4 ヘナチョコ
髪の長い男は、立ち上がって二人の男子学生に何度も頭を下げて謝った。すると二人連れは何も無かった様に歩いていった。顔を向かい合わせて笑っていた。
「あの二人連れの方がぶつかったのにあの人、めっちゃ謝ってるわ」
香子が言った。
その男は髪が長く、体も細くてボタンを止めないシャツを羽織っり、全体的にヒョロっとした感じである。
キョロキョロと何かを探す様に弱々しく歩いている。
そして、女の子であろうと、自分より小さい者であろうとぶつかっては、謝っている。
近くを通る女子達が笑って通り過ぎている。
「凄いヘナチョコね」
香子が言った言葉にミカが反応した。
「まさか」
「行こう、こうこ」
ミカは席を立ってその場を離れようとした。
因みに、ミカは香子のことをこうこと呼んでいる。
「えっ、うん」
ミカと香子が広場から出た時、「あっミカさん」と背中から声がした。
ミカは、ビクッと反応する。香子が振り返ると、長い髪のヒョロっとした男がこちらに向かって手を振っている。
「ミカ、あのヘナチョコと知り合い?」
香子がミカを見て聞いてきた。
「ミカさん、探しましたよ。皇后様に云われて来ました」
ヒョロっとした男が大きな声で叫びながら、手を振ってこっちに小走りでやってくる。
周りにいる人達がみんなミカに注目する。
「こうごーさま?」
香子がミカに尋ねるや否や、ミカは走り出した。
「あんなヘナチョコ知らない」
(本当にヘナチョコじゃない)
そして、人混みの中に紛れていった。後に香子とヘナチョコを残して。
その後、ミカはあのヘナチョコに会わないように、大学の構内をこそこそと移動して、講義を終えると帰路に着いた。
家の最寄り駅を降りた時から雰囲気がおかしかった。
既に街中は暗くなり、街灯が道路を照らしている。
駅の周辺はまだ、電車を降りた人達が大勢いたが、駅から離れるほど人影が少なくなっていった。
ミカの背後には、3人ほど歩いていたが、駅からずっと同じ人影が同じ距離でついて来てる気がしていた。
公園の前にきた時、振り向くと
その中の1人が街灯の下に入って顔が見えた。
佐古田だった。
ミカは迷ったが、つきまとうのをやめるように佐古田に言おうと決めた。
それで足を止めて、佐古田がやって来るのを待った。
佐古田もミカに見付かったと分かった。それで意を決して話しかけようとミカに向かって歩いた。
ミカがじっと睨む中、佐古田がミカの3メートルほど手前に近づいた。
佐古田はミカに何か声をかけようと口を開いた時、右肩を何かにはじかれた。
佐古田の後から背の高い背広を着た男が佐古田を弾き飛ばして、ミカの前に出てきた。
「神宮寺の者だな」
その男は、くぐもった低い声で
ミカに言った。