6 おかえり
ヘナチョコは裸であろうが、全く気にしていないので、何も隠すことなく堂々としていた。
しかし、それではミカのほうが困ってしまって、白いジャケットを脱いでヘナチョコに渡し、せめて腰に巻いて隠すようにお願いした。
ヘナチョコは、素直にジャケットを腰に巻いてくれたのだが、後は隠れていないので後からは丸見えであった。
もうこのジャケットは着れないと2日続けてお気に入りのジャケットをおしゃかにして、ショックであった。
「大丈夫?」
ミカは、呆然としている佐古田に声をかけた。
佐古田は、はっと我を取り戻したように「すいません、すいません」と言って、何とか立ち上がって駅の方に歩き出した。
「化け物、化け物」とぶつぶつ呟いていた。
大丈夫かな。明日大学で化け物扱いされないだろうか、ミカは気になった。
ところであの鬼には、心当たりがあった。雛祭りの日にミカに取り付いた鬼の兄弟ではないだろうか。
源頼光に斬られた鬼だ。
その事をヘナチョコに話すとやはりそうだと言うことだった。
「じゃあ、あいつが昨日私のジャケットを切り裂いたの」
ミカがヘナチョコに聞いた。
「実は、皇后様が言うには、ミカさんが前に鬼に取り付かれた時の瘴気がミカさんに残っていたらしくて」
「それを弟の鬼が気が付いてミカさんを狙っていたんでしょうね」
「じゃあ、最近夜に後を付けられていた気がしたのは、あの鬼なの」
「昨夜襲ったけど仕留めそこなってまた襲ってきたんでしょうね」
「皇后様には分かってたのね。それで護衛を付けてくれたんだ」
その後、何とか人目を避けながらミカと裸のヘナチョコは家にたどり着いた。
ミカは玄関から中を覗くと、廊下の突き当たりの台所のドアが半開きになっている。中から母と詩織の声が漏れてくる。何時もの通り夕飯の支度をしているのだろう。
ミカはヘナチョコを玄関の中に入れて、台所のドアの様子を伺ってヘナチョコを廊下にあげた。
二つ目の和室の襖を開けるとヘナチョコを中へ押し込んだ。
その時背後から「お帰り」と声がして、ミカはビクッと背骨が伸びた。
恐る恐る背後を見ると、そこに心音が立って、ミカ達を見上げていた。
「心音」
ミカが心音に声をかけると、心音は片手をあげて応えた。
「わたしだ。早く中へ入れ」
皇后様だ。
ヘナチョコとミカが部屋の中に入ると心音も続けて中に入った。
ミカが照明のスイッチを入れると部屋の中が明るくなった。
「うまくいった様だな」
三歳の心音が見上げて言った。
「鬼の片腕をもぎ取ると、鬼は逃げて行きました」
「そうか。さすがヘナチョコのつくも神だな」
「しばらくは来るまい」
「その間にミカに残っている瘴気も消えるだろう」
皇后様がそう言うと、ミカが口を開いた。
「この人めっちゃ強いです」
中身は、神功皇后でも外見上は、三歳の女の子だからミカはつい親しげに話してしまう。
「たから、立派なヘナチョコじゃと言うたろう」
「ヘナチョコなのに何でこんなに強いんですか?」
「なんだ、お主分かっていなかったのか」