107 魔族化
ボクが目を覚ますとお姉ちゃんと同い年ぐらいの黒髪の男の子が笑い合って話している。サイガが行方不明になってから、1度も笑ったことがなかったのに不思議と思い、起き上がりお姉ちゃんに声を掛ける。
「おはよう、お姉ちゃん。その人、誰?」
「ふふふ、アオ。おはようって、もう夜よ」
やっぱりお姉ちゃんの様子がおかしい。こんなにご機嫌なお姉ちゃんは、今まで見たことない。私が訝しがっていると黒髪の男の子がボクの方を見て声を掛ける。
「起きたのか、アオ。体は大丈夫か、どこか痛い所は? 腕はちゃんと動くか?」
「………………」
「ん? どうした、やっぱりどこか痛いのか?」
ガバッ!
ボクはベッドから起き上がると、勢いよく飛び出し黒髪の男の子に抱きついた。
「おっとと、相変わらずだな、アオ。憶えていないが、本当に懐かしく思うよ」
「サイガ、サイガだよね!」
「あぁ、サイガだ。シュバルツ帝国の軍人で、お前たちの仲間、サイガ・シモンだ」
サイガは勢いよく抱きついたボクを受け止めると、頭の上に手を置き優しく微笑みかける。
「どうして、今まで連絡も何もしなかったんだよ! 皆、すごく心配したんだよ!」
「すまなかった、マヤにも説明したが、あまり人間だった時の事を憶えてないんだ。正直、今も記憶は曖昧で、さっきマヤと話している時も、少しずつ記憶が戻ってきている感じだ」
ボクがすごい剣幕で非難をすると、サイガは優しく受け止めて頭を下げて謝罪する。その姿を見てボクも少し冷静になり、サイガの姿を観察する。……今のサイガはかなり若く、年齢はボクたちより同じか少し上に見える。そして、サイガの気配というか雰囲気が魔族特有のものになっている。
「サイガ、もしかして魔族になっちゃたの?」
「……。そうだな、俺は魔族に生まれ変わってしまった。だが、人間に戻るために俺なりに色々と頑張っているところだ」
少し悲し気な表情をするサイガにボクは何も言えなくなる。そんなボクたちのやり取りをお姉ちゃんは黙って見守っている。
「ごめん、一番辛いのはサイガなのに……」
魔族になって苦しんでいるサイガの気持ちを思うと、胸が痛くなり俯いてしまう。
「気にするな、アオ。俺は大丈夫だ、それにお前との約束も思い出した。人間に戻って、必ずお前を守るよ。それが前衛小隊長の俺の誇りだからな」
俯くボクの頭を優しく撫でながら、サイガは昔した約束を思い出して人間に戻ると言ってくれた。ボクは頭を撫でる手を両手で握り見上げると、サイガは満面の笑顔で頷き親指を立てる。
その笑顔を見ると僕は何も言えなくなり、今まで胸に詰まっていた不安や悩みが自然と消えていく。そして、代わりにボクの胸の中一杯に温かで優しい気持ちを満たしてくれた。
◆
俺はマヤたちの部屋を出ると、受付に向かいジュラとジェネに声をかける。
「どうやら、マヤもアオも大丈夫なようだ。もし良かったら何か温かい物でも持って行ってくれないか?」
「アオちゃんたち、起きたんですね! よかったぁ~」
「本当によかった……。分かりました、父さんに頼んで何か作ってもらいますね」
「助かるよ、これは少ないが受け取ってくれ」
俺が懐から財布を出し魔金貨を1枚取り出し渡そうとすると、横から手が伸び止められる。訝しがりながら隣を見ると、リンが渋い表情をして注意する。
「アンタ、馬鹿なの? 魔金貨なんて渡されても困るでしょ。大体、魔金貨なんて見たことがある人なんて、そうそうにいないの。見なさい、彼女たちの表情を」
ジュラたちを見ると、魔金貨を不思議そうに眺めているだけで、これが貨幣だとは分かっていないようだ。
「ごめんね、コイツ、馬鹿なの。常識が無いって、本当に厄介よね。これ、受け取って」
俺を軽く貶しながらリンは、ジュラたちに金貨2枚を手渡そうとするが、2人とも恐縮して受け取ろうとしない。
「そんなに受け取れません。それにサイガさんたちは村を救ってくれた恩人です」
「気にしないで、すぐに助けに来れなかった私たちの気持ちよ。それに被害が小さいとは言え、全く無い訳じゃない。残ったお金は村の復興に役立ててくれれば嬉しいわ」
頑なに拒否するジュラたちにリンは優しく笑いかけ、強引にお金を渡すと、2人ともかなり畏まっている。そんな3人のやり取りを1歩下がって見ていると、リンが振り返り俺に話しかける。
「サイガ、少しいい? アンタの仲間の事で話したいことがあるんだけど」
「?? あぁ、大丈夫だ。で、何処で話す?」
「そうね、アンタの部屋にしましょ。私の部屋でも良いけど、乙女の部屋に入るのは緊張するでしょ?」
リンが戯言を述べるが、確かに宿屋とはいえ女性の部屋に入るのは、少し抵抗がある。それに用意してくれた俺の部屋は広くて話し合いをするには十分だ。俺たちはジュラたちにマヤたちの事を任せて、話し合いをするために部屋に向かった。
――――――――
俺たちは部屋に入ると、すぐにテーブルにある椅子に腰を掛け、用意していたコップに水を注ぎリンの前に置く。
「意外とアンタって、気が利くのね。少し感心したわ」
「意外とは、失礼だな。まぁ、いい。それで話し合いたいことって何だ?」
リンが茶化し本題から外れそうになったので、俺はすぐに軌道修正して話すように促すと、リンは少し困惑した表情をして口を開いた。
「アンタも気づいていると思うけど、彼女たち魔族化しているわよ」
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