不死ではなく、寿命が尽きれば死ぬし、老う事はないが成長もしない全てが停滞した体となる。つまり、これ以上強くなる事ができなくなる戦う者たちにとっては無用の長物だ。


だが、僕はこの『不老の実』こそが、魔王を凌駕する力を手に入れる鍵となると考え、魔王討伐の報酬として要求した。なぜ、成長が見込めない『不老の実』を摂取する事が、魔王を超える力を得る条件になると思ったのかは、魔王アメキリンとサイガとの会話を聞いたからだ。


……魔王アメキリンとの戦いで、サイガを見た魔王は、人間を超越した肉体だと驚き、アイツが行った治癒魔法や肉体強化魔法は命を削る外法だと指摘した。そして、最後に人族が触れて良いものではないと告げた。


確かにサイガの驚異的な身体能力は修行で身につくようなものではなく、アイツが使う強化魔法も僕たちが学校で習った魔法とは一線を画した。アイツの魔法は冒険者時代に独学で習得したらしく、体内にある僅かな魔素に干渉して強靭な肉体に少しずつ造り変えていくという信じられないものだった。


もちろん、その代償は大きく無理やり改造された肉体は物凄い速さで老化していき、アイツを見た魔王は残り3年持てば良いだろうと言っていた……。


だが、もし肉体の老化さえどうにかできれば、竜人を上回る肉体と、エルフを凌ぐ魔素干渉能力を手に入れる事ができると思った僕は、魔王討伐の報酬として『不老の実』を求め、不老の肉体を手に入れた。そして、【医療の神の加護】の知識と技術を駆使して、サイガが使った治癒魔法と肉体強化魔法を再現して、試行錯誤の末に、ようやく僕は最強の肉体と最高の頭脳を手に入れた。


僕が考えたこの施術は、まさしく外法であり邪法であった。肉体にかかる負担は尋常ではなく、【医療の神の加護】の知識と技術で的確に必要最低限の治癒魔法と肉体強化魔法を使っても、その激痛と疲労は想像を絶するものだった。正直、ティアに行って良いか、かなり迷ったが、本人の強い希望と2度目という自信から、なんとか決断することができた。


そして、施術が成功して人間の限界を超える力を手に入れた僕たちだったが、最初はその驚異的な動きと魔法の威力に翻弄され、まともに戦う事ができず野盗や魔物に遅れをとる始末だった。しかし、その度に脳や神経を強化・調整して、動きにも順応できるようになり、強化した肉体を完璧に操れるようになったが、気づくと僕たちの加護は消えていた……。



宿屋から戻ってきたアーロンがアルスに小さな鞄を手渡し、マヤとアオがいるショウオン村までの簡単な道のりを説明する。


「とにかく、最近は魔物が多くて、あまり治安は良くありません。この村の住人たちも、こんなに魔物が発生した事はないと言っていました。くれぐれも注意してください」


アーロンは私たちに最近、狂暴な魔物が増え、ショウオン村の近くでも魔物の大量発生(スタンピード)が発生して村が襲われたので、旅の途中は警戒を怠らないでほしいと告げると、その言葉に驚いた私たちはマヤたちの安否を確認する。


「マヤたちのいる村が魔物たちに襲撃されたって言ったけど、村は大丈夫だったのかい!?」

「えぇ、問題ありません。何でも最近、この領地の魔王になった魔人が駆け付け、すぐに撃退したようです。多少、村の建物や防壁に被害があったようですが、住民たちは無事だったと聞いています」


私たちはマヤたちの無事を聞き胸をなでおろすと、アーロンの口から出た新たな魔王について尋ねる。アーロンはセップという魔人から定期的に送られてくる手紙に書いてあった情報で良いならと言い話し始めた。


「セップさんの手紙に書かれていた話では、以前、お世話になった方みたいで、上位の魔族にも関わらず、気さくで良い人みたいです。ただ、魔人とは思えないほどの身体能力を持っているみたいで、サイの魔獣の突進を止めたり、人の4倍以上の高さの壁を軽々と飛び越えたりと、少し常識外れの方みたいです」

「……それって本当に魔人、人型の魔獣か魔蟲の間違いじゃないの?」


アーロンの話と聞いた私は、余りにも信じられない内容に驚き、本当に魔人なのかと確認すると、彼は苦笑して本当に魔人らしく、獣人でも鬼人でもないただの人間の魔人だと告げて、「どこにでも常識外れのとんでもない人はいるんですね」と肩をすくめた。


そんな彼の姿を見た私は、思わずサイガの顔が頭を過りアルスを見ると、同じ事を考えていたみたいで、お互い目が合い、吹き出してしまった。


笑い合う私たちを見たアーロンも同じ気持ちだったのか笑い出す。そして、笑いが収まると彼は真剣な顔に戻り、マヤたちの事を頼むと告げると、必ずサイガ隊長を見つけ出して欲しいと頭を下げた。


――――――――


私たちはアーロンたちに見送られて辺境の村ダオユンを出て、すぐに東にあるショウオン村を目指して歩き出す。そして、なるべく早くマヤたちと合流したいと焦る私たちは、多少の体力消耗は仕方ないと割り切り、歩く速度を上げると、瞬く間にダオユンが見えなくなった。


「ふぅ〜、ここまで来れば大丈夫かな。あとは体力を温存しながら、ゆっくり進もう」

「そうね、思ったより順調に進めて良かった。アーロンは心配してたけど、そんなに魔物もいなくて助かったわ」


私たちは特に問題も無く旅を進め、今日の目的地である集落まであと少しという所まで来たので、少し休憩することにした。


アルスはアーロンから貰った鞄を開けて、この周辺が書かれた地図を広げショウオン村までの旅程を考え終えると、私に携帯食を渡して自らも口につけながらショウオン村がある東の方を眺める。そして、私が彼の横顔を見つめながら携帯食を食べていると、急に表情が険しくなり声をあげる。


「ティア、すぐに戦う準備をしてくれ! かなり離れているが魔物の群れが集落に向かっている!」


アルスの言葉に私もすぐに視力を上げて東の方角を見ると、目的地である集落を目指して、猛然と進む魔物たちが見えた。

お読み頂き、ありがとうございます!

この作品を『おもしろかった』、『続きが気になる』と思ってくださった方はブックマーク登録や下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになりますの、どうかお願いします<(_ _)><(_ _)>

さらに何か感想を頂けると嬉しいです!<(_ _)>


また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ