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102 リンの新たな呪術

村の裏門から住民たちの後を追うサイガを見送ると、すぐに私は警備隊長のジアリに指示を出す。


「あなた達は、このまま村に籠城して魔物たちの侵入を防いで。その間に私がアイツらを仕留めるわ」

「いや、サイガの知り合いのアンタに危険な役を頼む訳にはいかない。どんなにアンタが強かろうが、このショウオン村は俺たちの村だ。命を懸けるのはアンタじゃない」


真面目な顔で私の指示を拒否するジアリに思わず苦笑いしてしまう。オウカが隊長を任せただけはあり、責任感が強く自らを犠牲にする覚悟も持っているようだ。私を気遣うジアリの顔を見た私は、サイガたちが襲撃した時に逃げるように進言した文官の顔を思い出す。


「あなたの言いたい事は分かるわ。けど、ここは私に任せてほしいの。元とは言え魔王だった私に……。お願い、この村を守らせて」


ジアリは私が元魔王だと告白すると驚き固まるが、すぐに地面に膝をつき臣下の礼をとる。私は彼の手を取り立ち上がらせて、改めて村に立て籠り魔物の侵入を阻止するようにお願いすると、彼は力強く頷くと配下の隊員たちに指示を出す。


ジアリの指示を受けた隊員の1人が、私を送り出すため正門を開けようとしたので、私は首を横に振ると防壁を駆け上がり、村の外に飛び降りた。



俺は見張り台の上から魔物の群れに向かって走る少女を見送る。まだ十代半ばの彼女は自らを元魔王だと告げたが、到底、信じられる言葉ではなかった。だが、気持ちとは裏腹に体は勝手に反応し臣下の礼を取っていた。彼女を前に地面に膝をつく俺は、サイガの隣にいる時には気づかなかった存在感の大きさに圧倒されていた……。


俺たちに圧倒的な存在感を示し村の守りを頼んだ彼女は、防壁から飛び降り魔物の群れに突っ込むと、すぐに魔物たちが襲い掛かるが流麗な動きで躱していく。彼女が通り過ぎる度に次々と魔物は血を吹き倒れていき、気がつくとほとんどの魔物が息絶え地面に倒れていた。そして、残りはこの群れを統べる強力な魔物ミノタウロス1体だけとなっていた。



ほとんどの魔物を討伐した私の目の前に、魔族化した巨大なミノタウロスが立ちはだかる。頭からは4本の角が伸び、真っ赤に目を染め、巨大な戦斧を両手に持ち構えている。私に向ける眼差しには批判の色が見えるが、私はお門違いの感情だと鼻で笑うと、容赦なくミノタウロスに飛び掛かる。


身体強化して飛び上がった私は、ミノタウロスの頭上を目掛けて鉄扇を振り下ろすが、ミノタウロスも戦斧を振り上げて私に斬りかかる。私は目の前に迫る戦斧を、魔素を一気に放出して軌道を変えてギリギリで避ける。そして、再び魔素を放出して空中で加速すると、鉄扇を開きミノタウロスの肩口に斬撃を叩き込む。


私の変則的な動きに翻弄されたミノタウロスの肩に深々と鉄扇が突き刺さると、私は鉄扇を閉じて容赦なく切り口に突き出して肩の関節が外す。


肩を外され堪らず雄叫びを上げるミノタウロスは、大きく体を捻り私を振り落とそうとするが、その前に私は鉄扇を引き抜き肩を蹴って地面に降りる。力が入らなくなった右腕をぶらりと下げたミノタウロスから怨嗟の声が漏れるが、私が無視して止めを刺そうとした時、頭に何者かの声が響いた。


<呪術:射当猟弾 (イットウリョウダン)>


呪いの言葉を聞いた私は急いで魔素を感知すると、魔素でできた弾丸が私に向かって飛んでくる。咄嗟に鉄扇を広げて初弾を防ぐが、立て続けに飛んでくる魔弾を避ける事ができず何発か被弾する。威力はそこまでないが、数が多く私の動きをけん制するように発射されるため、なかなかミノタウロスに止めが刺せない。


……どう考えてもミノタウロスの呪術ではないが、周りの魔素を感知しても他に魔族の気配はない。正確に私を狙ってくる魔弾から、術者はどこかに隠れて私を見ているのは間違いないが、気配を捉える事ができない。


魔弾の射手を探す私にミノタウロスは、片手になりながらも懸命に戦斧を振るい攻撃をするが、大振りな攻撃は次に繋げられず、避ける度に大きな隙ができる。しかし、私がその隙を狙い止めを刺そうとする度に魔弾が邪魔して仕留める事ができない。……互いに決め手に欠く状況が続き、疲労だけが溜まっていく中、再び、何者かの声が頭に響く。


<呪術:一頭霊団 (イットウリョウダン)>


何者かが呪術を発動すると信じられないことに、死んだはずの魔物たちが起き上がり、私に襲い掛かってきた。動きは鈍いが、どんなに攻撃しても意に介さず襲ってくる大量の魔物たちに私は次第に追い詰められていく。


ガシッ!


何度倒しても起き上がる魔物たちに囲まれていく私は、ミノタウロスの戦斧をギリギリで躱して包囲網を走り抜けようとした時、何者かに足首を掴まれる。足下にはピクリとも動かなかった魔物の死骸が私の足首を握っていた。わざと動かずこの機会を待っていたのだと気づいた時には、すでにミノタウロスは戦斧を振り上げていた。


私は体内の魔素を高速で循環して掴んでる手を振り払おうとするが、間に合いそうにない。目の前まで迫る戦斧を見て私は死を覚悟する。……その時、頭の中に声が響く。


<新タナ呪術ヲ習得シマシタ。呪術:騎士鎧青 (キシカイセイ)>


迫りくる戦斧がゆっくりと見え、頭の中に新たな呪術の情報が濁流のように押し寄せると、瞬時に全てを理解して私は呪術を口にする。


「呪術:騎士鎧青 (キシカイセイ)!」


ガキンッ!!


金属同士が激しくぶつかる音がすると、ミノタウロスの渾身の一撃は私に届く前に弾かれ、ミノタウロスは大きく後ろに仰け反る。そして、体勢を立て直したミノタウロスは、私の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。


呪術を発動した私の体には紺碧に輝く鎧が浮かび上がり、全身を守っていた。私の姿を見て驚き、呆然とするミノタウロスを前に、私は鉄扇を腰に差して、右手を天に掲げると青き剣が現る。


「正直、剣で戦うのは嫌いなのよね。でも、それがこの呪術の制約なら従うしかないか……」


私は足を掴む魔物の腕を一振りで斬り飛ばすと、再び魔物の群れに飛び込んだ。

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また、「転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~」という作品も投稿していますの、こちらも読んで頂けると、なお嬉しいです。

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