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109 アオの気持ち

太陽も高く日差しも強くなってきた昼下がり、村の外れの小さな広場に私とサイガは2人で長椅子に座り休憩している。大通りを歩く人たちが私たちを見ているが、サイガは私を抱き締めたまま離してくれない。


もう涙も止まり気持ちも落ち着いてきた私は、さっきの言葉を思い出し顔が真っ赤になる。


『俺もマヤが好きだ、命よりも大切に想う』


今も頭の中に響き続けるサイガの言葉……。記憶よりも先に私への気持ちを思い出してくれたサイガを見ようにも、恥ずかし過ぎて顔を上げることができない。


「……サイガ、もう大丈夫です。離してくれると嬉しいのですが……」

「あぁ、すまない。なんというか、本当にすまない。こういうのに慣れてなくて」


サイガはパッと手を離すと、長椅子から立ち上がり頭を掻きながら遠くを見る。その後ろ姿を見上げると、耳まで真っ赤になっているのが分かり、思わず笑みが零れる。


「ふふふ、サイガ、耳が真っ赤ですよ」

「ん? そうか、真っ赤か。そういえば顔も熱いし、こんなのは初めてで、どうして良いか分からん」


サイガは手で顔を扇ぎ火照りを冷まそうとするが、全然真っ赤なままだ。火照りを冷ますのを諦めたサイガは私の方を向くと、真っ赤な顔のまま真剣な表情で口を開く。


「マヤ、俺はお前が好きだ。……だが、今は気持ちに応える事ができない。俺は1カ月後には大勢の魔族から狙われる身だ。そんな俺がマヤを幸せにすることはできない。マヤの気持ちは嬉しいが、やはり俺もマヤを幸せにしたいんだ。必ず魔神を探し人間に戻ってみせる。その時は俺から気持ちを伝えさせてくれ」


真っ直ぐ私を見つめた後、頭を下げるサイガに私は1つ条件を出す。


「分かりました、サイガが人間に戻るまで待ちましょう。ただし、条件があります。アオにも会って2人だけで話し合ってもらえませんか?」

「?? それは構わないが、何か意味があるのか?」


サイガも鈍感という自覚はあるようだが、ここまで鈍感だと、これからの先が思いやられる。私は溜息を吐きたくなるのを我慢して、言葉を続ける。


「アオは私の妹です。妹の幸せを願わない姉などいません。それに抜け駆けみたいな真似もしたくありません。サイガ、アオとも真剣に向き合ってください」


サイガはまだ分かっていないようだが、強引に今日の夜にアオと会う約束を取り付けると、私はもう暫く、ここにいると伝えサイガと広場で別れた。



村の復興を手伝っていたボクは遅めの夕食を終えて部屋に戻ると、お姉ちゃんからサイガが広場で待っていると伝えられる。朝は魔法が使えなくなって落ち込んでいたお姉ちゃんが、今は落ち着いていることに首を傾げるが、サイガを待たせる訳にはいかないので、すぐに部屋を出る。


村の中央広場は夜遅くにも関わらず、大勢の人と屋台で賑わっていて、昨日の魔物の襲撃が嘘のようだ。ボクは大勢の人ごみの中から、すぐにサイガを見つけて駆け寄る。


「サイガ、お待たせ! ボクに用があるって、お姉ちゃんから聞いたけど、何?」


背後から急に声を掛けられてサイガは、一瞬、ビクっとするがすぐに元に戻り、ボクの方を向く。


「相変わらず、アオは気配を消すのが上手いな。簡単に後ろを取られてしまった」

「そりゃ、ボクは忍びだよ。気配を消すなんて朝飯前さ」


ボクが胸を張り自慢すると、サイガは優しく微笑み少し散歩をしようと誘う。ボクたちは広場を抜けて大通りを歩き正門前に着いた。さすがにここまで来ると、人の姿は見かけない。警備隊の駐屯所を見ると窓から明かりが見える。……まだ、ジアリさんたちは働いているようだ。


ちょうど、見張り台から降りて来る隊員を見つけたサイガは隊員に声を掛けると、しばらく使わせてもらえないか相談し振り向く。


「アオ、少しあそこで話さないか?」


隊員から許可を貰ったサイガは見張り台を指差して、あそこで話をしようと言い、ボクが頷き了解を得ると笑顔を浮かべる。そして、おもむろに近づき膝裏に腕を回して抱き上げる。突然、お姫様抱っこされて混乱するボクを無視して、サイガは腰を落とし跳躍すると、見張り台の上まで一気に飛んだ。


「ちょっと、サイガ! いきなり何するだよ、ビックリしたじゃないか!」

「驚かせたか? すまん、梯子を登るより手っ取り早いと思った」


ボクはゆっくり優しく下ろしたサイガを半目で睨むと、サイガは申し訳なさそうに頭を掻き謝罪し、その姿を見たボクは魔族になっても、やっぱりサイガはサイガなんだなと妙に嬉しくなった。


「そういえば、サイガはボクに何か用があるんだよね?」

「あぁ、用というか昼間、マヤからアオと話すように言われたんだ」


お姉ちゃんが、サイガにボクと話すようにお願いしたらしい。何でそんな事になったのかサイガに尋ねる。


「実は昼間、マヤから好きだと告白され、俺もそれに応えたいと思った。その時、マヤからアオと話してほしいとお願いされたんだ」

「……そうなんだ。よかったね、サイガ。お姉ちゃんみたいな美人に告白されて!」


ボクは努めて明るく2人を祝福するが、サイガの表情を見ると少し戸惑っているように見える。


「……アオ、なんでそんなに悲しい顔をするんだ」


サイガはボクを心配そうに見つめる。


「え、そんな顔してないよ。何を言ってるの、サイガ」


ボクは思わず顔を触り笑顔が崩れていないか確かめると、サイガは首を横に振り、真剣な表情でじっとボクを見つめ口を開く。


「アオ、嘘をつくな。いくら顔は笑っていても、お前が悲しいことぐらい分かる」

「……なんで、サイガに分かるのさ……」


サイガに本当の気持ちがばれたかも知れないと思い俯いてしまう。


「記憶は無いが、覚えてるんだ……アオはそんな悲しい顔で笑わない。理屈じゃないし理由もないが、俺はアオが悲しむ顔を見たくないんだ」

「……なに勝手な事を言ってるのさ。ボクだって悲しい時だってあるし、泣きたい気持ちにもなるんだ!」


サイガの身勝手な言葉に思わず顔を上げて大きな声で叫んでしまう。


「そうだな、自分勝手な言葉だ……。だけど、これだけは譲れない。どんなに記憶が無くなろうが、この気持ちは絶対に間違っていない。俺はアオを守るって約束した。けど、それはアオが笑っていないと意味がないと思う……」


ボクを見つめるサイガの目は悲し気に揺れている。もしかしたらボクと同じ気持ちなのかもしれない……好きだけど、その気持ちを伝えられない、そんな目に見えた。ボクは勇気を出して、今まで隠していた本当の気持ちをサイガに伝える。


「ボクはサイガが好きだよ。お姉ちゃんにも負けないぐらい……。サイガはボクの事をどう思っているの? 教えてよ……」


サイガもボクの事が好きかも知れない。だけど、お姉ちゃんの気持ちに応えた今、ボクの気持ちに応えることができない……。都合の良い願望かもしれないけど、サイガの目を見ていると何となくそう思えた。


ボクの気持ちを聞いたサイガは少しだけ驚いた表情をすると、真っ直ぐボクを見つめて、自分の気持ちを伝える。


「……俺もアオが好きだ、愛おしく守りたいと思う。つくづく自分勝手なヤツだと思うよ……。俺はマヤと同じぐらいアオが好きだ」


もう迷いが無くなったサイガの目には悲しみの色はなく、いつもの力強い眼差しでボクに想いをぶつける。そして、その眼差しと言葉がボクの心を幸せな気持ちで満たし笑顔にさせる。


サイガに真剣な表情で見つめられると胸が熱くなり顔は真っ赤になる……恥ずかしくなったボクは思わずサイガを揶揄ってしまう。


「そっか、お姉ちゃんと同じぐらい好きか……。それってどれくらい?」

「……。そうだな、これぐらいだな」


ボクの言葉に一瞬、キョトンとするが、サイガはすぐに悪戯っぽく笑うと思い切り息を吸い込み、見張り台から村に向かって大声で叫んだ。


「俺はアオのことが大好きだーー!」


サイガの大声が村中に響くと、辺りの家々の灯りが点き、警備隊の駐屯所からジアリさんたちも飛び出してきた。公衆の面前で愛の告白をされたボクは、慌ててサイガの口を塞ぐが、もうすでに手遅れだった

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