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104 謝罪と約束

若干、短めです……

バシッ!


俺は僅かな痛みを頬に感じ、ゆっくりと目を開けると、鬼のような形相で睨んでいるリンが目に入る。一体、何に怒っているのか分からないが、とりあえず起き上がろうとするが体が動かない。まさか、これが別世界で言う『金縛り』なのか……。


たしか『貞男』や『呪ON』、古くは『四ツ谷サイダー』で度々出てくる怪奇現象……。お金が無く何も出来なくなり、最後は身動きも取れなくなる。まさに『金縛(かねしば)り』!


……などと現実逃避しても何も解決しない。以前も同じことがあったような気がするが、それも気にしてはいけない。とりあえず何故、動けないかリンに聞いてみる。


「リン、何故か体が動かないんだ。どうしてか分かるか?」


真剣に俺が尋ねるが、リンは半目で睨んだまま何も言わない。もしかしたら別世界でいう『幽体離脱』でもしたのだろうか。実はリンには俺の姿は見えておらず、声も聞こえていないのかもしれないと思った俺は、最後にリンとの魂の繋がりに賭ける。


『リン、何故だか体が動かないんだ。どうしてか分かるか?』


俺が心の中で呼びかけると、リンが物凄く大きな溜息をとてもわざとらしく吐くと、右、左と俺の隣を順に指差したので、俺もリンの指の動きに合わせて、右、左と向くと見覚えのある少女が2人、俺の腕を枕にしてスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。俺は少女たちに腕枕をしていたせいで、腕が痺れて感覚が無くなっていただけだと分かり、安堵の息を吐く。そして、やっぱり『幽霊』なんておらず、所詮『漫画』だけの話だと分かり、少し残念な気持ちになる……。


……などとふざけた事を考えていると、リンにもう一度叩かれそうなので、とりあえず、起き上がるのをリンに手伝ってもらう。俺は2人を起こさないようにリンに彼女たちの頭を支えてもらうと、素早く腕を引き抜く。


「ふぅ〜、助かった。リン、ありがと……」


バシッ!!


俺が礼を言うより早く、こめかみに青筋を立てたままのリンは思い切り頬を叩いた。なんでもう一度叩かれたのか分からないが、怒っている女性には何も聞かず、そっとしておいた方が良いとお袋が言っていた事を思い出し、俺は怒っている理由は聞かずリンの機嫌を直すために謝罪する。


「悪かった、リン、許してほしい。もし、許してくれるなら、何でも1つだけ言う事を聞きたいと思うが……」

「…………。分かったわ、許してあげる。けど、私が必死で戦ってる時に女の子と気持ち良く寝ているなんて、反省してよね。それと本当に何でも1つ言う事を聞いてくれるのよね?」


確かに俺が寝ている間、リンはジアリさんたちと一緒に村を包囲した魔物たちと戦っていたと思うと、本当に申し訳なくなる。リンに村とジアリさんを守ってほしいとお願いしたのは俺なのだ。


「本当にすまなかった。もちろん、俺に出来る事なら何でもするつもりだ」

「ふ〜ん、なら良いわ。とりあえず、今すぐお願いしたいことは無いから、保留にしておくわ」


俺が深々と頭を下げると、リンはようやく機嫌を戻してくれてたようで安心する。だが、何でも言う事を聞くというのは、少し軽率な約束だったかもしれない。どうにか出来るだけ早く簡単なお願いを聞いて、さっさと約束を守った事にしないと、どんな無理難題を言ってくるか分からない……。


『そんなお願いするわけ無いでしょ、私の事を何だと思ってるの!』


突然、頭の中に大きな声が響いてビクッとした俺は、恐る恐るリンを見ると再び不機嫌になり睨んでいた。何故か、頭の中にお袋が溜息をつき、首を横に振る姿が浮かんだ。


……ん! お袋の顔って、俺は今まで1度も思い出した事が無かったはずだ。何故、急に思い出したんだ? それに床に横たわる少女たちの名前も分かる……マヤとアオだ! しかし、それ以上は、ぼんやりと靄がかかっているようで上手く思い出せない……。


『……その2人は、人間だった時の仲間よ。私と戦っていた時も2人ともいたわ。ここじゃ、彼女たちを起こすかもしれないから、外で話しましょう』


リンが直接、頭に話しかけてきて外にでるように促す。確かにいつまでも馬車の中で話す訳にはいかない。一刻を争う状況だったから仕方なかったが、ジュラにもちゃんと話して、怖がらせた事を謝罪したい。俺はリンの提案に頷くと馬車から降りた。



サイガさんが白髪の少女と一緒に馬車から降りてきた。なぜか両方の頬が赤く腫れているが、何があったのだろうか……。馬車から降りたサイガさんは、私に気づくと足早に近づき、笑顔で手を差し出す。


「セップさん、久しぶりだな! フーオンから戻ってたのか、あれから4カ月ぐらいか」

「えぇ、お久しぶりです、サイガさん。そうですね、1カ月ほどフーオンで商売をしていましたが、思いのほか商品が売れまして、仕入れのため再び旅に出て、その途中でショウオン村に寄ったんですよ」


私は差し出された手を握ると、思わず笑顔になる。結局、フーオンでは会う機会がなかったが、今、こうして出会えたことを嬉しく思う。ただ、状況が状況なので、素直に喜ぶわけにはいかないが……。


「サイガさんはどうして、ここにいるんですか。確かフーオンで用事を済ませたら、魔族領を旅すると言ってませんでしたか?」


私の言葉を聞いたサイガさんは頭を掻き、申し訳なさそうな顔をすると、とんでもない事を口にした。


「いや、正直、そのつもりだったんだが。事の成り行きで魔王選定の儀に出る羽目になり、そのままこのジュウカン領の魔王になったんだ。……自分の領地の村の危機に駆けつけるのが遅れて、すまない!」


サイガさんが私と後ろにいる住民たちに向かって深々と頭を下げると、その衝撃的な言葉に私たちは固まる。そして、サイガさんの隣にいる白髪の少女が、やれやれといった表情をして溜息を吐いた。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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