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001 人間が芋虫

処女作となります。


ライトに読めるお話を目指します。


頑張って更新していきますのでよろしくお願いいたします。

「ん? ここはどこだ? 俺は誰だ?」


ふと、気が付いた。……いや、自我が目覚めたと言ったほうが正しいかもしれない。俺は今、暗い森のような場所にいた。


鬱蒼と生い茂る草木が視界に映るものの、ここがどこかは分からない。それどころか、自分が人間ではなくなっていることにも気づく。


かすかに残る人間だった頃の記憶と比べると、すべての感覚が明らかに違っていた。


周囲を確認しようにも、どうやら首がないらしく、思うように周りを見渡せない。


さらに、起き上がろうとしても、胴体から先の感覚がまるでない……まるで手足が失われてしまったかのようだった。


とにかく移動しようとするが、うまく前へ進むこともできない。今の状態を例えるなら、簀巻きにされたような感覚だ。ひどく気持ちが悪い。


訳の分からないこの状況を抜け出すためにも、まずは自分の姿を確認したい。


視覚があることから、目は存在しているらしい。だが、どうも人間だった頃とは感覚が違う。


脳に流れ込んでくる情報を手がかりに違和感の正体を探ろうとするが、どうにも掴みきれない。


遠くに立つ木々も、すぐそばに咲く花々も、すべてが絵のように平坦に見える──奥行きがまるでない。


「そうだ、遠近感がない。……ということは、独眼(1つ目)なのか」


ひとつ目の生き物……それなら説明がつく。


サイクロプスのような存在かもしれない。しかし、手足がなく、視線もやけに低いことを考えれば、サイクロプスとは違うはずだ。


――考えれば考えるほど、自分の容姿への不安が募っていく。


出来る限り体を揺すって周囲を見渡してみるが、視線は低いままで、遠くまで見渡すことができない。


少ない情報の中から、何か容姿を映せそうな場所や物を探すが、めぼしいものは見当たらない。


ため息をつきたくなる気持ちを押し殺し、まずは移動を試みることにした。


体を伸ばしたり縮めたり、必死に試行錯誤を重ねながら、どうにか前進していく。


やがて、周囲よりも一段高く、木々に囲まれた場所にたどり着く。そこには、静かに水を湛えた湖が広がっていた。


……移動には、やはり苦労を強いられた。


尺取虫のように体を伸ばしたり縮めたり、時には横に転がりながら、体全体を使って懸命に進むしかなかった。


――こんな移動の仕方など、人間だった頃には到底あり得ないことだ。


いったん腰を据え、身体の調子を確かめる。体を引きずるようにして動いた割には、痛みはなく、目に見える範囲にも擦り傷ひとつ見当たらない。


長時間、必死に動き回ったはずなのに、疲労感もほとんどない。どうやら、身体そのものには特に問題はなさそうだ。


ならば、いよいよ――期待と不安でざわつく心音を胸に感じながら、俺はそっと水面に近づき、己の姿を覗き込んだ。


「なんだ、この姿は……ほぼ、芋虫じゃねえか」


ある程度の覚悟はしていた。だが、実際に目にしたその姿は、想像以上に衝撃的だった。


人間だった頃の半分ほどの身長に、大きな目がひとつ。手足はなく、丸太のような胴体。


肌は褐色で、毛もまばらにしか生えておらず、皮膚は分厚く、どこか動物的な質感を持っていた。そして、口元には鋭い牙がずらりと並んでいる。


しばらく、変わり果てた自分の姿を呆然と見つめ続ける……と、その時、ふと気づいた。


「そうだ、口がある。喋っている!」


しかも耳もあるようだ。自分の声が、しっかりと聞こえる。こんな些細なことにすら気づけなかったとは……。


今さらながら、自分がどれだけ動揺しているかを痛感させられる。


気を取り直して、改めて自分の声を確認してみる。人間だった頃の声は思い出せないが、それでも今の声には強い違和感を覚える。


──甲高く、金属をこすり合わせたような、耳障りな声だった。


……そもそも、人間とは違う声帯の仕組みをしているのかもしれない。


そんなことを考えながらも、油断はできない。周囲を警戒しつつ、今の身体についていろいろと試してみることにする。


飛んだり、跳ねたり、転がったり──。必死に体を動かしていくうちに、自分の身体の特性を、少しずつ理解できるようになっていった。


まず、この身体だが、思いのほか高性能だった。さっき水面を覗いたときも、手足がないにもかかわらず、器用に上体を起こすことができたのだ。


試しに思い切り跳んでみたところ、水面に自分の全身が映るほどの高さまで跳躍できた。


あまりの跳躍力に驚き、着地を失敗して背中から派手に転げ落ちてしまったが──。軽い痛みを感じつつも、改めて今の自分の身体について確認する。


 1 手足はないが、移動や跳躍といった動作はある程度こなせる

 2 芋虫のような姿だが、目・耳・鼻・口があり、五感が備わっている

 3 人間だった頃の記憶が、かすかに残っている

 4 喜怒哀楽の感情があり、欲求も存在する

 5 物事を理解し、考えるだけの知能がある


……こうして整理してみたが、正直、いまいちよく分からない。分かったのは、外見は芋虫(のような生き物)で、内面は人間──それだけだ。


情報はあまりにも少なく、この異様な状況について教えてくれる存在もいない。結局、分かったのは……何も分からないということだった。


――だが、分からないものは、どれだけ考えても分からない。


それに、考え続けるのは得意じゃない。とりあえずは──生き抜くことを第一目標とする。そのために必要なのは、まず「衣食住」の確保だ。


……もっとも、衣については問題ない。この体に合う服なんてあるわけがないし、寒さを感じることもない。だから、服は不要。住まいも、いまのところ必要ない。


ここに腰を落ち着けるつもりなど毛頭ない。となれば、最優先すべきは「食」の確保だ。


目的は決まった。あとは、行動あるのみだ。


──だが、この安易な考えで動いた結果、俺は想像を絶する経験をすることになる。


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