122 ハーピー討伐(3)
「呪術:隷獄夢城 (レイコクムジョウ)」
私が魔素を込めて呪いの言葉を告げると、エンニの背後に様々な骨で作られた城の形を模した玉座が現れる。その美しくも禍々しい玉座にエンニが腰を下ろし魔物たちに呪術をかける。
「呪術:令告夢妃 (レイコクムヒ)」
私が創った玉座に座るエンニに魔物たちは、女王に従う奴隷のように跪いて臣下の礼をとると、エンニは侵入者たちの討伐を命じた。女王から命令を受けた魔物たちは自らを縛る鎖を引き千切ると、一斉に女たちに襲いかかった。
……私たちの呪術は2つで1つの強力な呪術となる。私の呪術:隷獄夢城で女王が座する玉座を創り出し、エンニの呪術:令告夢妃が魔物たちを支配する女王の称号を与える。そして、女王の称号を得たエンニは玉座に座り、その場に群がる雄たちを支配する。
自らの命も顧みなくなった魔物たちは、手足が切断されようがお構いなしに女たちを襲い続ける。魔物たちの数は少なくなったが、どれも強力な力を持ち、例え首だけになろうが、女王の命令を守るため必死になり向かって行く。
呪術が使える女たちの方が魔物たちより戦力は上だが、決死の覚悟で攻め続ける魔物たちの迫力に飲まれて次第に追い詰められ、周囲を囲まれてしまう。逃げ場を無くした女たちを見て冷酷に笑うエンニと私は、魔物たちに出来るだけ惨たらしく殺すように命令を出した。
◆
周囲を囲まれ逃げ場を失った私たちは、徐々に包囲を縮められて追い詰められていく。先程まで激しく襲いかかってきた魔物たちは、エンニたちから惨殺するように命じられると攻撃の手を緩めて、じわじわと嬲るような攻撃に切り替える。
私たちはお互いに背を合わせて、包囲された魔物たちの攻撃を凌ぎ反撃するが、痛みを無視し一歩も引かない魔物たちに隙を作る事ができない。このままだと魔物たちに圧し潰されて身動きが取れなくなると思った私は、マヤたちに指示を出す。
「マヤ、アオ、私が今から突破口を作るから、すぐに魔物たちの包囲から抜け出して!」
私が呪術を使い、魔物たちの肉壁に穴を空けるので、すぐに抜け出し背後から挟撃して欲しいと伝えると2人とも頷き、私は呪術発動の機会を覗う。なかなか呪術を発動できない私を見たマヤは、徐に矢を2本持つと、素早く弓を引いてエンニとオンフを目掛けて速射し2人の頬を掠める。
突然、標的を魔物からエンニたちに替えたマヤの攻撃に、それまで余裕の表情を浮かべていたエンニたちは慌てて魔物たちに自分たちを守るように命令すると、魔物たちは一斉にエンニたちの方を向く。
私は決定機を作ってくれたマヤに感謝し呪術を解き青い鎧が消えると、エンニたちを向き背を見せる魔物たちに新たに覚えた第2段階の呪術を発動する。
「呪術:鬼獅喝声 (キシカイセイ)!」
私が大声で呪いの言葉を放つと、私の声は獅子の形となり魔物たちに向かっていく。私の声と魔素によって生み出された獅子は、額に鬼のような角があり、背中には大きな翼が生えている……その異形の獅子は音速の速さで魔物の肉壁を駆け抜けながら、鋭い爪と強力な牙で蹂躙した。
マヤとアオが異形の獅子が作った突破口に飛び込み駆け抜けるのを確認した私は、再び呪術:騎士鎧青を発動して青き鎧に身を包み魔物の群れに突っ込んだ。
◆
リンさんの呪術で浮足立つ魔物たちに容赦なく弓矢を放つと、リンさんも呪術で青き騎士となり魔物たちを蹂躙し始める。そして、見る見るうちに魔物たちが討伐されると、混乱するエンニたちは遠距離からしか攻撃できない私を見つけて、残虐な笑みを浮かべて魔物たちに私を襲うように命令を出すが、直前にオンフの背後からアオが現れて赤い羽を斬りつけた。
……魔物たちの包囲を抜け出したアオは、すぐに呪術:潜沈染零で存在を消すとエンニが座る呪いの玉座に隠れて隙を覗い、呼吸を止めている僅かの時間に隙を見せてくれたエンニの隣に立つオンフに、呪術を解除し躊躇なく赤い羽を斬りつけて、その場を離脱した。
羽を斬られて呪術に集中できなくなったオンフは、呪術を解除し玉座を消すと残り3枚の羽を使い上空に逃げようとする。だが、支配から解放された魔物たちが逃げ出し、オンフへの射線が通った私は、すかさず呪術を発動し光速の白き矢を連続で放つ。
しかし、私が放った4本の矢は全てオンフを庇ったエンニに命中して、体中から血を流しながらエンニは地上に落ちた。
◆
エンニは身を挺して私を庇うと、黒髪の女の呪術に射抜かれてしまう。4枚の羽すべてが傷つき飛ぶ事が出来なくなったエンニは、無傷の私に逃げるように伝えると、そのまま地面に落ちて行く。
私はエンニの言葉を無視し急降下して両足でエンニの羽を掴むと、地面に激突するのを防ぎ、そっと地面に降ろし力なく横たわるエンニを見下ろすと、底知れない怒りが体の奥から湧き出る。私は感情を抑えることはせずに赴くまま一気に爆発させると、頭の中に声が響き新たな呪術を習得したと告げられる。
「呪術:黎黒矛砂 (レイコクムジョウ)」
頭に響く呪術を発動させた私の目の前に黎い黒砂で出来た矛が現れると、私は両足で掴み、弓を構えて私たちを狙う黒髪の女に襲いかかる。
槍を構え迫り来る私に気付いた黒髪の女は、とっさに呪術を放つが光速で飛んでくる矢を黒砂の矛は盾に形を変えて防ぐ。そして、私はすぐに矛の形に戻し、そのままの勢いで黒髪の女に迫り黒砂の矛を突き出す。
黒髪の女が目の前に迫る黒砂の矛に為す術もなく立ち尽くしていると、突然、黒髪の女に似た金眼の女が現れて、黒砂の矛に短刀を突き出し止めようとする。だが、黒砂の矛は短刀を吸い込み、勢いそのままに黒髪の女に突き刺さるかと思われた瞬間、目の前から黒髪の女が消えた。
◆
私は呪術でオンフを迎え撃つが、黒い槍が変形し弓矢を弾くと、オンフはもう目の前まで迫っていた。私を目掛け突き出される黒い槍を、呪術を解いて現れたアオが、私を守ろうと短刀を突き出すが、黒い槍は流体のように短刀を吸い込み、矛の形を保ったまま私の心臓を突き刺そうとする。
もう避けることも防ぐことも不可能な距離まで詰められ、死を覚悟した……その時、突然、頭に新たな呪術が浮かび上がった。
「呪術:進来一転 (シンキイッテン)」
私は頭に浮かんだ呪術を呟くと、目の前に迫るオンフが一転して背を向け遠ざかって行く。短刀を突き出したアオは一瞬、唖然とするが、すぐにオンフが遠ざかるのが分かると呼吸を整えて私の無事を確認する。
状況が理解できないオンフは周りを見渡して背後にいる私を見つけると、再び黒き槍を構えて突っ込んで来る。私が弓を引く姿勢となり呪術を発動しようとするが、アオが手を上げて止めると、オンフに向かって走り出した。
◆
ボクはお姉ちゃんに迫る黒い槍に短刀を突き出して軌道を逸らそうとしたが、黒い槍は抵抗なくボクの短刀を吸い込み、お姉ちゃんの心臓に突き刺さる……と思った瞬間、僕の頭の中に新たな呪術を習得した事が伝えられる。
ボクがすぐに呪術を発動してお姉ちゃんを助けようとしたが、急にオンフが方向転換をして明後日の方向に黒い槍を突き出し遠ざかって行った。ひとまず、危機を脱したと思ったボクは突き出した短刀を仕舞い、お姉ちゃんの無事を確認する。
混乱しながらもお姉ちゃんを探し出したオンフは、黒い槍を構えると再びお姉ちゃんに突っ込んで来た。ボクはお姉ちゃんが迎え撃とうと弓を引く姿勢になるのを制止すると、オンフを目掛けて走り出し呪術を発動する。
「呪術:翠刃尖冷 (ゼンシンゼンレイ)」
走り出した僕の手に翡翠のように緑色に輝く短刀が現れ収まると、目の前に迫る黒い槍に再び突き立てる。何も手応えを感じず吸い込まれている短刀が急に光ると刀身から絶対零度の凍気が溢れ出し、黒い槍を凍らせる。
凍り付いた黒い槍を弾くと、信じられない顔で凝視するオンフに詰め寄り、ボクは素早くしゃがみ込み一気に跳躍して、腹部から胸部を目掛けて斬り上げる。胴体を縦に引き裂かれて傷口が次第に凍っていくオンフは、飛ぶ力も失い地面に落ちて力尽きた。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。
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