130 魔眼の村
年度末でめちゃくちゃ忙しかったです……。
ペースは落ちますが、頑張って投稿を続けます<(_ _)>
俺たちがジャフアンを出発して2週間が過ぎ、ようやく目的の場所が見えてきた。ミナニシから貰った古い地図を頼りに旅を続けて来たが、道中で何度か異なる場所があり、本当に大丈夫かと心配になったが、他に頼るものがない俺たちは、地図を信じて進み続けた。
そして、ようやく目的の場所である魔眼の一族が住むであろうサンガンの里が見えてきて安心した俺は、荷台にいるリンたちに声をかける。
「おい、ようやく村が見えてきたぞ。たぶん、あれが魔眼の一族が住むサンガンだ」
御者台に座る俺は荷台を覆う布をめくり、中の様子を覗うと、毛布を被り縮こまるリンが冷たい風が入ってくるから布を締めろと文句を言ってきたので、仕方なく俺は馬車を止めて荷台に入り布を閉じた。
「アンタ、よくこんな寒い場所で、ずっと外に居られるわね」
リンは荷台に入ってきた俺が全然、寒さなど気にしていない様子を見て、呆れた顔でなぜ極寒の地でずっと外にいることができるのかと聞いてきたが、正直、俺も寒いのは苦手でかなり辛かった。だが、体内の魔素を循環させ細胞を活性化させることで体温を上昇させることができると気付き、かなり寒い環境でも普通に動けるようになったと伝える。
「なるほど、確かに魔素を循環させ肉体全体の代謝を上げれば、少しは楽になるわね。けど、ずっと続けるには結構な魔素が必要だから、アンタじゃないと無理ね」
俺の説明を聞いたリンたちが、同じく魔素を循環させ体温を上昇させるが、かなり魔素を使うようで、すぐに循環を止めて毛布を被り直して寒さから身を守る。俺がその姿を見て苦笑していると、ライも荷台に入って来て、早く魔眼の一族に会いに行こうと急かす。
「師匠、なんで馬車を止めたんだ? もう魔眼の一族がいる村は目と鼻の先だぜ」
俺と同じく全然寒さを気にせず荷台に入ってきたライは、修行の一環だと言って馬車には乗らず、ひたすら歩き先行して斥候のようなことをしている。そんなライも、流石にジャフアンにいた時のような半袖半ズボンの軽装ではなく、ちゃんと防寒した服を着こんでいる。
とはいえ、俺とは違い魔素を循環して体温を上げている訳ではなく、この極寒の地を素の状態で長時間歩く事ができるライを見て、俺は高い身体能力を持つ獣人の中でも、さらに突出した肉体を持っているのだろうと推測する。
俺が極寒の中でも平気で動けるライの身体能力の高さに感心していると、アオがとにかく早く村に入って暖を取らせてほしいとお願いする。マヤも同じ気持ちのようで俺を見て何度も頷く。確かにこのままここに居ても、埒が明かないと思った俺は苦笑しながら、すぐに村に向かうと皆に伝えると全員大きく頷いた。
――――――――
アオたちに急かされ馬車を走らせて、急いで村に着いた俺は馬車から下りて門番にミナニシに準備してもらった手形を見せると、あっさりと村へ入る許可が下りた。俺は手形を受け取り門番に礼を言って馬車に乗り込むと、門番から魔眼について知りたいなら村長の所へ行けと助言されて、再度、礼を言って村に入る。
門を抜けて中に入った俺たちは、住民に村長の家を聞こうと大通りを目指すが、入口近くにいた中年の男に馬車での移動は止めてほしいと注意されたので、どこか適当な厩舎は無いかと尋ねたら、家畜と一緒で良いなら1日銀貨1枚で自分が預かると提案される。多分、最初からそれが狙いだと分かったが、無用な面倒ごとを起こす必要は無く値段も手頃なので素直にお願いする。
馬車を頼むついでに、追加で銀貨1枚渡して村長について尋ねたら、中年の男は満面の笑みを浮かべて、あとで息子に案内させるから暫く待って欲しいと言われる。俺は、こんな寒い中で待つのは無理だと思い近くにある食堂を指差して、あそこで待ってるから呼んで来てくれと告げて急いで中に入った。
暖を取るため入った食堂は、昼時を過ぎているためか客は疎らで、すぐに席に着く事ができた。全員が席に着くと女性の店員が注文を取りに来たので、適当に体が温まる物を持って来てくれとお願いすると、酒精が高そうな酒と温めた牛乳、それと牛乳をベースに鶏肉や野菜をじっくりと煮込んだ郷土料理を運んで来た。
テーブルに注文の品が揃うと、各々が適当に料理をとる中、リンがテーブルに置かれたコップを掴み顔に近づけると強烈な酒の匂いに思わず顔をしかめて、俺に突き出し、こんな強い酒なんて飲めないと言った。
「何よこの匂い、誰が飲むのよ、こんなのもの。サイガ、アンタ飲める?」
リンから突き出されたコップを受け取り、匂いを嗅ぐと確かに強烈な独特の香りが鼻を刺激するが、体を温めるには良くある方法で、おそらく29歳の大人だった俺なら似たような酒も飲んでいたはずだと思い忌避感無く口につける。
「たぶん、大丈夫だろう」と呟き口に入れた酒はいきなり喉を焼き、そのまま胃まで流れ込んで強烈な刺激を与えると俺は激しく咳き込む。もはや何かの劇薬ではないかと疑うほどの強烈な味と匂いを持つ酒を店員を呼んで下げてもらい、代わりに温めた牛乳を追加で頼むと、そんな俺の姿を見ていたリンが指をさして腹を抱え笑っていた。
……抱腹絶倒するリンを見た俺は、間違いなくアイツが、この酒がどのようなものか分かった上で、俺に飲むように誘導したのだと確信する。
俺が焼けた胃と喉を温かい牛乳を飲んで癒していると、食堂に小さい男児が入ってきて、俺たちのテーブルに近づき、村長の家まで案内すると告げる。男児の手が赤く擦り切れ、霜焼けで腫れているのが目に入り、俺は店員を呼んで何か甘い食べ物と飲み物を持って来てほしいと頼む。そして、男児に食事を終えるまで、これでも食べて待っていて欲しいとお願いした。
俺たちは、なるべくゆっくりと食事をして男児が食べ終わるのを待ち、村長の家の案内をお願いする。男児は上機嫌で頷き、俺の手を握り食堂を出ると、深く積もる雪の上を懸命に歩き先導するが、膝まで埋まる雪道は小さな体には厳しく見えたので、俺は男児を持ち上げ肩車をして、このまま案内してほしいと伝える。
俺が男児を肩車したまま村長の家まで歩いていると、ライが自分もして欲しそうにこちらを見ていたので、視線が合わないように真っ直ぐ前を向き進んで行く。ライの視線を無視しながら、暫く進むと小さな広場に着き、目の前に3階建ての大きな建物が見えてくると、肩車した男児が俺の頭を軽く叩き、ここが村長の家だと指差す。
俺は村長の家まで案内してくれた男児にお礼を言って、飴玉が入った袋を渡し気を付けて帰るように言うと村長の家に向かい歩き出した。
◆
サイガが男の子の頭を撫で、ジャフアンで買った飴玉を渡して「気を付けて帰れ」と笑顔で見送る。ボクがなんでお金を渡さなかったか尋ねると、多分、お金だと親に取られて、男の子には何も残らないと言って少しだけ悲しい顔をした。
ボクはそういえばサイガは家が貧しくて学校も通わず冒険者になって家計を支えていたことを思い出して、男の子を見送るサイガの顔を見て、ちょっとだけ胸が締めつけられた。
ボクがサイガの横顔を見つめていると、ライ君がずかずかと歩き出し村長さんの家の前まで行くと戸を思い切り叩き出し、大声でサイガが会いに来たと伝える。
「お〜い、魔皇である師匠が訪ねて来たぞ〜! 早く中に入れろ~!」
ライ君が折角、隠していた魔皇の身分を大声で村中の人に教えると、サイガは男の子を見送る時よりも、更に悲しい顔をしてライ君を見つめる。そんな可哀そうな近所の子供を見るような顔をするサイガを見て、ちょっとだけ笑いそうになった。
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