124 サイガの魔眼
俺たちは朝起きて準備を済ませると、すぐに魔神捜索に向けた話し合いをするためにミライが住む社に向かった。向かう途中ですれ違う度に住人たちにハーピー討伐のお礼を言われて、その度にアオがきちんと受け答えをするため、かなり時間が掛かってしまったが、まぁ、アオらしいと思い注意をしなかった俺も同罪である。
俺たちが社に着くとすぐにネガイが出迎え、ミライがいる部屋まで案内してくれた。どうやらミライの寿命が近くなったことで、姪であるネガイが次期族長になる事が正式に決まったらしく、今は親元を離れて住み込みで族長になるための教育を受けているそうだ。
「おはよう、昨日はお疲れ様じゃ、昨夜は良く眠れたかの?」
部屋に入るとミライが柔和に笑い出迎え、改めてハーピー討伐への労いの言葉を掛ける。
「えぇ、かなり疲れていたみたいでベッドに入ったら、すぐに寝てしまったわ」
「だよね、ボクも気がついたら、もう朝だったよ。久しぶりかな、あんなに寝たのは」
ミライの言葉を受けて、リンとアオがゆっくりと休めたと言って笑い合い、マヤも十分に休めたようで顔色が良かった。3人とも本当にハーピー討伐の疲れは無いことが分かり安心したミライは、魔神捜索に向けた話し合いを始める。
「疲れは無いようで良かった。それじゃ、早速、魔神トガシゼン様の捜索について話し合うかの。まずは私の占いについて説明しよう」
ミライは魔神を捜索するために呪術を使う必要があるが、その制約や条件について説明をする。まず、ミライの呪術は4段階まであり、占いに特化した呪術は2つでどちらも万能では無く、多くの情報を得る事で精度が上がり、消費する魔素も少なくて済むらしい。
そういった理由で、なるべく魔神に関する多くの情報を得る必要があるが、その手掛かりすら無い状況である事を全員が認識する。そこで俺はまず、少しでも多くの魔神の情報を集める手段を占う事を提案する。できるだけ多くの情報を集めてミライに渡すことが出来れば、より正確に占う事ができるし、これから子を産む事になるミライの体の負担も小さくなるはずだ。
「なるほどの、確かにそれが良いじゃろう。今ならまだ、初潮もきておらんから、多少の無茶もできるしの。悪いが皆の記憶を見せてもらっても良いかの?」
俺の提案を受けて全員が内容を吟味して他に方法が無いとの結論を出すと、魔神の情報を得るための手段を占うために俺たちの記憶を見せて欲しいとミライから頼まれる。どのような情報が役に立つか分からず、なるべく多くの情報を得てから占いたいと説明するミライに俺たち全員が納得して頷く。
「そうか、なら早速、始めようかの。まずはサイガ殿からよろしいか?」
「あぁ、分かった、よろしく頼む。で、どうすれば良い?」
まずは俺の記憶を見せて欲しいと頼むミライに頷き、どのように記憶を見るのか尋ねると、ミライは徐に近づき俺の頭に手を置き、呪術を使って記憶を見せてもらうと告げる。俺はミライを見て頷き目を瞑り呪術を受け入れる準備をすると、ミライが呪いの言葉を呟く。
「呪術:逸実潜拾 (イチジツセンシュウ)」
ミライの手から俺の頭に魔素が流れ込んでくるのが分かり受け入れる……頭の中を弄るような不快感はなく、ゆっくりと染み込み深く潜り、俺すらも覚えていない記憶を拾い上げていくような不思議な感覚になる。どれくらいの時間が経過したか分からないが、ミライから十分な情報を見れたと告げられて目を開く。
「なるほど……。サイガ殿は魔眼の持ち主じゃったか、しかも、かなり珍しく強力な魔眼のようじゃ。一応、他の3人も記憶を見せてもらうが、多分、占いの結果は変わらぬだろう」
ミライは俺の記憶を見て、既に占いの結果が分かったようだが、俺たちにはさっぱり分からず、お互いの顔を見合って首を傾げると、苦笑いを浮かべたミライが説明をする。
「多分じゃが、サイガ殿の魔眼は、儂の呪術並みの能力を持っておる。どれくらいの魔素が必要なのか分からんし、どのようなモノが見えるか分からんが、占いに似た能力である事は記憶を見て予想ができた」
俺の魔眼はミライの呪術に近い能力みたいで、同じような能力を持ったミライだからこそ、その能力に気付くことが出来たとのことだ。そして、この能力を使う事が出来れば、魔神の情報を得るための手掛かりも見つけられるのではないかと自らの仮説を話した。
「なるほどね、なら私たちの記憶は見る必要はないわね。占ってもうら内容は『魔眼について』で良いんじゃない」
「そうですね、正直、人間に戻るためとは言え、記憶を見られるのは少し抵抗があります」
ミライの予想を聞いたリンとマヤは、魔眼について占ってもらう事を決めて自らの記憶を見られることに抵抗を示した。確かに魔族領に来て間もないマヤやアオの記憶を見ても、大した情報は得られないかも知れないが、リンは生まれも育ちも魔族領なので、有益な記憶を持っている可能性がある……。俺は不思議に思いリンの方を見ると頭に直接、意思が伝わってきた。
『女の子には、知られたくない秘密があるのよ。あまり深く詮索せずに、魔眼について占ってもらいなさい。これは命令よ』
にっこりと笑うリンに俺は何度も頷き、ミライに魔眼について占ってもらえないかとお願いするとミライも、なるべく呪術を使って魔素を消費したくなかったらしく安堵の表情をして了承する。
「確かに魔眼について占った方が良いだろう……。より具体的な内容の方が占いの精度も上がるし、正確に伝えられる」
「そうか、なら悪いが早速、占ってもらえるか? それとも明日以降の方が良いか?」
ミライも正確に占うなら、より具体的な内容の方が良いと話したので俺はすぐにでも占えるかと尋ねると、呪術も1回しか使っておらず、魔素にも余裕があるので問題ないと答えた。
「分かった、少し無理をさせるかも知れないが、よろしく頼む」
俺は占っても良いと言ったミライに頭を下げ、何か手伝う事は無いか尋ねると、ミライから僅かで良いので魔素を譲渡してほしいと言われて手を握り魔素を譲渡する。
「うむ、確かに受け取った。これで全ての条件は揃った……。では始めさせてもらうぞ」
ミライは体内に流れ込んでくる俺の魔素を受け取り目を瞑ると、じっくりと吟味するように自分の魔素と融合させて呪術を発動した。
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