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123 ホシミ族の秘密

私はアオに倒され地面に横たわるオンフを哀し気に見つめるエンニの元に近寄り、切っ先を向けて口を開く。


「悪いけど、止めを刺させてもらうわ」


オンフを殺され生きる意味を失い呆然として私を見上げるエンニは、薄く笑うと運命を受け入れ目を閉じる。私は少しだけ躊躇うが、情けは無用と渾身の力で青剣を振り下ろし首を刎ねた。


……これまで多くの魔族や魔物たちを弄び蹂躙してきた凶悪な彼女たちに対し、少しだけ同情した自分に気付き、捕らえられた魔物に同情するマヤやアオに注意した事を思い出し苦笑いを浮かべ、自分には注意する資格が無かったと反省する。


私は地面に転がるエンニの首を一瞥して背を向けるとマヤたちの元に向かった。


――――――――


「そうか、ご苦労じゃったな。やはり儂の占い通りじゃったか」


私たちはエンニたちを倒した後、残りのハーピーの群れも掃討してホシミ族の村に戻ると、ミライたちに無事に討伐が成功した事を伝えた。


ミライの占いは私たちに『雄々しくも群れ為す者共の心は悪妃の虚言に踊らされる』と告げた。最初は意味が分からず混乱したが、ハーピーたちの討伐隊を率いたゲンダイからも話を聞き、情報を纏めて魔族化したハーピーであるエンニとオンフの呪術の内容について占ったのだと予想した。


私の隣で同じくミライの占いを聞いていたサイガが、意味が分からず遠くを見つめていたので、直接、頭の中に思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた後に、私が予想した呪術の内容を説明したら、よほど心が傷ついたのか理解するまでには及ばなかったようで、もう一度聞いてきた。私は仕方がなく丁寧に、もう一度、罵詈雑言を浴びせた後に説明したら、サイガもミライの占いについて分かってくれたようで、何度も頷いてくれた。


「えぇ、捕らえられていた魔族や魔物も男性ばかりだったから、占いが間違っていないと確信が持てたわ」


捕らえられた魔族たちを見て群れで行動する(おとこ)を対象に操作する呪術であると確信したが、いくら厳しい制約と制限があるとはいえ大勢の者を意のまま操る程の呪術が存在するのか疑問もあった。だが、実際に目の当たりにして、二人の呪術と魔素を掛け合わせる事で発動する特殊なものだと分かり、納得する事ができた。


「そうか、これで暫くは、この辺りも落ち着き平和になるじゃろう。本当に助かった」


私たちが報告を終えると会議室に集まった多くの重鎮たちがお礼を述べて会議室から出ると私たちとミライ、そしてネガイだけとなり、村に帰ってからずっと気になっていた事を聞いてみる。


「ミライ、あなた、少し成長していない?」


私たちがハーピーの討伐に行ってから3日しか経っていないが、ミライは少しだけ背が伸び顔も少女から大人に変化しつつあるように見える。私の言葉にマヤやアオも同じ事を感じていたようで私の方を向いて頷き、サイガは何も気付かなかったようで驚き唖然としている。


サイガが気付かなかったのも無理もない事で、毎日、顔を合わせていれば少しの変化に気付く事は難しい。それほど小さな変化ではあるが、僅か3日という期間を考えると見過ごせる変化ではない。


「やはり、気付いたか。そうじゃ、成長しておる。正確には老化と言った方が良いかもしれんが……。だが、これで儂も子を成し、子孫を残す事ができる」


私の言葉にミライは頷くと、少し寂しい顔をして自分が成長していることを認め、寿命が近づいていることを教えてくれた。そして、大人に変化しつつあること、子供を生み育てることができる体に成長し始めたことを告げた。


ミライの口から出た事実に私たちは驚き呆然と立ち尽くす……。


確かに一族の半数以上が不老であるホシミ族も、寿命は他の魔人と同じ100歳前後らしく、寿命が近づくと一気に成長し老化が始まり亡くなってしまうことは、以前にも聞いていた。だが、その僅かな期間のみが子を作り、子孫を残す事ができる貴重で重要な時間だということは知らなかった。


私たちはいまだにホシミ族の衝撃の事実に何も言えずにいると、ミライは苦笑いをして口を開いた。


「儂らは見ての通り十代前半で成長が止まる、正確には初潮が始まる前に止まるのじゃ。そして、寿命が近づき、再び成長が始まる僅かな時間のみ子を成す事を許される。だから、あまり多くの子を生む事はできぬ。我が一族が少ないのは、そういう事じゃ」


なぜミライが哀し気な顔をしていたのか、本当の意味で理解した。ただ、寿命が近づき死ぬことを憂いていたのではなく、我が子を育て成長を見守る事が出来ずに死にゆく運命にある自分への悲壮感や、生まれる子供にも同じ哀しみを背負わせる事への罪悪感など様々な気持ちが渦巻き葛藤して出た表情だと……。


ミライは確か「自分たちはある実験の過程で生まれた種族」と言ったが、こんな哀しい運命を背負わせた人物に激しい怒りと嫌悪感が沸いてくる。まさか、今の魔神トガシゼン様が行ったのだろうか……。


私の表情を見たミライは再び苦笑いを浮かべると、首を横に振り私の予想を否定する。


「トガシゼン様をはじめ魔族の誰かが行った実験ではない。もっと遥か昔に魔族では無い誰かが行ったものらしいが、かなり古く伝承にも残っていないのじゃ」


ミライは私の心を見透かし、トガシゼン様への不信感を払拭すると、魔族では無い誰かが行った実験だと教える。魔族ではない誰かとは……。この世界にいる種族は、魔族以外では人族と魔物しか存在しないはずだ、まさか人族の誰かが……。


私の考えに気付いたマヤたちも、まさか同族の誰かが、このような惨い実験を行ったのかと思い顔が青くなるが、サイガだけは表情を変えず、じっとミライを見据えて口を開いた。


「伝承に残っていないのに、何故、魔族では無いと分かるんだ? ミライ、あんた、もしかして占ったのか?」


サイガはミライの言葉を吟味し自分の中の違和感に気付いたが、ミライが嘘を言っている様子も無く事実であると分かり占いで得た情報だと思ったらしい。いつもは馬鹿なくせに、たまに鋭くなるのが本当にムカつく。


「そうじゃ、昔、己の運命を恨み、このような状況を作った張本人が知りたくて占ってしまった。おかげで全ての魔素を使った儂は、三日三晩寝込んでしまったがの。それだけしても得られた情報は、実験を行ったのが魔族ではない誰かと言う事だけじゃ、人族なのか、魔物なのか、それともそれ以外の何者なのか……。そこまでは占う事はできなかった」


ミライはサイガの指摘を肯定すると過去に、実験を行った張本人の情報を得るために占ったと話した。だが、全ての魔素を使っても得られた情報は僅かで殆ど何も知らないのと同じだと自嘲気味に笑った。


「もう、儂らの事は良いじゃろう。それより魔神トガシゼン様の捜索についてじゃ。お主たちが何故、トガシゼン様を探しているかは、1カ月程前に訪れたカイ殿から聞いて知っておる。まずは明日、何を占うべきか話し合うぞ」


ミライはホシミ族を生み出した実験やその張本人についての話を打ち切り、魔神を探すための話し合いを明日行うことを私たちに告げて、今日はお開きになった。


お読み頂き、ありがとうございます!

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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