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112 俺の呪術(第4段階)

「まぁ、これなら大丈夫なんじゃない? 呪術も覚えたし、多分、(ぬし)が相手なら余裕で勝てるわ」


フーオンの近くにある修練場で地面に座り、肩で息をするマヤとアオに私は声をかける。このたった3週間という短い時間で2人は、魔素の感知から呪術まで一気に覚えてしまった。正直、魔素の感知すら難しいと思っていたが、サイガよりも早く魔素の感知を覚えると、あっと言う間に呪術まで習得してみせた。私は2人が呪術を習得したと聞いた時は、とてつもない才能に舌を巻いた……。


そして、今日は修行の締めくくりとして、2対1での模擬戦を行ったが、2人の想像以上の強さには驚かされた。私にも元魔王としての誇りがあり、何とか勝つことができたが、新たな呪術を覚えていなかったら、負けていたかも知れない。


「……リンさん、稽古、ありがとうございました。何とか旅に付いて行ける自信が持てました」

「ボクもリンちゃんのおかげで強くなれたよ。本当にありがとう!」


マヤたちからお礼を言われるが、私のためでもある……。サイガは、魔神トガシゼン様を探し出し、戦わなければならない。そして、トガシゼン様とはサイガを含めた3人で戦う必要がある。1人は私で決まりだが、もう1人、少なくとも魔王並みの強さを持った仲間が必要だ。


マヤもアオも、それなりに強いが魔王と比べると、実力的に少し心許ない。これからの旅で2人がどれだけ成長するかが、トガシゼン様との戦いの鍵になるはずだ。


私がそんな事を考えながら、いまだに立つ事が出来ずに地面に座っているマヤたちを見ていると、いきなり後ろから声をかけられる。


「久しぶりだな、3人とも。短い間に見違えるほど強くなったな」


振り返ると大きな背嚢を背負ったサイガが、笑顔を向けて立っていた。その場に荷物を下ろすと私たちに近寄り、まじまじと見つめると感嘆の声を漏らす。


「すごいな、3人とも。たった3週間で、体内にある魔素が随分増えたな。呪術を覚えていたのにも驚いたが、かなりの鍛錬をしたんだな」


サイガの言葉に3人とも驚かされる。体内にある魔素量が増えたことは、感知すれば分かるが、呪術を習得したかなんて分かるはずがない。私が代表して何故、呪術を習得したことが分かったか尋ねると、サイガは苦笑しながら額にある外殻をずらし、眼鏡を掛けるように目元を隠す。


すると、突然、外殻に紺碧の大きな瞳が現れて、私たち3人を見つめる。


「原因はこれだ、理由はよく分からんが、この瞳で相手を見ると魔素と引き換えに見たいものを見せてくれる。ちなみに3人を見た時に、分かったのは呪術を覚えているか、いないか、それだけだ」


サイガは紺碧の瞳を閉じて外殻を額の位置まで戻すと、魔眼について説明し始めた。修行の間に色々と魔眼について試したらしく、その時、魔素と引き換えに見たい情報を見せてくれることに気づいたらしい。だが、見たい物が全て見えるかというと、そうではなく、しかも内容によって消費する魔素の量も変わってくるみたいだ。


ちなみに私たちが呪術を覚えてるか確認するために使った魔素は、だいたい体内にある魔素の2割強らしく、知りたい情報に対して要求してくる魔素の量が釣り合っていないとぼやき、別世界の言葉で『コスパが悪い』と呟いた。


私も改めてサイガを見ると、私たちの努力が馬鹿らしく思えるほどに体内にある魔素が増えていた。しかも良く見ると腕と脚にあった外殻が無くなっている。色々と突っ込みたいが、とりあえず、修行の成果について確認する。


「で、アンタはどれくらい強くなったの? 腕と脚の外殻もないようだけど、まさか、また進化したの?」


私が呆れながら半目で睨み尋ねると、サイガは頬を掻きながら苦笑を浮かべ答える。


「あぁ、どうやら進化したらしい。進化については後で説明するとして、強くなったかと聞かれれば、間違いなく強くなったよ。なんせ試合とは言え、オテギネさんと引き分けたからな」


もはや開いた口が塞がらないとはこの事だ、まさかオテギネさんと引き分けるとは……。オテギネさんは間違いなく魔神トガシゼン様を除けば魔族の中でも3本の指に入る実力者だ。単純に魔王に興味がないだけで、その気になれば魔王はもちろん、魔神にすら手が届くかもしれない魔族だ。


私が呆然としていると更にサイガが爆弾を投下する。


「いや〜、参ったよ。お互い、つい熱が入って。オテギネさんなんか第4段階の呪術まで発動して攻撃してきたんだ、危うく殺されかけたよ。俺も第4段階の呪術を習得してなければ、本当に危なかったな」


サイガは何気なく言うが、それは試合ではなく死合だ。第4段階の呪術を使ったオテギネさんを相手に五体満足で生きていることが、どれほど凄いことなのかは分かっていない……。


「さすが、サイガです。もう第4段階の呪術を覚えたなんて、私も負けらませんね」

「そうだね、それに魔眼だっけ? それ、ちょっとカッコいいよね。ボクにも現れないかな」


私があまりにも衝撃的な内容に立ち尽くしている横で元人間だった3人は楽しそうにお互いの成長を喜び合っている。この領地に住む魔族なら誰もが知っている伝説の魔竜オテギネを、たった1人の魔人が戦い引き分けた……この衝撃的な事実が全く分かっていない。


この魔族の常識の欠片もない連中と一緒に旅をしなければならないと思うと、頭が痛くなり、自然とこめかみを押さえた。



こめかみを押さえて俯いているリンさんも気になるが、今は3週間ぶりのサイガとの再会を喜ぶのが先だ。ショウオン村で折角、再会したのに3日後には別れて別々の場所で修行をし、今、ようやく久しぶりにサイガと会えたのだ。ゆっくりと話がしたいと思うのは当然の事である。


「それでサイガの第4段階の呪術って、どんな術なんですか?」


私の質問にサイガは待ってましたとばかりに笑顔を向けて、自慢げな表情をする。本当にサイガは無邪気で可愛いです!


「知りたいか、マヤ? そうだな……、ちょっと、あの壁って壊しても問題ないか、リン?」


サイガは修練場の中央に設置してある巨大で分厚い金属の壁を指差して、リンさんに尋ねると、やれやれと首を振りながらリンさんが答える。


「別にいいけど、私の呪術でも壊れなかった特別な合金で出来た壁よ。アンタがどんな呪術を覚えたか分かんないけど、無理だと思うわ」

「そうか、なら皆、少し離れていてくれ」


リンさんの了解を得たサイガは私たちに後ろへ下がるように指示を出すと、足を広げ腰を落とし両手を後ろに引いて構える。私が魔素を感知すると両手にとてつもない量の魔素が集中していくのが分かり、思わずサイガの顔を見ると口が開くのが分かった。


「呪術:弐迅牙砲 (ニッシンゲッポウ)」


サイガは呪術を発動すると両腕が光り出し、そのまま勢いよく突き出す。両腕から放たれた2つ光の玉は金属の壁を目掛けて飛んでいき、耳を(つんざ)かんばかりの音を立てて衝突すると、大量の土煙が立ち上がり金属の壁を隠す。そして、次第と土煙は収まり、再び金属の壁が姿を現す……。


修練場の中央にあった巨大な金属の壁は根元だけを残して、木っ端微塵に吹き飛び、後ろに生えた木々も薙ぎ倒されていた。あまりの衝撃的な光景にリンさんはもちろん、私とアオも啞然と見つめていると、サイガが『ダブル・かめ〇〇波』と満足気な表情で呟いた。


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