105 ジュラとジェネに再会
今回も短め……
サイガさんが魔王……。あまりにも衝撃的な内容に村の皆も固まり、何も言えない。となりのジュラちゃんも同様で目を見開き固まっている。もともと上位の魔族なのではと思っていたが、魔王になれるほどの力をもった魔族とは思わなかった。
私たちが呆然として動けないでいると、サイガさんが私たちに気づいて近づいてきた。何故か頬が赤く腫れているが、何かあったのだろうか……。
「ジュラ、さっきは怖がらせてすまなかった。俺も焦っていて、つい凄んでしまった。本当にすまない」
サイガさんがジュラちゃんに向かって深く頭を下げて謝罪する。一体、何があったのか分からないが、サイガさんは頭を下げたままだ。
「いいえ、サイガさ、サイガ様。気にしないでください。あの時は確かに一刻を争う状況でした。おかげでマヤさんもアオさんも無事に生きてます」
ジュラちゃんの言葉を聞いて、ようやく頭を上げたサイガさんは笑顔になる。
「ありがとう、ジュラ。あと、『様』は不要だ。何だったら呼び捨てでも構わない。魔王になったが、人に褒められる事は何もしていない。ただ、闘いに勝っただけで敬う必要はない。それにコイツはいつも呼び捨てだ」
「魔王」を前に緊張して畏まっているジュラちゃんの肩に手を置き、サイガさんは優しく語りかけ、となりに立つ白髪の美少女を親指で差す。
「そうよ、全然敬う必要はないわ。呼び捨てで十分よ。それに魔王になったとはいえ、ジュウカンのことは妹のララに任せて、コイツは1カ月後に私と一緒に旅に出るんだから」
となりに立つ少女が更にとんでもない発言をする。ララと言えば私たちの領地を治める主と同じ名前だ。確か主に就任するときに魔神から魔名を頂いたと聞いたが……。そして、その姉と言えば、この王領全体を支配していた魔王だったはずだ。恐れ多いとは思ったが、私は恐る恐る少女に尋ねる。
「あの〜、もしかしてララとは、私たちの領地を治めている主様のことでしょうか? それに貴女様は、その……」
「えぇ、ララはこのフーオン領の主で間違いないわ。そして、私はララの姉でリン。以前、ここを治めていた魔王よ」
少女が私の方を向き自分が元魔王だったと述べると、村の人たちは一斉に地面に膝をつき臣下の礼をとる。私も慌てて地面に膝をつこうとするが、少女に止められる。
「みんな、礼は不要よ。私は既に魔王じゃないし、新たな魔王を差し置いて臣下の礼は良くないわよ」
少女の言葉に村の人たちが我に返ると、サイガさんの方を向く。サイガさんは、苦笑を浮かべて手を横に振り、気にしてないと伝える。そして、サイガさんは私の方を向くと、笑顔で声を掛けた。
「ジェネも久しぶりだな、すぐに来ることができずに済まなかった。怖い思いもしたと思うが、許してほしい」
サイガさんは軽く頭を下げ、私の頭に手を置き笑いながら撫でてくれた。私は思わず頬が赤くなってしまい、俯いてしまう。やっぱり、サイガさんはカッコいい!
◆
俺がジェネの頭を撫でていると、隣で憮然とした表情で睨むリンと目が合う。
「ん? どうした、何でそんなに不機嫌なんだ? 腹でも減ったか?」
馬車からずっと不機嫌なリンを心配して声を掛けると、リンは益々、機嫌を損ねる。一体、何がリンをそこまで不機嫌にさせるのだろうか……。
「……。アンタって、本当に鈍感なのね。これからの事を考えると頭が痛いわ。それより、これからどうするの? 魔物の大量発生は、ひとまず収まったようだし、フーオンに帰る?」
リンが何か諦めたような表情をすると、これからどうするか尋ねてきた。確かに魔物の脅威は去ったが、このまま帰っても大丈夫だろうか。それに人間だった時の仲間である彼女たちをそのまま置いて帰るのは気が引ける。
「そうだな、幸い村には被害はないようだが、念の為にもう少し滞在して、本当に魔物の大量発生が収まったか、確認したい。リンはどう思う?」
「そうね、多分、大丈夫だと思うけど、どうも唯の魔物の大量発生じゃないわね。人為的な物を感じるわ、念の為に滞在するのは賛成よ」
やはりリンも今回の魔物の大量発生には、何かあると思っているようだ。俺もこんな組織された魔物の大量発生は経験したことがない。まぁ、人間だった時の記憶が曖昧な俺が言っても説得力はないが……。
「じゃ、サイガさん、うちに泊まればいいですよ! 歓迎します、ね、ジュラちゃん?」
リンと今後について話し合っていると、ジェネが嬉しそうに声を掛けてきた。確かに以前、お世話になった宿屋「ヤヤロム」は料理も美味く、落ち着いた雰囲気で過ごしやすかった。最初は警備隊の駐屯所に泊めてもらおうと思っていたが、リンの事を考えると何もない駐屯所の仮眠室に泊まるわけにはいかないか。
「そうですね、私も泊まってくれたら嬉しいです。それにマヤさんたちも泊まっているので、起きたらすぐにお知らせできますし……」
マヤも歓迎してくれるらしく、ここは2人の言葉に甘えることにしよう。
「ありがとう、2人とも。それじゃ悪いが部屋を2つ用意してくれ。少しの間だが、世話になる」
「あら、サイガ。私は相部屋でも構わないわよ?」
「俺は気にするし、冗談でも嫁入り前の女性が言う言葉じゃない。少しは自重しろ」
「相変わらず、アンタ、たまにオッサンくさいことを言うわね」
リンに揶揄われて、渋い顔をする俺をジェネとジュラが笑いながら見ている。俺は溜息を吐くとセップさんから荷物を受け取り、ジェネたちの案内で宿に向かった。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。
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