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133 勇者と聖女、再来

僕たちはようやく魔族領との境界地帯に着くことができた。途中で盗賊や魔物、それに人族領に迷い込んだ魔族化したオークやトロールを討伐しながら旅をしたため、思いのほか時間がかかってしまった。


「アルス、ようやく魔族領の辺境の村ダオユンが見えてきたわね」


僕の隣でティアが、遥か遠くに見える魔族領を眺めながら、無事に目的地に着きそうだと安心する。


「そうだね、ティア。あと少しで魔族領だ。以前の遠征とは違い2人だけだから、魔族領に入るのも簡単そうで良かったよ」


僕もティアと一緒に魔族領を見ながらサイガたちの事を案じて、すぐに出発したいと相談すると、少し苦笑した彼女に「どれだけサイガの事が気になるんだ」と揶揄われる。


ティアに痛い所を突かれ頭を掻きながら照れると、彼女は溜息を吐いて、なんでサイガの事を言われて照れるんだと半目で睨まれて、思わずたじろいでしまう。


「まぁ、いいわ。私もすぐに出発するのは賛成よ。少なくともジュウカン領には、マヤとアオがいる可能性が高いと思うわ。なるべく早く合流しましょう」


いまだに動揺する僕を見ながら、ティアもマヤとアオの安否が気になる気持ちは同じらしく、すぐに魔族領に向かった方が良いと賛成してくれたので、僕たちは急いで荷物を背負い直すとアーロンたちが待つ辺境の村ダオユンに向けて歩き出した。



「お久しぶりです、アルスさん。それにティアさんも」


私たちはなんとか日が暮れる前にダオユンに着くことができ、入口で待っていたアーロンと会うことができた。アーロンは私たちを見ると嬉しそうに駆け寄り、再会を喜び、村の案内を申し出た。


アーロンの申し出に感謝して村に入ると、すぐに守衛に呼び止められる。だが、アーロンが昔の知り合いで身元も保証するから信用してほしいと話すと、守衛もあっさりと引き下がり、私たちの方を向き、旅の疲れを労う言葉をかけてくれた。


「アルス、なんだか拍子抜けね。もう少し殺伐とした雰囲気かと思ったけど」


敵対する人族の領土に最も近い村であるダオユンだが、住んでいる魔人たちは牧歌的で戦いなど全く興味がないようだ。見知らぬ私たちに対しても寛容であり友好的な態度を見せる。


「2人とも意外でしたか? ここの住人は皆、気が良いヤツらばかりで、人族に対しても何も思っていませんよ」


のどかに暮らす魔人たちに驚きアルスに感想を求めると、アーロンが振り返り笑いながら、ここの住民たちは安全なので警戒しないでほしいとお願いする。そして、自分たちが世話になっている宿屋まで案内すると告げて再び歩き出した。


――――――――


「――――そこで魔物たちに襲われるセップさんたちを助けて、そのままショウオン村までの護衛を頼まれたんですよ。そして、マヤさんとアオさんは、サイガ隊長を探す拠点としてショウオン村に留まる事にしたんです。まぁ、セップさんは信用できるし、心配はないと思います」


アーロンの話を聞いた私たちは東にあるショウオン村にすぐに向かおうとしたが、窓の外を見ると日も暮れて辺りは真っ暗になっており、このまま村を出ても危険だと判断して、とりあえず、今日はこの周辺の魔族領の情報をアーロンたちから聞くことにして、明日以降に出発することにした。


私たちは宿屋の中にある食堂の隅に座り、アーロンからジュウカン領の情報を教えてもらっていると、村に着いてから何も食べていない事に気づき、アーロンに断って食事を注文する。


「失礼ですが、すごい量を注文しましたね。アルスさんは、まだ分かりますが、ティアさんは、そんなに食べれるんですか?」


アーロンが私たちの頼んだ食事がテーブルに並ぶと、その量に驚き本当に食べれるのか尋ねてきた。正直、ちょっと恥ずかしいが、この体(・・・)を維持するためには仕方がなく、これでも少ないぐらいで本当はもう少し注文したかった。


「あぁ、今日はかなり歩いたから、お腹も凄く減っていて、これでも少し足りないぐらいだよ」


私が顔を赤くして何と言おうか考えていると、アルスが特に何も隠す事なく普通に答えたので、思わず彼の方を見るが、アーロンも特に気にした様子はなく、そういえばサイガも沢山食べていたと話して、気にせず食事をするように勧めた。



アーロンと情報交換した僕たちは、食堂で別れて彼が準備してくれた部屋に向かうと、少し話があるとティアが言い、部屋に入っても良いか尋ねる。


「どうしたんだい。もしかして、体の調子が良くないのかい?」


施術は完璧に成功したはずで、特に今までも問題なく旅ができていたが、魔族領の濃い魔素に当てられて体に異変が起きたのかと心配すると、ティアは特に異常はないと笑いながら答える。


ティアの言葉に安堵すると、再び、彼女から部屋に入って話をしたいと言われたので苦笑しながら了承して、2人で僕の部屋に向かう。


「少し狭いけど、綺麗に掃除はされているし、シーツもちゃんと洗濯されていて清潔で良い部屋ね」


僕たちは部屋に入り軽く見渡して感想を述べると、小さなテーブルに向かい合う形で座り、これまでの旅について簡単に振り返る。たった2人だけの旅だったが、僕が行った施術のおかげで、特に大きな問題なく旅をすることができた。


「例の施術のおかげで何とかここまで旅を続けることができたけど、この体を維持する上でも、これから先は支援してくれる仲間が必要になると思うの」


ティアの言葉にボクも頷き同意する。……僕の考えた施術によって人間を遥かに超える身体能力と魔素処理能力を手に入れた僕たちは、その代償として膨大なエネルギーを消費する体になってしまった。この体を維持するためには大量の食糧が必要であり、魔族領に何の伝手のない僕たちだけでは、その食糧を用意するのは極めて難しい……。


ティアの指摘は正しいが、これ以上軍隊を退役したアーロンを巻き込む訳にはいかず、かといって他に頼りになる知り合いなんて魔族領にはいない。


「確かにティアの言う事は分かるけど、アーロン以外に魔族領で僕たちに協力してくれる人たちなんていないよ」

「えぇ、けど、アーロンが言ってたじゃない。セップという魔人は信用できるって」


ティアはマヤたちが助けたセップという魔人の事を思い出して、アーロンに紹介してもらえないか相談しようと提案する。そして、できることなら魔族領での協力者になってほしいとお願いしてみてはどうだろうかと僕に話した。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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