110 リンの気持ち
108、109、110話で1つの話です
昨日は全然眠れなかった……。深夜にバカが村中に響き渡るほどの大声を上げて、寝ていた私を叩き起こしたのが原因だ。何が「俺はアオが大好きだ」だ、28歳の大の大人が恥ずかしくないのか……。
窓から朝日が射し、これ以上ベッドに横になってもイライラして眠れる気がしないので、仕方なく起きることにする。窓の外を見ると宿屋の娘とサイガの仲間の少女たちが中庭で話している。
確かサイガは髪の短い方の少女をアオと呼んでいた。私を襲撃した時に土の蜘蛛を操り、兵士たちを城の外に誘導していた少女だ。そして、昨夜、サイガから告白された少女でもある……。周りの3人からアオが揶揄われている姿を見ると何故だか胸が苦しくなる。
中庭で談笑する少女たちを見ていると、扉を叩く音がした。
「リン、起きてるか? 少し話がしたいんだが」
よく分からない気持ちにもやもやしているとサイガが尋ねてきた。……正直、今はあまり会いたくないが、断る理由が見つからず、私は仕方なく部屋に入ることを許す。
「起きてるわ、入ってきていいわよ」
私の言葉を聞くと、サイガが入ってきて挨拶をする。どこか吹っ切れた爽やかな表情のサイガを見ると、益々胸が苦しくなる。
「それで何か用なの、サイガ?」
「あぁ、少し相談したいことがあったんだが……。リン、少し顔色が悪いが、大丈夫か?」
サイガは私の顔色を確認しようと、ふいに顔を近づけてきた。目の前に迫るサイガの顔に私は驚き後退ってしまう。いつもと違う私の態度にサイガは、怪訝そうな顔をする。
「本当にどうしたんだ、リン。なんだか、いつものお前らしくないぞ」
「そう? まだ、疲れが残ってるのかしら、一昨日は大変だったから」
私の苦しい言い訳にサイガは納得してくれたようで、サイガの単純さに感謝しつつ、何を相談したいのか尋ねる。
「あぁ、実はマヤとアオも魔神を探す旅に連れて行こうと思うんだが、リンはどう思う?」
サイガの無神経な言葉に思わず、カッとなるが、何でそんなに怒りを覚えるのか自分でも分からない。別にサイガは、そんなに間違った事は言っていない……確かに2人がどれくらい強いか分からないが、私と戦った時は、それなりに戦えていた。
「リン、どうした? ずっと黙っているが……」
「ねぇ、サイガ、何で2人を連れて行こうと思ったの?」
「実は昨日、マヤとアオから告白されて、俺は2人の気持ちに応えたいと思った。そして、出来るなら傍にいて守りたいと思ったんだ……」
サイガは正直に彼女たちを旅に連れて行きたい理由を話してくれた。そして、サイガの言葉を聞いた私は胸が締め付けられて、思わず手で抑えてしまう。
何でサイガの言葉に私の心はここまで振り回されてしまうのだろうか。つい、この前までは、こんな事は無かったはずだ。私の方がサイガを揶揄い振り回していたのに、何故だか凄く悔しい……。
「そう、なら良いじゃない! 私には関係なし、3人で仲良く旅すれば!」
「何を言ってるんだ、お前も案内役として付いて来てくれないのか?」
「はぁ、何でイチャイチャしている3人の後を私が付いて行かないといけないのよ! アンタ、お金は沢山あるんだから、どっかで適当に雇えばいいじゃない!」
私は感情が赴くままにサイガに言葉を投げつける。サイガも急に怒りだした私にどうしていいか分からず、あたふたしている。
「リン、どうして急にそんな事を言うんだ? お前も最初は案内役に前向きだったじゃないか」
「そうね、ちょっと前まではそうだったけど、今は違うの! 女の心は移ろいやすいのよ、そんな事も知らないの、バカ!」
自分でも何に怒っているのか、分からないが、もう感情を制御することができない。私は勢いのまま全ての感情をサイガにぶつける。
「大体、アンタ、今、生きてるのは私のおかげよ、少しは感謝しなさいよ! それなのに、マヤとアオだったけ、2人に告白されたからって、鼻の下を伸ばして『傍にいて守りたい』って、やっぱりバカじゃないの!」
「……もちろん、リンには感謝しているし、別に鼻の下を伸ばしては……」
もはや自分でも何を言っているのか分からず支離滅裂な内容にサイガも何と答えて良いか迷っているが、私は構わず言葉を続ける。
「感謝しているなら、態度で示しなさいよ! それに鼻の下は伸びてたわ、絶対!」
「……わかった、確かに鼻の下は伸びていたかもしれない、……すまなかった。それに本当に感謝しているんだ、態度で示してほしいなら、俺なりに頑張るから、何かして欲しい事があるなら教えてほしい……」
今まで見せたことがない項垂れたサイガを見て、少しだけ溜飲が下がるが、まだ、心の中はもやもやしている。自分でもこの感情が何か分からず、途方にくれる。
「……そうね、ならサイガ、私の事、どう思ってるか教えてよ……」
今抱いている、この気持ちが何なのか確かめたい……私自身でも分からない、もやもやとした掴みどころがない気持ち。サイガなら何か教えてくれるかもしれない。……そんな直感から出た言葉だった。
「……正直、よく分からん。好きなのか嫌いなのか、大事なのか邪魔なのか……。だけど、傍にいて欲しいと思うよ。どんなに文句や我儘を言われようが、揶揄われたり馬鹿にされようが、そして、どんなに嫌われようが、俺の傍にいて欲しいよ」
慎重に自分の気持ちを確かめながらサイガは、ゆっくりと言葉にして私に伝える。私もサイガも、お互いの事をどう思っているか分からないが、離れたくない。私のこの気持ちと同じ気持ちをサイガも抱えていると思ったら、何故だか胸が温かくなる。
「……なら、仕方ないわね。もう暫くは一緒にいてあげるから、感謝してよね! それにまだ、何でも言う事を聞くって約束がある事も忘れないで!」
「……わかった、助かる。それに約束も忘れない」
私がツンツンと怒りながら言うと、サイガは身を縮こませながら頷く。多分、マヤやアオにも見せない情けないサイガの姿を見たら、少しだけ嬉しくなった。
『絶対に忘れないでね! 忘れたら、ずっと頭の中で文句を言い続けるから!』
止めとばかりに私はサイガの頭の中に脅し文句を投げつけると、サイガは怯えた顔をして何度も頷いた。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると嬉しいです。
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