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129 討伐の報酬とサイガの反省

上半身がなくなったドラゴンが地面に横たわり、数百体の魔物の死骸が転がる死屍累々になったシーサン平野を眺めながら呆然と立ち尽くす私に、サイガとライが丘を登り近づいてくる。あれだけの魔物を討伐したというのに、いまだ余裕がある2人に戦慄を覚えるが、私は無理矢理笑顔を作って労いの言葉をかける。


「……お疲れ様です、サイガ様。まさか半日足らずで魔物の大襲来(デス・パレード)の討伐を終えるなんて、しかもたった2人で……」


サイガは私の言葉を聞き少し笑い、面白そうに訂正をする。


「おいおい、ミナニシ。2人なんて水臭い事は言わないでくれ。お前も討伐には参加しただろ? それに俺を援護(・・)しようと呪術を発動しようとしたじゃないか」


私が咄嗟に呪術を向けた事を揶揄うサイガを見て、再び背筋が寒くなり笑顔が崩れそうになると、ライが勝ち誇った顔をして追い打ちをかける。


「結局、姉ちゃんが何をしたかったか、分かんないが、下手な小細工なんか師匠には通じないって分かっただろ?」


ライの挑発に私は思わずこめかみに青筋を立ててしまうが、懸命に自分を抑えて、なんとか笑顔に戻すと、何も企んでいなかったと(うそぶ)く。


「何のことかしら? 私はただ、数年に1度発生する魔物の大襲来(デス・パレード)の討伐をお願いしただけよ。魔皇としての力を頼って……」


正直、魔物の大襲来(デス・パレード)の対応に困っていたのは事実だし、魔王より上位である魔皇の力を借りたいと思ったのも本当だ。ただ、ついでにあの(・・)お方達(・・・)が興味を持つサイガのことを少しでも知りたいと思っただけで、何も悪意があった訳ではない。


私が懸命に自らを肯定していると、サイガがこれで魔物の大襲来(デス・パレード)の討伐依頼は達成されたのかと聞いてきたので問題ないと告げる。私の言葉を受けたサイガは、大きく頷きライに協力を感謝すると報酬について尋ねる。


「これで依頼達成で良いなら、報酬を貰いたい。俺たちが探している魔眼の一族(・・・・・)について、知っている事を話してもらおう」


サイガは私を見つめて、報酬としてトンハイ領に住む魔眼の一族についての情報を要求するが、ここで話す訳にもいかず、まずはジャフアンに戻ろうと提案して、丘の下で待たせてある馬の魔獣の元に向かった。



俺たちが魔物の大襲来(デス・パレード)を討伐してシーサン平野から戻り王城に着くと、リンたちが応接室で待っていた。そして、俺が部屋に入るなり、リンが宿屋の受付に渡した伝言用紙を突き付け、何の相談もなく勝手に動くなと叱られると、それを見ていたミナニシが何を思ったのか、ニヤリと笑い俺の肩に撓垂れて私の為に戦ったのだから、あまり攻めないでと擁護する。


「ふ~ん、その人からお願いされたから、ほいほいと何も考えず魔物の討伐に行ったのね」


リンが俺の肩に頬擦りして寄り添うミナニシを見ながら不機嫌な表情を隠す事無く、色仕掛けに引っかかって付いて行ったのかと睨みつけると、俺はすぐにミナニシを引き剝がして、そんな事は無いと否定するが、リンもマヤも、そしてアオまでも疑いの眼差しを向ける。


俺が女性陣から睨まれて針の筵になると、珍しくライが気の利いた事を言って俺を援護する。


「リン姉さんたち、師匠は何もやましい事はしてないぜ。俺がずっと一緒にいたからな! 魔物の討伐の依頼も報酬が魔眼の一族の情報だったから、引き受けただけだ」


ライが予想を超えて理路整然と俺の無実を証明している姿を見て、初めてライを連れて来て良かったと感動していると、やはりライはライだったようで最後に余計な一言を言ってリンたちの怒りを煽る。


「けど、俺が部屋に突入するまで、2人きりで寝室にいた時の事は聞かないでくれよ! いくら耳が良い獣人の俺でも、そんな恥ずかしい真似はできない!」


……たぶん、ライは個人的な話に聞き耳を立てるような分別がない男じゃないぜと言いたいのだろうが、怒りで冷静な判断ができないリンたちには、別の意味で伝わったのは明白だ。ミナニシが隣であざとく頬を赤くして手を当てて、怒りの炎に薪をくべている。


俺はもはや何を言っても、どうにもならないと思い、おもむろに両膝を床につけて座り深々と頭を下げると、何も相談せずに討伐に向かった事を謝罪して、本当に何も無かった事を説明する。そして、最後に今後このような疑われるような事はしないと宣誓した。


俺が誠心誠意の土下座をすると、応接室は深い静寂に包まれる……。長い沈黙に耐えかねたマヤとアオが、いまだに土下座する俺にそこまでしなくて良いと立たせようとするが、リンがそんな2人を制止して、暫くはそのままでいるように命じると、ミナニシに殺気を込めながら魔眼の一族の情報を洗いざらい話すように言った。



私はリンさんの隣に座りミナニシさんが話す魔眼の一族の情報を紙に書き記していくと、真剣な表情で頷くサイガの姿が目に入る。床に正座して真面目に話を聞くサイガが少し可愛く思えて、微笑みかけると私に気付いたサイガも笑顔を返そうとするが、隣にいるリンさんから睨まれ、すぐに表情を引き締める。


そして、目の前にはリンさんから、いまだに殺気を向けられたままのミナニシさんと配下の文官たちが、城中から掻き集めた資料を見ながら必死に情報を伝えるが、占いの能力を持つホシミ族と違い、魔眼の一族は誰の庇護下に入ることなく、ほとんどの魔族と交流を絶っているようで、ミナニシさんたちも、あまり詳しい事は知らないみたいで、村の場所を記した古ぼけた地図以外に有益な情報は得られなかった。


そして、全ての情報を出し尽くしたミナニシさんが、これ以上は何も無いから勘弁してほしいとリンさんに言うが、まだ何か隠していないかと凄んでみせる。だが、本当に何も無いようで、私たちより年上の大人の女性が涙目になり勘弁してほしいと懇願する姿が可哀そうに思えて、もう許したらどうかと提案しようとすると、サイガが先に口を開き、これ以上の質問は酷だから許してほしいとリンさんにお願いする。


私はリンさんに頭を下げるサイガに艶っぽい視線を向けるミナニシさんを見て、もう暫くは2人とも反省が必要だと思い、情報を記した紙をひらつかせ、こんな情報じゃ討伐の報酬にはならないと、もう少し情報を出せとお願いした。


――――――――


私とリンさんが、あの後もしつこく何度も尋問を繰り返して情報を引き出そうとしたが、結局、あれ以上の情報は本当に持っていなかったようで、ミナニシさんをはじめ配下の文官たち全員が頭を下げて、これ以上は勘弁してほしいと懇願すると、再びサイガが私たちを諭そうとしたが、今度はミナニシさんが鬼のような形相で睨み、アンタは余計な事はするなと目配せして黙らせた。


深々と頭をさげるミナニシさんに冷たい視線を向けるリンさんは、小さく溜息を吐き、サイガにちょっかいをかけた事を許すと、最後に討伐の報酬として魔眼の一族が住む村に向かうために必要な食料や移動手段の提供と、各領地を自由に行き来でいる手形を準備させた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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