127 予想外の行動
「師匠、なかなか壮観だな! これだけの魔物の群れは見た事がないぜ!」
師匠と俺はミナニシの王城に行き簡単な打ち合わせをすると、すぐに魔物の大襲来が発生している深大奈落の東に広がるシーサン平野に向かった。師匠もミナニシに何か思うところがあったらしく、変な小細工をされる前に討伐をした方が良いと思ったようで、俺が今すぐ出発したいと提案すると、即決で賛成してくれた。
俺が小高い丘の上から深大奈落から湧き出る魔物たちを眺めていると、いきなり師匠が背嚢を下ろし両手を腰まで引いて構えた。俺が何をしているのか尋ねると、師匠は軽く笑い露払いは任せろと言って呪術を発動した。
「呪術:弐迅牙砲 (ニッシンゲポウ)」
師匠が腰まで引いた手を一気に前へ突き出すと、膨大な魔素の塊が両手から放たれて、魔物の群れを目掛けて飛んでいく。2つの赤い魔弾は螺旋の様な軌道を描き、魔物の群れに着弾すると、耳が破れんばかりの轟音を上げて爆発した。
◆
私はサイガが呪術を発動して、一瞬でシーサン平野に群がる魔物どもの大半を殲滅する光景を眺めながら昨夜の事を思い返す。
昨日、私は門番から魔皇サイガが訪れたと報告を受けて、すぐに直属の密偵を放ち、サイガたちが泊まる宿を調べさせると、先回りして宿を管理している者に話をつけて、私が指定した部屋にサイガが泊まるように仕向けた。
サイガは都合が良い事に一人部屋を希望してくれたので、すぐに私がいる部屋に案内する事ができたと、寝室にいる私に密偵が報せに来てくれた。そして、密偵が去り暫く待つとサイガが私の元に訪れた。
私は寝室に入ってきたサイガを観察すると、門番や密偵の報告通り、見た目は十代半ばか後半ぐらいの大人になり切れていないガキで、少し色目を使えば、どうとでも騙せると思ったが意外と理性的で驚く。とりあえず、色仕掛けで落とせないと判断した私は正攻法で素直に大量に発生した魔物の討伐に協力して欲しいとお願いすると、あっさりと了承した。
予想外だったのは、自称サイガの一番弟子であるライが乱入した事だ。ライは私から魔物の大襲来の討伐の協力依頼を聞き、そんな危険な討伐に師匠1人を行かせる訳にいかないと同行すると宣言した。
サイガは同行を拒否したが、子供のように駄々を捏ねて一緒に付いて行くと喚き散らすライにジャンケンで決めようと提案したのが失敗だった。なぜ、バカというのはここ一番でジャンケンが強いのだろうか……。一発で勝負がつくとサイガは泣きの3回勝負に変更したが、それでも三連勝したライは意気揚々と王城まで付いて来た。
そして、深夜にも関わらずサイガたちが討伐についての説明を求めてきたので、申し訳ないと思いつつ配下の文官を呼んで説明をお願いした。夜遅くに起こされた文官は、魔物の大襲来にいる魔物の種類や数、活動時間など簡単な内容だけを矢継ぎ早に話すと、早くベッドに戻りたかったらしく、さっさと部屋から出て行った。
私が部屋から出る文官に謝罪と労いの言葉をかけていると、サイガたちは荷物を纏め始めたので何をしているのか聞いてみると、必要な情報は得たので、すぐに討伐に向かうと言い出した。
サイガの力を調査・分析するために今回の魔物の大襲来の討伐を利用しようと思っていた私は、相手の能力解析に特化した呪術を持つ魔族を雇っていた。だが、その魔族はまだ王城に到着しておらず、正式な契約も済んでいないため、今すぐ討伐に向かわれたら目的が達成できない……。
私は荷物を纏める2人に夜も遅いし、準備も出来ていないので2~3日待ってほしいと懇願するが、ライが今すぐ出発したいと再び駄々を捏ねだし、サイガもそんなライを諫めるどころか同調して、「なら2人で行くか」と散歩にでも誘うかのような軽い口調で言い部屋から出て行った。
私はそんな2人を呆然と見ていたが、そばに控えていた召使いに声をかけられ我に返ると、部屋から出て行った2人の後を急いで追い、町の正門前で追いついた。
「ちょっと、待って! なんでそんなに急ぐの? まだ私の配下の兵も準備ができていないのに!」
正門の前で地図を広げて目的地のシーサン平野の位置を確かめているサイガたちに声をかけると、ライが私に気づき何をこいつは言っているんだという顔をして答える。
「そんなの決まっている、あまり時間をかけると、リン姉さんたちが心配するからだ。それにどんなに数が多かろうが、所詮は魔物だろ? 師匠と俺だけで十分だ」
前半の内容は頷けるものだが、後半に関しては意味が分からない。十体や二十体の魔物の群れではなく、数百体の魔物の討伐に向かうのに、たった2人で問題ないとは、頭がおかしいとしか思えない。確かに魔王である私が本気を出せば、百近い魔物たちを討伐する事はできるが、シーサン平野にいる魔物の半分にも及ばない。
魔皇であるサイガの力は申し分ないと思うが、ライは魔王でもなければ、主でもない、ただの魔人だ。そんなライが何故、自信満々に魔物の大襲来の討伐なんて容易だと言うのだろうか。文官から大まかな魔物の数や種類については説明を受けて簡単な討伐ではないと分かっているはずだが……。
私がライの実力を推し量っていると、シーサン平野への大体の道順を把握したサイガがライに声を掛ける。
「ライ、ここから少し離れているようだが、走っていけば明日の昼前に着くと思うが、お前はどうする?」
今度はサイガが意味不明な事を言い出した。ここからシーサン平野まで上位の馬の魔獣を走らせ続ければ半日で着くかもしれないが、そんな名馬が簡単に見つかる訳がない。この王都ジャフアンでも私に仕えている1頭だけだ。サイガやライが乗る名馬なんか用意できない。
「俺も一緒に走るよ! これも良い修行になるしな、だけど、俺は師匠ほど早くないから、少しは気をつけてほしい」
「了解だ、なら早速、向かうか。じゃあ、ミナニシ、今から討伐に行ってくる」
私が馬の準備を遅らせる事で暫く足止めできると安心していると、サイガは背嚢を背負い、ライに出発するぞと声を掛けた。そして、サイガとライは走り出し、あっという間に私の前からいなくなった。
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