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125 サイガの弟子

ホシミ族の村を出て2カ月の旅を続け、ようやくミライの占いで出た一族が住むトンハイ領に入ることが出来た。例の御布礼(おふれ)が魔族領全体に出されたせいで、関所を通る度に必ず左手の甲を見せろと役人に言われ、その度に俺が魔皇と分かると平伏して、その領地を治める魔王や(ぬし)に会わせようとした。


そして、毎回、俺が丁重に領主への面会を断ると、次に嫌がらせのように領内に魔皇が訪れたことを報せて、次々と腕に覚えがある魔族が、魔皇の称号を狙って勝負を挑んできた。普通に決闘を挑んでくる魔族もいれば、知恵比べや色仕掛け、ジャンケンなど手を変え品を変えて様々な魔族が色々な方法で挑んできたが、決闘以外は全て無視した。


ちなみに色仕掛けをして俺を誘惑しようとしたラミアの魔族は、逆にリンとマヤから決闘を挑まれていた。俺はラミアの魔族がどのような戦い方をするのか興味を持ち決闘を見学しようとしたが、アオから見ない方が良いと言われて、その場から連れ出され買い物に付き合わされた……なに、それ、怖い!


たった2カ月だが、かなりの魔族と出会い戦ってきた……ゆっくりと魔族領の名所を観光できずにイライラとしていた俺は、挑んできた魔族をぶん殴ることでストレスを発散させた。早く魔神を見つけ出して、多くの魔族から狙われる身分から解放されたい……。


俺がトンハイ領を治める魔王が住む王都ジャフアンを一望できる丘の上に立ち、これまでの旅について思い返していると、背後から聞きたくもない声がする。


「師匠、早速、ジャフアンに乗り込んで魔王をぶん殴るのか?」


俺に決闘を申し込み盛大に負けたライが好戦的な笑みを浮かべて、すぐに魔王を倒そうと提案する。隣の王領トンペイで俺に戦いを挑んだライは、全ての呪術を受けきり、拳のみでねじ伏せた俺に何故か感銘を受けたようで、弟子にして欲しいと懇願した。


正直、弟子なんて要らないし、これ以上仲間が増えても面倒事しか起きないと思った俺は丁重に断ったが、ライは弟子にするまで一歩も動かないと言って、その場に座り込んでしまった。胸の前で腕を組み、梃子でも動かぬ(てい)で、目を瞑り座り込むライを無視して、俺たちはさっさとトンハイ領を目指した。


一歩も動かないと言ったはずのライは、そそくさとその場から離れようとする俺たちを薄目で見ると、すぐに立ち上がり後を追ってきた。そんな頭が可哀そうなライだが、実力は確かで既に第4段階の呪術を習得しており、俺との戦いでも第3段階まで呪術を使い、結構苦しめられた。それに体内にある魔素も俺やリンには劣るが、マヤやアオと変わらないほど保有しており、既に魔王並みだ。


実力的には魔王になってもおかしくないとリンが言ったので、魔王選定の儀に出てはどうかと勧めたら、第1試験の筆記で落とされるので無理だと言い返された。なんだか馬鹿にされた気がした俺が、何か言い返そうとすると、リンからどっちもどっちだと馬鹿にされたので、何も言えなくなった。


結局、なし崩し的に仲間になったライは、なおも好戦的な顔をして指を鳴らし獰猛に笑っている。


「なんで、すぐに戦おうとすんだ、お前は。まずは話し合いからだろう。というか魔王なんて会う必要もない。それよりも町に入って情報収集だ」


とにかく戦いたがるライに呆れながら情報収集するのが先だと俺が諫めると、リンが信じられない物でも見るかのような目で俺を見ていた。



ジャフアンに入る時に案の定、守衛から左手の呪紋(じゅもん)を確認されたサイガは、魔王の面会を申し込まれると思い身構えたが、最大限の敬意は払われたが、特に何も言われることなく、すんなりと通された。


「よかったね、今回は何も言われなくて。けど、あまりにも簡単に通されると、それはそれで少し警戒するよね」


拍子抜けした顔をするサイガにボクが話しかけると、同じ気持ちだったらしく苦笑いを浮かべて頷き、とりあえず宿を探そうと提案した。


「まぁな、何もなく町に入れたのはいいが、急いで宿を探そう。こうも寒いと外にいるだけで風邪を引きそうだ」


王領トンハイは魔族領でも最北に位置して1年を通して気温が低く、秋から冬に変わろうとしている今は、陽が射す昼間でも何枚も服を着ていないと過ごせない。サイガをはじめ皆が厚着をしている中、ライ君は半袖半ズボンと薄着でも平気なようだ。狼の獣人であるライ君も上腕や脛以外には体毛は生えていないので、かなり寒いと思うが、なんで平気なんだろう……。


ボクが不思議そうな顔でライ君を見ていると、リンちゃんが苦笑いを浮かべて私の疑問に答えてくれた。


「別世界のことわざで『馬鹿は風邪を引かない』ってあるらしいわ。サイガもそうだけど、ライもバカだから平気なのよ」

「リン姉さんの言う通り、師匠と俺は寒さに負けるほど弱くない。鍛え方が違うんだ!」


リンちゃんにサイガと一緒だと言われてライ君は喜んでいるが、その後ろで、サイガは物凄く嫌そうな顔をしている。少しサイガに同情するが、とりあえず急いで宿を探さないと日が暮れてしまい、どこにも泊まれない可能性がある。ボクたちは中央の大通りを歩きながら、良さそうな宿屋に目星をつけていった。


――――――――


「ほんと、良い宿が見つかって良かったわ。受付に聞いたら、地下の大浴場は温泉らしいわよ。地下から引いた源泉かけ流しだから、いつでも入って良いみたい」


リンちゃんがご機嫌に宿にある入浴施設について説明する姿を見て、ボクとお姉ちゃんは強引に宿を決めたリンちゃんの様子を思い出して苦笑いを浮かべる。


ボクたちがいくつか良さそうな宿屋に目星をつけ、どれにしようか悩みながら大通りを歩いていたらリンちゃんが、看板の横に「大浴場」と「温泉」という文字を発見して問答無用でお宿「アンミンカ」に決めた。


サイガやライ君は温泉よりも食事が美味しい方が良いと反論したが、リンちゃんが呪術:騎士鎧青(キシカイセイ)を発動して、剣の切っ先をサイガの目の前に突き付けると、人とも素直?に了承した。


宿屋の前で少し揉めたボクたちは、部屋が埋まる前に急いで建物の中に入り、受付へ向かった。受付へ向かう途中、建物の中を見たが、少し古いが造り自体は立派で歴史を感じさせる落ち着きのある宿で好感が持てた。


ボクたちは女性陣が泊まる大部屋1つと男性陣が泊まる一人部屋2つをとり、受け付けを済ませると各々の部屋に向かった。ライ君がサイガと同じ部屋に泊まりたそうにしていたが、たまには1人でゆっくりさせてくれとライ君を説得して、なんとか別々の部屋に泊まる事を了承させていた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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