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113/202

113 旅の始まり

主都フーオンの近郊で起きた謎の爆破事件から2日が経った。その間、サイガはリンちゃんとララちゃんに説教をされ続け、罰として修練場の後片付けを言い渡された。


「サイガ~、これ、何処に運べばいいの?」


ボクは修行を兼ねて修練場の後片付けをしているサイガを手伝い、お姉ちゃんはリンちゃんたちと明日からの魔神捜索の旅に向けて話し合いをしている。


「それは、こっちに持ってきてくれ。後で纏めて俺が運ぶから」

「分かった、じゃ、ここら辺の道具も一緒に運んでおくね」


サイガは巨大な金属の球や大きな金属片などの廃材を運びながら、ボクに指示を出していく。久しぶりに2人で行う作業は魔王討伐の旅以来で、とても楽しく作業は捗り、気が付くと沢山の器具や道具があった修練場は、何もない更地になっていた。


「ふぅ〜、ようやく終わったな。手伝ってくれてありがとう、アオ」

「ううん、気にしないで。ボクも難しい話し合いより、体を動かした方が良かったから」


修練場にあった沢山の器具や道具を載せた巨大な荷車の前に座り、ノーベさんが準備してくれた昼食をサイガと食べる。ボクは何気なくパンを齧るサイガの横顔を見つめる……生まれ変わったサイガは、昔の面影を残したまま十代後半まで若返り、精悍な顔に幼さが残り、ちょっとだけ可愛く見える。今のサイガはボクより少し年上のお兄ちゃんみたいだ。


「ん? どうした、アオ。ぼーっとこっちを見て」

「え! いや、本当にサイガは若返ったんだなぁと思って」


サイガが振り向くと、思わずボクたちは見つめ合う格好になる。アルスもかっこいいと思うけど、ボクはサイガの顔の方が断然好きだ。戦う時の真剣で精悍な顔つきや無邪気に笑う屈託のない笑顔……両極端な2つの表情を見せるサイガが大好きだ!


ボクがサイガの顔を眺めながら恥ずかしい事を考えていると、サイガの手が頬に触れる。


「アオ、本当にどうしたんだ? 顔が赤いぞ、それに少し熱いようだが……」

「そ、そうかな? 多分、日差しが強いから熱さに当てられたのかな?」


ボクはサイガの冷たい手の感触を感じ、ますます顔が赤くなり体温も上がっていくと、サイガは心配そうに顔を覗き込む。ボクは別世界の言葉でいう『ラブコメ』のような雰囲気から逃げ出したくて急いで食事を終えて、作業に取り掛かろうとするが、サイガに止められてしまう。


「もう、無理はするな。後はこの荷物を運ぶだけだから、アオはここに座って休んでいてくれ」


サイガは肩に手を置き、大量の荷物を積んだ荷車の御者席を指差し、座って休んでいろと言い、おずおずと座るボクを確認すると、梶棒を握りそのまま荷車を引き始める。


自分の10倍以上ある巨大な荷車をいとも簡単に引いて、そのままフーオンまで向かうサイガを見て、道中ですれ違う人たちが驚愕の表情をしていたが、サイガは気にした様子も無く黙々と引き続ける。そして、御者席に座るボクを見た人たちは、サイガを従わせる主人と勘違いしたようで畏敬の念を送られ、恥ずかしくてずっと俯いていた。



いよいよ、魔神を探す旅に出発する日を迎え、町の正門にはララやノーベさんが見送りに来ている。ララが大きな背嚢を背負おうとしていた俺に声をかける。


「とりあえず、私たちで出来るだけの準備はしたから、後はお願いね」

「分かっている、ララ。マヤやアオはもちろん、リンも危険な目に遭わせるつもりはない」


俺と話しながらもリンの方に思わず視線が向くララに気づき、リンも必ず守ってみせると約束し、様々な道具が詰め込まれた背嚢を見る。ララやノーベさんたちには、魔族領全域の地図から魔金貨の両替、必要な道具や各領地の情報を纏めた資料など、様々な物を準備してもらった。


……俺たちが人間に戻った暁には、ララやノーベさんをはじめ、このジュウカン領に住む多くの人たちにお礼をしなければならないと強く思う。そして、まだ何をすれば良いか分からないが、この旅の間に見つけようと俺は旅の目的の1つに付け足す。


「ララ、悪いが暫くの間、このジュウカン領を頼む。もし、何かあれば、すぐに連絡してくれ、必ずすぐに戻ってくる」

「分かったわ、サイガ。本当になるべく早く魔神トガシゼン様を見つけてね。正直、これ以上執務をこなす自信は無いわ」


ララは肩を竦めて、冗談まじりに言ったが、ノーベさんから連日、深夜までジュウカン領全体の運営について、文官たちと話し合っていると聞いている。


「了解した、なるべく早く探し出す。だから本当に無理はするなよ。何でも1人で抱え込む必要はないんだ」

「なに、それ? お父さんみたいな事を言わないでよ。本当にサイガはおっさん臭いわね」


ララは俺の言葉に苦笑いを浮かべて揶揄い、この調子ならきっと大丈夫だと安心した俺は、そろそろ出発しようとマヤ、アオ、そしてリンの方を振り向く。


たった3週間の修行だったが、その間に3人とも仲良くなったようで、楽しく会話している。だが、俺が出発するように促すと会話を止めて各々が準備を始める。そして、俺は3人が準備を終えるまで、見送りに来てくれたセップさんやジアリさんと話し、ジュラとジェネからの手紙を受け取った。


「サイガ、準備できたよ。いつでも大丈夫!」


オアが元気よく声を上げると、残り2人も頷き準備が出来た事を伝える。


「私も準備ができました。必ず人間に戻りましょう」


マヤが静かに、だが力強く旅の決意を述べるとアオが頷き、リンが言葉を引き継ぐ。


「私がいないと、すぐに野垂れ死にそうだから、一緒に行ってあげるけど、ちゃんと感謝はしてよね」

『あと、何でも1つ言う事を聞く約束は忘れていないから、覚悟しておいてよね』


最後にリンが頭の中に直接、脅迫めいた事を言って、これからの旅を不安にさせるが、いつものリンだと思うと安心もする。


とりあえず、この4人の旅が始まる。色々と困難なことはあるかも知れないが、3人が一緒にいれば乗り越えられそうな気がする。俺は見送りに来た皆に頭を下げると、新たな旅へ向けて大きな1歩を踏み出した。


お読み頂き、ありがとうございます!

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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