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2 背中を切られる

「佐古田さんだ」

 ミカがラインを開けて言った。


「佐古田君?ライン交換してるの」

 香子も同じ専攻の佐古田は知っている。話しをしたこともあった。


「よく電車で見かけるんだよね」


「電車?何で電車で会うの」


「私と同じで大阪から電車通学じゃないの?」


「佐古田君、京都市内の実家から通いだよ」


「えっ、そうなの。じゃあアルバイトかなんかで大阪に行ってるのかな?」


「そうかな。で、ラインに何て書いてあるの?」


「“お久しぶりです”」


「それだけ?」


「うん。これだけ」


「あんた、前に帰り道誰かに付けられてるって言ってたわね」

 ミカは大学からの帰り、誰かにあとを付けられてる気がすると、香子に以前話したことがあった。


「それ、佐古田君じゃないの」


「えっ」


「彼、ミカのストーカーじゃない」


「まさか。えっ、そうなのか」


「ミカは別に佐古田君に気があるわけじゃないでしょ?」


「無い無い!」

「どうしよう。どう返事したらいいの」


「難しいね。下手に返事すると期待を持たせるからね」


 ミカはどう返事したらいいのか分からず、佐古田のラインには返事をせずにそのままにしておいた。

 それは、既読が付いたままで放って置かれたのだった。

 

 ただ、帰り道に後を付けている者の事だが、佐古田とは違うような気がしていた。もっと大柄な体格をしていた気がした。


 その夜、ミカのラインに一枚の写真が送られてきた。

 町並みが写っている何気ない風景写真だった。

 だがその風景に見覚えがあった。

 家への帰り道の最寄り地下鉄駅から出たところの景色だ。

 佐古田からだった。

 続けてまた一枚写真が送られてきた。

 駅から家に辿る途上の風景写真だ。

 そしてまた一枚写真が送られてきた。

 だんだん家に近づいている。


 写真は家の直ぐ近くまで来たところで終わった。家までは写っていなかった。

 

 ミカは薄ら寒いものを感じた。やはり、佐古田はミカの後を付けていた。そして、それはいつもミカを見ていると言っているようであった。

 

 それ以来、ミカは駅や電車で佐古田と会ったらどうしようと、大学から帰る頃になると緊張していた。

 しかし、その後しばらくの間は電車内、駅で佐古田を見る事はなかったのだが、ある日大阪で私鉄を降りた時駅の構内で佐古田を見かけた。

 遠くの人混みにいたので、ミカに気付いているのかわからなかったが、ミカは佐古田から隠れる様に離れた階段から駅のホームを出て、地下鉄の駅へと向かった。

 それから家の最寄りの地下鉄の駅で降りたのだが、何か様子がおかしかった。

 横を通り過ぎる人がミカの顔を覗いて何か言いたげに通り過ぎていくのだ。

 何だろうと思っていると、一人の会社帰りのスーツ姿のお姉さんが、強張った顔をして声をかけてきた。


「あなた、大丈夫?」


「えっ、何ですか?」


「あなた、背中が切られてるわよ」


 ええっと驚きの声をあげると、ミカはジャケットを脱いで背中を見た。

 それは、肩から脇にかけてバッサリと切られていた。シャープな切り口でかなり鋭利な刃物で切ったのだろうと想像できた。

 いつの間に切られたのだろうか、全く身に覚えがない。

 そのお姉さんにお礼を言うとジャケットは手に持ってそそくさと家に戻った。


 玄関を入ると姉の詩織とその娘の心音が台所に来ていた。

 神宮寺家は、二世帯住宅に改造して、詩織は二階の弓弦家の人間である。三歳の心音を連れて一階の台所で母と夕食の用意をしてるのだった。

 心音は、台所のテーブルについて絵本を読んでいた。


「これを見てよ」

 とミカはバッサリと切られたジャケットを広げて詩織と母に見せた。


「どうしたのそれ」

 詩織と母が驚いて口を揃えた。


「地下鉄を降りた時はこうなってたの。誰がやったかも分からない」


「危ないわね、下手したらミカも怪我してたかもね。警察に届けた方がいいんじゃない」

 詩織が包丁を持ちながら言った。


「そうね」

 ミカが呟く様に言葉を発した時、服の裾をくいっくいっと引っ張られた。


「お姉ちゃん」

 

 心音が服の裾を持って見上げていた。


「どうしたの心音」


「ちょっとこっち来て」


 心音は、ミカの服の裾を持って廊下に出た。そして、玄関の手前まで行くと広い和室に入った。

 雛人形が飾ってあった部屋である。

 



 


 

 





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