33話 原作改編した結果
当たり前だが、『私』は社交ダンスなど踊ったことがない。
だから、辛うじて口角はあげているけど、腕や足はガクブルである。
そんな私が見て取れたのか、チカ様が「ぷはっ」と噴き出す。
「これはこれは。レディから誘わせるなんて、俺は男性失格ですね」
「大丈夫です。私はどんなチカ様だって愛しています」
「俺は……幸せ者だな」
私が掲げた震える手を、チカ様がすくいあげてくれる。
そして、チカ様が楽団に目配せすれば。
音楽が変わる。違いがよくわからないけれど、きっとダンスミュージックというものなのだろう。さて、どこから動き出せばいいのやら?
だけど、さすがチカ様。
誰もがうっとりする微笑を携えたまま、優雅に足を動かし始める。
私はただ、ついていくだけ。
音楽など、耳に入らない。
まわりの視線も気にならない。
私がただ美しいチカ様の顔に見惚れている間に、どうやら一曲踊り切っていたらしい。
大歓声と拍手の中で、チカ様に促されるまま頭だけ下げる。
すると、チカ様が「よくやった」と言わんばかりに頭を撫でてくれた。
「意外と上手いじゃないか」
「ほんとはソーラン節のほうが得意ですけどね」
「そーらんぶし?」
そんな軽口をかわしながら、思うのはビビアナのこと。
――ビビアナ、ダンス上手かったんだな。
――スターと踊るために、一生懸命に練習してたのかな。
チカ様のダンスについていけたのは、ひとえに身体が勝手に動いただけのこと。
もちろん、チカ様の絶妙なエスコートもあるけれど……身体の記憶に、私は感謝して、彼女の努力を慈しんで。
すると、ひときわ強い拍手が近づいてくる。
今度はモブなどではなかった。
チカ様と同じ白髪。だけど長さは短くて、着ているものは豪華絢爛だけど、身体の線はだいぶ細い。そんなアラサーくらいのヘラヘラした男、タリィア王国国王ダリル・ダ・タリィアが私たちのダンスを絶賛してくれていた。
「いやぁ、見事なダンスだったね。チカ。正直、おまえのこんな幸せそうな顔が見る日が来ようとは思わなかった。すごくいい日だ」
本当、彼がチカ様のお兄さんで間違いないのだろう。チカ様の舌打ちが聞こえるしね。だけどチカ様、すぐさま表情を正して兄王に向かって一礼する。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます。兄上、ぜひこの場で俺たちの婚姻を承諾していただきたいと――」
さすがは策士なチカ様。ダンスの成果で私たちの好感度があがった流れで、このまま婚姻を成立させようとしているらしい。
しかし、私が何か言うよりも早く。
ダリル王はニコニコしたまま、手のひら一つでチカ様の言葉を制止させた。
「せっかくの機会だ。奥でゆっくり話さないか?」
パーティーホールの奥の部屋なんて、まさにVIPルームである。
調度品がキラキラしすぎて眩しくて、飾られた大ぶりの生花だけでもいくらするんだろう。この異世界にきてから一番の豪華さに眩暈しそうになっているも、ダリル王は当たり前のようにお酒を勧めてくる。
「きみはお酒が飲めるかね?」
「こいつはダメだ。悪酔いして始末におえない」
ちょっとチカ様。私、あなたの前でお酒飲んだことありましたっけ?
だけど前世でもお酒に匂いにいい思い出はないため、内心ホッとしているも。
この兄弟の再会、実はかなり修羅場の予定なのである。
ここで思い出してほしいのが、『アウローラの涙』三幕一章のあらすじ。
ようはこの国王が、弟であるチカ様に暗殺される事件が起きるのだけど――その事件の発端が、この二人の会話なのだ。
再会したチカ様は、貧しいネーヴェ領のために援助を訴える。
だけど兄王は聞く耳もたずにスルーした結果、絶望したチカ様が強硬に出るのが事のあらましである。
なので、本来ならばこの場でそんな会話が起きるはずなのだが……。
――さて、原作を改編しまくった結果は……?
「さて、二人はまだ籍を入れていないんだよね?」
私が固唾を呑んでいると、国王は私に向かってにっこりと微笑んだ。
「それならビビアナさん、ぼくの側妃にならないか?」
「は?」
目が丸くなるタイミングが、チカ様と完全合致した。
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