114 チョグーン領を目指して
「サイガ、早くやっつけて先に進むわよ!」
「頑張れ〜、サイガ。あと少しだよ~」
「……助けて欲しい時は言ってくださいね」
今、俺は三者三様の声援を受けながらコボルトの群れと戦っている。魔神を探すために旅立った俺たちは、リンの提案で、まずジュウカン領の南にあるチョグーン領に向かうことになった。例の御布礼が出る前に領境を越えることが出来たのは良かったが、2つの領を跨る峡谷を抜けなければならず、そこを根城にしているコボルトの群れに見つかってしまった。
魔族化していないコボルトたちは敵ではなかったが、とにかく数が多く、既に100体以上を倒しているが、いまだに数は多く襲い掛かってくる。最初は俺1人で十分だと思い、リンたちには後ろで休んでいるように言ったが、少し手伝ってほしい……。
いつまでも諦めずに攻撃をしてくるコボルトたちに、うんざりしてきて俺が手伝ってほしいと頼もうとした時、リンから意思が飛んできた。
『甘えてるんじゃないわよ、アンタが1人で大丈夫って言ったんでしょ。さっさと倒して先に進むわよ』
無慈悲なリンの言葉が頭に響き、俺は少しだけ目に涙を浮かべると歯を食いしばり、先頭のコボルトを思いっきり殴り飛ばし、後続のコボルトたちにぶつける。そして、吹き飛ばしたコボルトにぶつかり揉んどりを打って倒れるコボルドたちを確認した俺は呪術を発動する。
「呪術:弐迅牙砲 (ニッシンゲッポウ)」
俺は素早く両手を腰に引き、一気に魔力を溜めて2つの魔弾を狭い谷間にひしめき合うコボルトの群れを目掛けて放つと、2つの赤い魔弾は螺旋描く様に飛びながら大勢のコボルトを巻き込み、遥か遠くにある岸壁にぶつかり爆発した。
200体以上を巻き込み爆発して血の雨を降らせた魔弾を放った俺を見た残りのコボルトたちは、化物でも見るような視線を向けると、すぐに背を向け一目散に逃げて行った……ソギャン、ニゲンデモヨカタイ。
……とりあえず、コボルトの群れを討伐した俺は、リンたちの方を振り向き安否を確認すると、3人とも化物を見るような顔をしていた。確かにやり過ぎたかも知れないが、そんな表情をされると涙が出そうになる。
◆
相変わらず馬鹿げた戦い方をするサイガを応援しながら、次の目的地について考える。チョグーン領を治める魔王オオガエルは、温厚で人族に対しても割と友好的だ。隣り合う領地ということで私とも仲が良く、エルさんと呼び、お互いの領地運営について相談した。
もし、エルさんが魔神の情報を持っているなら教えてくれると思うし、知らなくても、魔神の情報を持っていそうな魔族を紹介してくれるだろう。とりあえず、まずはチョグーン領の王都グゥンダオに行き、彼女に会わなければ何も始まらない……。
私が今後の方針を考えていると、サイガが巨大な魔弾を放ち大勢のコボルトを一瞬で殲滅した。修練場で放った魔弾を上回る大きさの魔弾を見て、私はもちろん、マヤやアオも呆然としている。本当に同じ魔人なのだろうかと疑うほどの強さを手に入れたサイガを見て呆れていると、何故かサイガは少し落ち込んでいた。
――――――――
私たちはコボルトの群れと遭遇して以降、魔物や野盗など誰からも襲われることなく順調に進み、日が暮れる前に主都サンコウに着く事ができた。正門で町に入る手続きをする為に待っているとマヤが声をかけてきた。
「リンさんは、ここを治める主をご存知なんですか?」
「いいえ、知らないわ。けど、この町の様子を見ると、ちゃんとした主だと思うわ」
正門に並ぶ大勢の魔族たちの表情は明るく、奥に見える街並みは綺麗に清掃されており、きっと、ここを治める主の統治がちゃんとしているおかげだろう。私とマヤが話している間に、手続きを待つ行列は捌けて私たちの番になる。
「ようこそ、サンコウへ。身分を証明できるものはお持ちですか?」
「えぇ、これで良い?」
私が先頭に立って門番にララが発行した身分証明書を渡すと、門番は中身を見て問題ないことを確認する。
「はるばるジュウカンからご苦労様です。身元も確認できましたので、中に入っていいですよ」
「ありがとう、それじゃ、入らせてもらうわ」
門番に礼を言うと私たちは正門をくぐり町に入るが、途中で巨大な背嚢を背負うサイガを見て、門番が唖然とする姿が目に入り思わず吹き出しそうになった。
◆
初めて見る街並みに興奮して、ボクがあちこちと見ているとリンちゃんから田舎者と思われるから止めてほしいと注意される。その横でボク以上に興奮して町の景観を見ていたサイガは、急に体がビクッとしてリンちゃんの方を向き、何度も頭を下げていた……不思議だ。
ここまで案内してくれたリンちゃんも主都サンコウに来るのは初めてみたいで、どこの宿に泊まろうか迷っていると、大通りに面したひと際大きい建物が目に入る。ボクが何の建物なのか顔を向けると、入口の上に大きな看板が掛けてあり「宿屋サンロージ」と書かれていた。
ボクが建物を眺めているとリンちゃんが声をかけてきた。
「確かに良い宿ね。お金もあるし、ここに泊まる?」
「いいの、かなり高そうだけど?」
「大丈夫よ、お金を出すのはサイガだし。まだまだ旅は始まったばかり、ここで無理して安い宿に泊まる必要はないわ」
リンちゃんが冗談っぽく言うとサイガも苦笑いを浮かべ頷き、問題ないと言って「宿屋サンロージ」の入口に向かった。
――――――――
今、ボクたちは重大な問題に直面している。……予約もなく飛び込みで入った宿だったが、何とか部屋をとることができた。だが、1人部屋はもちろん2人部屋も全て満室で空いている部屋が4人部屋しか無かった。
今さら他の宿を探すには夜も遅く、仕方なくボクたちは4人部屋に泊まることにした。ただ、4人部屋と言ったが、最上階にある豪華な部屋で寝室から居間、応接室もある立派な造りになっているのだが、寝室は1つだけで大きなベッドが2つしかなかった。
誰と誰がどのベッドで寝るのか……というか、誰がサイガと寝るのか。ボクなのか、お姉ちゃんなのか、それともリンちゃんなのか、重大な決断を迫られて、皆がベッドの前で沈黙していると、リンちゃんが口を開いた。
「いつまでここに居るつもりなの、サイガ、早く出てって。アンタは応接室のソファで寝なさいよ」
リンちゃんはサイガに毛布を渡すと、さっさと出て行けと寝室から追い出す。サイガも慣れているようで、文句も言わず毛布を受け取ると寝室から出て行った。ボクは明日からもう少しサイガに優しくしようと思った。
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