128 デス・パレード
物凄い速さで遠ざかっていくサイガとライを呆然と見つめていると、門番から声をかけられ我に返る。サイガたちと出会ってから、何度も呆然とさせられ、調子を狂わされる自分に舌打ちしたくなるが、気持ちを切り替えて、門番に配下の馬の魔獣を呼んでくるように指示を出すと、自らも討伐に向けて準備をする。
サイガの能力を調査するために雇った魔族は到着していないが、万が一、このままサイガとライだけで魔物の大襲来を討伐してしまったら、魔王の沽券に関わる。最悪、王領トンハイの統治が揺らぎかねない。私は討伐に参加しつつ、自らの目でサイガの力を見極めることにして、配下の馬の魔獣が来ると急いで飛び乗りサイガたちの後を追った。
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王都ジャフアンを出た私は、すぐにサイガたちに追いつけると思ったが、信じられない事にサイガたちは配下の馬の魔獣と同じかそれ以上の速さで走り切り、昼前にはシーサン平野に着いていた。
私は平野の近くにある丘を駆け上がるサイガたちを見つけると、ギリギリで2人に追いつけたことに安堵の息を吐く。そして、配下の馬の魔獣から飛び降り声を掛けようとすると、サイガが腰を落として両手を引き呪術を発動した。
「呪術:弐迅牙砲 (ニッシンゲポウ)」
サイガが両手を突き出すと、高密度の魔素で出来た2つの塊が魔獣の群れを目掛けて飛んでいき着弾する。着弾した魔弾は周囲の魔素と融合して、膨大な熱と炎を生み出し、猛烈な爆風を起こして数百いた魔物たちを一瞬で撃滅させた。
もはや同じ魔人なのかと疑いたくなる程の呪術を発動して、魔物の大襲来の魔物たちを半分以上倒したサイガは、残りの魔物たちも駆逐するぞとライに声をかけて丘を駆け下りた。
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俺は師匠が発動した呪術弐迅牙砲を見て、さすがは師匠だと感心した。数百はいた魔物たちは、あっという間に半分以下に減ってしまい、生き残った魔物たちも師匠が起こした大爆発に浮足立ち右往左往している。
これを勝機と見た師匠は、俺に声をかけるとすぐに丘を駆け下り、魔物の群れに突っ込んでいく。俺も負けじと急いで師匠の後を追うが、もうそこは魔物の死体が山積する地獄絵図と化していた。
オークやゴブリン、コボルトにオーガ……多種多様な魔物が師匠に襲い掛かるが、師匠はその全ての魔物を冷静に急所を狙い一撃で倒していく。自分の倍はあるオーガの頭に膝蹴りを入れると柘榴のように弾け飛び、大勢を引きつれて数で圧し潰そうとするゴブリンやコボルトたちには、超強烈な正拳突きで勢いを止め、高速の連撃で瞬く間に数を減らしていく。
そして、魔物を倒しては、すぐに離れて絶対に囲まれないように動く師匠に合わせて俺は呪術を発動する。
「呪術:布九帯填 (フグタイテン)!」
俺が師匠の後を追いながら呪いの言葉を叫ぶと、9枚の布が現れて羽衣のように俺の体を包む。そして、俺が魔素で出来た9枚の布を1つに纏めて真っ直ぐに伸ばして超強大な1枚の大布を作ると、腰を落として手刀を放つような構えをとり、思い切り横薙ぎに振り抜いた。
◆
迫り来る魔物たちを次々に倒していく俺の背後から、大量の魔素が集まるのを感じて振り向くと呪術を発動したライの姿が見えた。ライは魔素で出来た9枚の布に大量の魔素を込め真っ直ぐに伸ばすと、1つに纏まった巨大な布を魔物の群れを目掛けて横薙ぎに振る。
魔物を殴りつけていた俺はライの布が迫り来るのが分かり、咄嗟にしゃがむと頭のギリギリを掠めて通り過ぎ、大勢の魔物を両断していく。巨大な布はあっと言う間に数十体の魔物を屍に変えると、硬化を解かれ1体の巨大なギガント・オーガに巻きつく。ライは布に巻きつかれ身動きが取れなくなったギガント・オーガを思い切り引っ張り頭上に上げると、そのまま鎖鉄球のように振り回し、周りにいる魔物たちを薙ぎ倒していく。
ライは独楽のようにくるくると回りながら、遠心力を上げて大量の魔物を討伐していく姿を見て、この周辺にいる魔物は任せても問題ないと判断する。そして、上空にいるガーゴイルやグリフォン、ワイバーンをどうしようか考えていると、丘の上から小さな爆発音が聞こえ、次々と魔物たちが落ちていく。
俺は額の外殻を下ろし魔眼を発動して遠く離れた丘の上を見ると、魔素で出来た細長い円筒を魔物たちに向けて立つミナニシが見えた。
◆
半分以上減った魔物の群れをさらに追い詰めていくサイガとライを、呆れながら眺めていた私は、もうそろそろ戦いに参加しないと本当に2人だけで魔物の大襲来を討伐されてしまうと思い、2人が十分に離れた事を確認すると呪術を発動する。
「呪術:発砲火塵 (ハッポウビジン)」
私が人差し指を魔物の群れに向けると、魔素で出来た細長い円筒が現れて、私の手に収まる。私は手に握られた細長い円筒を見ながら、あの方たちが『銃』もしくは『鉄砲』とお呼びになった事を思い出すが、今は魔物を討伐することに集中する。
私がクロスボウの要領でワイバーンに狙いをつけ、標準がずれないようにゆっくりと引き金を引くと、小さな爆発音と同時にワイバーンの頭が弾け飛び絶命する。上空にいる他のワイバーンやグリフォンたちは突然、頭から血を流して落ちて行く仲間を見て周りを警戒するが、どこから攻撃されたか分からず混乱している。
私は右往左往する魔物たちに次々と狙いを定めて確実に射殺していくと、瞬く間に上空にいた魔物は地面に落ちて死体の山となる。そして、全ての魔物を掃討し地上に目を向けると、遥か遠くにいるはずのサイガと目が合い背筋がぞっとなる。思わず私が円筒を向けると、サイガは地面にある石を拾い、すぐさま投げる。
信じられない速度で飛んでくる石は、私の頬を掠めると遥か遠くに飛んで行く。あまりの速度に一歩も動けなかった私が呆然と立ち尽くしていると、サイガは再び、魔物の群れの方を向き、後衛に控える巨大なドラゴンを目掛けて走り出した。
◆
遥か後方にある丘の上から上空のワイバーンやグリフォンを次々と呪術で撃ち落としていくミナニシを見ていたら、突然、俺に向けて呪術を発動しようとしたで、とっさに地面に落ちている石を投げつけた。
俺が投げた石は魔眼の能力で寸分の狂いも無く飛んで行くと、ミナニシの頬を掠める。俺は頬から血を流し呆然と立ち尽くすミナニシを一瞥すると、これ以上は変なことはしないだろうと判断し、後衛に控える巨大なドラゴンに向かって走り出す。
ライがほとんどの魔物を討伐したおかげで、すぐに目の前まで辿り着けた俺に、ドラゴンは前足を振り下ろし圧し潰そうとするが、俺も拳を振り上げて迎え撃つと、ボゴンッと音がしてドラゴンの前足に風穴が空く。
前足を潰されて耳が破れんばかりの咆哮を上げて突進してくるドラゴンに、俺は再び第4段階の呪術を発動すると、真正面から突っ込むドラゴンは避ける術なく、まともに2発の魔弾をくらい、上半身が消し飛んだ。
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