5 鬼対鬼
ミカはいきなり現れたこの男に驚いた。
背が高く2メートルはゆうに越しているので見上げた。
顔は、マスクと帽子でよくわからないが異様な雰囲気であった。
佐古田もいきなり現れた男にわけが分からなかった。そして、弾き飛ばされてこけはしなかったものの横にいる巨大な男に圧倒された。
「よくも兄を殺したな」
そう叫ぶとその男は腕を振り上げた。
振り上げたその腕は、何倍にもふくれ上がり背広がひきちぎれ毛に覆われた腕が姿を現し、その手の先には、獣の様に鋭い爪が尖っていた。
その爪がミカに振り下ろされた時、何かが佐古田を突き飛ばしてミカに抱きついた。
ミカは抱きつかれて、後にのけぞり、振り下ろされた爪はミカの背後にあった金網を切り裂いた。
それは、まるでよく斬れるハサミで紙をスパッと切った様だった。
誰かがミカを庇ってくれなかったら切り裂かれていた。
庇ってくれた人の顔を見るとヘナチョコだった。
「危なかったです。ミカさんに何かあったら皇后様に叱られるとこでした」
「おのれ、邪魔をするか」
佐古田の横で男が叫ぶと、男の背広やシャツ、ズボンは散り散りに破け、みるみる巨大になり頭に2本の角のある鬼になった。
佐古田は、腰を抜かして這いつくばってそこから離れようともがいた。
鬼は再び丸太の様に太い右腕を振り上げてヘナチョコ諸ともミカに振り下ろしてきた。
あんな物で殴られるといくらヘナチョコが庇ってくれても二人とも切り裂かれると思った刹那、ヘナチョコが振り向いて鬼の腕を受けとめた。
鬼の腕はヘナチョコに掴まれびくともしない。
「む、むむむ」
鬼の様子がおかしい。うめき声を上げて腕を動かすことができないようだ。
ヘナチョコなのに、とミカが思っていると、こちらもみるみる巨大化して服が飛び散り、巨大な般若顔の鬼になった。
地面を這いつくばっている佐古田が蒼白な顔で振り向くと、
体長3メートルもある鬼同士が組み合っている。
ミカの目の前には、大きなヘナチョコの背中があった。
もしかして、皇后様が言っていた危険ってこのことかとミカは分かってきた。
ヘナチョコは、もう一方の手で相手の鬼の顔を鷲掴みにすると力を込めて握りこんだ。
ヘナチョコが掴んでいる鬼の腕がミシミシと音を立てる。みるみる相手の鬼の腕が肩から引きちぎれる。
体液が傷口から吹き出して、その下にいる佐古田がもろに体液を被った。
鬼は叫び声を上げて逃げ出した。
ヘナチョコは逃げた鬼に向かって引きちぎった腕を投げると、鬼はそれを拾って走って行った。
般若の顔をした巨大な鬼は、ミカの方に振り向いて「大丈夫ですかミカさん」と声をかけてきた。
「は、はい大丈夫です」
ミカの答えをきくと般若の鬼は、笑った様だが怖すぎて笑顔には見えなかった。そして縮んで元のヘナチョコに戻った。
とたんにミカは、目のやり場に困った。ヘナチョコは真っ裸であった。