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近江屋の来客者と竜馬

 俺がいる近江屋は、土佐藩の御用達とあって脱藩した志士たちがこちらを訪れることが少なくない。竜馬にとっても、同じ藩で苦楽をともにした仲間とざっくばらんに語り合うことでささやかな幸せを感じていた。


 しかし、この日の竜馬はどうも顔色が優れないようである。


「ハ、ハ、ハクショーン!」

「竜馬さん、どうしたんですか?」

「今朝起きた時から風邪気味でなあ。これから2階に上がって寝るから」


 この土蔵は、醤油樽の保管が主な目的なので居住には適していないのが難点である。また、朝の厳しい寒さが元で体調を崩してしまうことも十分に考えられるだろう。


 しかし、2階へ移動するということは寺田屋の時と同様にいきなり襲撃を受けるということも覚悟しなければならない。なぜなら、かつて俺も属していた見廻組は京都見廻役を通して幕府と密接な関係を持っているからである。


「最悪の事態にならなければいいが……」


 俺が竜馬のことを案じながら近江屋の2階へ向かおうとすると、入り口に2人の武士らしき男がいることに気づいた。いつでも刀が抜けるように鞘に手をやると、相手の男からの声が俺の耳に入ってきた。


「助三さん、俺だよ! 藤堂平助!」

「平助か! 久しぶりだなあ!」


 目の前には、藤堂平助と伊東甲子太郎の2人の姿があった。けれども、彼ら2人は新選組にいたはずなのでは……。


「俺たち、新選組をやめて尊王攘夷のために力を尽くすことにしたんだ」


 新選組と見廻組は互いに反目することが少なくなかったが、尊王攘夷派の取り締まりを目的とした集団という点で共通している。そんな中で、尊王攘夷派に転じた平助と甲子太郎がここへきた理由を簡潔に伝えてきた。


「竜馬さんに会って話がしたいんだ」

「それじゃあ、こちらの階段を上がった先の部屋にいますので」


 俺は、平助と甲子太郎の2人とともに階段で竜馬がいる部屋へ向かうことにした。布団で寝ていた竜馬は、俺が連れてきた来客者の姿が部屋へ入るのが見えるとすぐに体を起こした。


「竜馬さん、初めまして。藤堂平助です」

「同じく、伊東甲子太郎です」


 相手の2人からの挨拶を受けて、竜馬は俺に彼らが近江屋へきた理由を尋ねた。なぜなら、この近辺では新選組や見廻組が倒幕志士を徹底的に見つけ出そうと躍起になっているからである。


「この2人は元新選組だけど、考え方の違いで尊王攘夷に転じた人たちでして」

「それじゃ、今は新選組に属していないということだな」


 寺田屋の一件があってから、土佐藩の志士以外の入室に慎重を期するようになったのは言うまでもない。けれども、平助と甲子太郎については新選組と決別しているのが明確なのでそのまま入室を許すことにした。


 竜馬は、突然の来客者を相手に世間話から尊王攘夷に関する朝廷の動向に至るまで幅広く語り合っている。そんな時、相手の2人の口から俺たちに警句が発せられた。


「竜馬さん、助三さん、新選組と見廻組が狙っているから気をつけたほうが身のためだぞ」

「分かった。寺田屋の一件は片時も忘れていないから」


 かつて新選組の内部にいた2人の警句は、土佐藩御用達として安息の地である近江屋にも魔の手が迫っていることを改めて思い起こすこととなった。

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