103 ジアリの呪術
見張り台から戦況を見守っていた俺は信じられない光景に一歩も動けず、呆然とする。ミノタウロス以外の魔物を倒した少女は、そのままの勢いでミノタウロスをも圧倒して攻めるが、急に動きがおかしくなり、何かを避けながら戦っているように見える。
それでも彼女が懸命に戦っていると、急に倒したはずの魔物たちが起き上がり、再び襲い掛かる。どんなに傷付こうが無視して襲う魔物たちに、遂に彼女は掴まってしまう。彼女の危機に俺は思わず見張り台から飛び降り助けに行こうとするが、その瞬間、彼女は青く輝く騎士のような鎧を纏い、紺碧に光る剣を天高く突き上げていた。
紺碧の鎧を着た彼女は剣を構えると、魔物の群れに飛び込み反撃に転じた。彼女が剣を振るう度に魔物たちの肢体は斬り飛ばされていく。死んでいようが、手足が無くなれば動くことはできず、次々と魔物の達磨が出来上がり、辺り一面は異様な光景となる。
異様な光景を前にミノタウロスは一歩も動くことができず、呆然と眺めるだけだったが、全ての魔物が動かなくなると、我に返り彼女に斬りかかる。
疾風迅雷、紫電一閃……戦斧を振り上げて迫るミノタウロスに神速の速さで彼女は詰め寄ると、そのまま跳び上がり首を横薙ぎの一振りで斬り飛ばすと、着地と同時にミノタウロスも地面に倒れる。
俺は彼女の勝利を確信し見張り台から降りようとした時、ミノタウロスの口から何かが這い出るのが見えた。
◆
私はミノタウロスの首を切り落とすと呪術:騎士鎧青を解除する。新たな呪術の魔素の消費量は半端ではなかった。剣以外で攻撃すると騎士の鎧も身体強化も解除されるという制約がありながら、これだけの魔素を消費するとは思わなかった。
とはいえ、まだ魔素は半分ぐらい残っている。これならサイガを追っていけると思った時、ミノタウロスの口からネズミの魔獣が這い出た。唾液と血に塗れた魔獣は憎悪の目で私を睨むと、もの凄い速さで逃げ出した。
私は直感で呪術を使用したのがアイツだと理解し、すぐに追いかけようとした時、魔獣の声が頭に響く。
<呪術:一頭霊団 (いっとうりょうだん)>
ネズミが呪術を発動すると、私の前に首の無いミノタウロスが立ち上がり、行く手を阻む。やはりヤツが呪術者だと分かり、すぐに追いかけたいが、目の前のミノタウロスが立ちふさがり追いかける事ができない。ここで逃がしたら、再び、ヤツは村に魔物たちを差し向けてくるかも知れない……。
逃げるネズミを前に追いかけることができず焦る私の横をもの凄い速さで針が横切り、ヤツの体を突き刺し地面に縫い留めると、体に刺さった針を懸命に抜こうとするヤツに次々と針は飛んできて串刺しにする。
暫くするとネズミは動かなくなり、体に突き刺さった無数の針も消えてなくなり、ミノタウロスも地面に倒れる。私が針が飛んできた方を見ると、見張り台にいるジアリが、ネズミに向けた人差し指を降ろして床にへたり込んだ。
――――――――
私が村に戻ると、正門を開けてジアリたちが出迎えてくれた。
「ありがとうございました、なんとか村を守ることができました」
「こちらこそ、助かったわ。最後のアレはあなたの呪術よね?」
私がネズミの魔獣を倒した針について尋ねると、ジアリは少し照れながら頷く。ジアリ曰く、ミノタウロスの口からネズミの魔獣が現れた時に、何故だかアイツが村を襲った首謀者だと思ったそうだ。そして、村をここまで追い詰めたアイツに対する怒りが頂点に達すると頭の中に呪術が浮かんできたらしい。
呪術:射串蒸気 (シャクシジョウギ)
蒸気で出来た細く尖った針を高速で発射する呪術。威力は強くないが、かなり遠くまで飛ばすことができ、速度も尋常じゃない。やはり、オウカの見る目に狂いはなかったようだ。ジアリなら、いつか頭か、もしくは長までなれるかもしれない……。
やっと魔物の脅威が無くなり、村をジアリたちに任せることできると思った私は、すぐに隣村に避難した住民たちとサイガの元に向かおうとした時、裏門が開き大勢の人達が入ってきた。先頭には複数の馬車を引き連れた獣人がいて、住民たちを引率している。
「セップさん、どうしたんだ。隣村に避難したはずじゃないのか」
ジアリは先頭にいる獣人に駆け寄り声を掛け、状況の説明を求める。
「すいません、ジアリさん。確かに隣村に向かったんですが、途中で私たちも魔物の群れに襲われてしまいまして……。何とか倒すことは出来たんですが、負傷者が出て急いで、戻ってきたんです」
ジアリ曰く、獣人はセップといって普段は隊商のまとめ役をしてるらしく、今回の避難でも住民たちを率いてくれたとのことだ。そして、途中までは何事もなく避難することができたが、やはりサイガの予感が当たり、魔物の群れの半分は避難する住民たちを追って襲ってきたらしい。
なんとか魔物の群れは撃退できたが、このまま避難して良いか迷っていたら、周囲の警戒に出ていた魔鳥が戻ってきて、ショウオン村の魔物たちも討伐されたと伝えてくれたので、急ぎ戻ってきたみたいだ。
「それで負傷者って誰なの? サイガは無事なの?」
2人の会話を遮り、私がサイガの安否を確認するとセップの表情が僅かに曇るのが分かった。
「サイガさんのおかげで何とか魔物たちは倒すことができたのですが、負傷した護衛の警備隊の人達を助けるために大量の魔素を消費したらしく、今は気を失い眠っています」
セップはそう言うと、引き連れてきた馬車の1台を見つめる。私は嫌な予感がして、急いで馬車に駆け寄り荷台を覗くと、黒髪の美少女2人に挟まれて気持ち良さそうに寝ているサイガがいた。
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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。
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