101 マヤとアオ
ようやく、2人が合流……
ボクは懸命にカマキリの魔蟲の斬撃を躱すが、黒い雨のせいで体が思う通り動かない。体は痺れ吐き気や眩暈に襲われる中、必死に魔蟲の攻撃を避け続けるが、もう限界にきている。
黒い雨でぬかるんだ地面に足を取られ体勢を崩したボクに、魔蟲が容赦なく鎌を振り下ろし目の前に迫る。ボクは躱せないと思い、左腕を捨てる覚悟で体を限界まで捻じると、何とか致命傷は避けたが、やはり無事で済むわけはなく、地面にはボクの左腕が落ちていた。
もう、まともに動くことができないボクは、少しだけ寿命が伸びただけだと気づく。もしかしたら、さっきの一撃で殺された方が楽だったかもしれないと自嘲すると、魔蟲は止めを刺そうと鎌を振り上げる。もはや抵抗する気も起きず、ボクは呆然と見ていると、目の前に誰かが飛び込んできた。
ザシュッッ!
……目の前にお姉ちゃんがいた。ボクを庇うように覆い被さり、背中は大きく切り裂かれ大量の血が流れている。そんなお姉ちゃんはボクを見ると優しく微笑み、安堵の表情で見つめる。
「……アオ、無事で良かった」
「なんで庇ったんだよ、お姉ちゃん!」
「……私は姉です、妹を守るのに理由はいりません」
お姉ちゃんはボクの頬に手を当て微笑むと、気を失いボクに寄りかかるように倒れる。ボクは短刀を離すと残った右手でお姉ちゃんを抱きしめる。もう戦うことも逃げることも出来なくなったボクたちに、魔蟲は情け容赦なく鎌を振り上げる。
(あぁ、これで終わりなんだ。村の人たちは無事に逃げ延びることはできたかな。最後にサイガに会いたかったなぁ……)
ボクが死を覚悟して魔蟲を見上げると、再び、目の前に人影が飛び込んできた。
◆
俺が避難した住民たちを追っていると血まみれの2人の少女に斬りかかるカマキリの魔蟲が見えた。状況は理解できないが、殺されようとしてる少女たちを見過ごすことはできず背嚢を投げ捨て、間に割って入ると魔蟲の斬撃を受け止める。
ガキンッ!
俺の交差した両腕と魔蟲の鎌がぶつかり激しい金属音がする。魔蟲の斬撃を防ぎ、周りを見ると、何故か雨も降っていないのに、この一帯だけ地面が濡れてぬかるんでいる。不思議だと思うが、まずは少女たちの無事を確認するのが先だ。俺は魔蟲の鎌を両手で挟み抑え込むと、少女たちの方を振り返る。
……………………
………………
…………
血まみれで倒れる少女たちを見た瞬間、俺の中の何かが弾けた。記憶は無いが覚えている……心に、いや魂に刻まれた想いが、俺に2人のことを思い出させる。とても大事な掛け替えのない俺の仲間、そんな大切な2人に……。
湧き上がる怒りの感情で全ての景色が真っ赤に染まる。魔蟲を殺す、ただ、それだけが頭の中を支配していく。そして、俺は耳も破れんばかりの大声を叫ぶと、無我夢中で攻撃を繰り出す。相手が何をしようが全てを無視して、俺はただひたすらに殴り蹴り引き裂き続け、気が付くと魔蟲だったと思われる肉塊が地面に散らばっていた……。
――――――――
「マヤさん、アオさん! 大丈夫ですか!?」
……聞き覚えのある声に俺がぼんやりと振り返ると、ジュラが2人に駆け寄り必死に呼びかけている。地面に倒れる瀕死の2人が目に映り、俺はすぐに我に返ると背嚢から薬籠を探し、紫色の死免蘇花を2つ取り出すと2人の元に駆け寄る。
「ジュラ、下がってくれ。今から2人を助ける」
「サイガさんですか、どうしてここに?」
「ちゃんと説明するから、今はすぐに2人を助けたい。頼むから下がってくれ!」
思わず焦る俺はジュラに凄み後ろに下がるようにお願いする。少し怯えるジュラに申し訳ないと思うが、一刻も早く2人を治療しなければ、間に合わないかもしれない。彼女も俺の気持ちが分かったのか、怯えながらも頷き後ろに下がる。
俺は2人を慎重に仰向けに並べ胸元に紫色の死免蘇花を置き、左右に並ぶ2人の間に跪き死免蘇花に手を添えると、両手に魔素を集めて一気に放出して譲渡する。
「「呪術:死免蘇花―紫―」」
2つの呪術の同時発動は、途轍もない勢いで魔素を吸い取っていくが、全ての魔素が無くなってもかまわない。2人の命が助かるなら魂すらくれてやる。俺は全ての魔素を出し尽くすと、意識が途切れ地面に倒れた。
◆
私はマヤさんたちが心配で避難する村の人たちから離れて戻ってきてしまった。2人とも呪術を使い、残りの魔素も少ないはずなのに、私たちを逃がすために魔物たちを足止めしている。私はそんな2人を置いていけず、物陰に隠れて様子を見る。
……アオさんが魔物の群れに飛び込むと素早い動きで相手を翻弄する。そして、その僅かにできた隙を見逃さず、マヤさんが的確に矢を放ち、魔物たちを葬っていく。2人の連携で次々に倒され、残り僅かとなった魔物たちをアオさんが炎の呪術を使って討伐した。
全ての魔物を倒して安心した私は、2人の元に駆け寄ろうとした時、上空からカマキリの魔蟲が降りてきた。2人に強い悪意を向ける魔蟲は、問答無用で襲い掛かる。速い動きと巧みな体捌きで斬撃を躱すアオさんを魔蟲が一瞬見失うと、その隙を突いて、マヤさんが電光石火の矢を放ち魔蟲の眼を撃ち抜く。
思わぬ攻撃で深手を負わされた魔蟲の眼は急に赤くなり、どす黒い憎悪が膨れ上がり、離れた私にも意思が伝わってくる。
<呪術:勢攻雨毒 (セイコウウドク)>
私の頭に魔蟲の呪いの言葉が響くと、2人を中心に黒い雨が降り始める。黒い雨を浴びた2人は見る見るうちに顔色が悪くなり、まともに立てなくなる。そんな2人に魔蟲は容赦なく攻撃を仕掛ける。
魔蟲の攻撃を懸命に躱していたアオさんも、ついに力尽き左腕を斬り落とされる。死を覚悟したのかアオさんは魔蟲が鎌を振り上げても呆然と見ているだけだ。もう駄目だと思った瞬間、マヤさんが飛び出しアオさんを庇い斬りつけられる。
背中を斬られ大量の血を流すマヤさんを右腕1本で抱きしめるアオさん……そんな2人に容赦なく斬りかかる魔蟲。私は何もできないと分かっていたが、2人を助けるために駆け出そうとした時、どこからかサイガさんが現れて飛び出すと、魔蟲の攻撃を止めた。
どうして、サイガさんがここにいるのか分からないが、僅かだけど2人が助かる可能性が出て思わず私は涙ぐむ。そして、2人を見たサイガさんは、なぜか一瞬表情が消えたかと思うと、急に雄叫びを上げて魔蟲に殴りかかった。
魔蟲もサイガさんに斬りかかるが、傷付くことなどお構いなしに拳を叩き込むと魔蟲の腕が弾け飛ぶ。それでも魔蟲は残りの鎌で斬り掛かるが、サイガさんは素手で鎌を受け止め、そのまま握り潰して引き抜く。両腕が無くなり棒立ちになった魔蟲をサイガさんは乱暴に何度も殴り蹴り踏み潰した。
私は壮絶な戦いを見せられ呆然とするが、血まみれになって倒れるマヤさんとアオさんが目に映ると、すぐに我に返り2人の元へ駆け出した。
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