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悪女の契約結婚はご褒美ですか?~推しボス様を溺愛していたら「俺のほうが好きだと思うぜ?」と離してくれません!?~  作者: ゆいレギナ
5章 推しのためなら、パーティーだって!

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32話 その目は飾りか? 節穴か?

 会場中の紳士淑女たちが、チカ様をまるで汚い物のように見てくる。


 は? おまえらの目は節穴か?

 今すぐ一人ずつ目玉をくり抜いて洗って戻してさしあげたいが、チカ様がギュッと私の腰を強く引き寄せる。


「いい。慣れてる」


 ――悪いな、私は慣れていない。


 そう、答えてやりたいのに。


「せっかく俺様が化粧してやったのに、変な顔するな」


 なんて笑うチカ様の横顔が、本当になんとも思ってなさそうだから。

 本当に、諦めることに慣れてしまっているように見えたから。


 思わず迷ってしまった隙に「あいさつ回りをしてくる」と、チカ様は私のそばから離れていってしまう。


「あー、失敗した……」


 少しでも淑女らしく綺麗でいたほうがいいのか、下手に暴れてチカ様の悪評が助長しようものなら……なんて、慣れないこと考えちゃいけなかった。やっぱり私に、化粧はまだ早いようだ。


 そう、チカ様に塗ってもらった唇に触れようとしたときだった。


「お噂は、かねがね伺っておりますわ」


 誰だろう。まったく知らない貴婦人たちが近づいてくる。

 おそらくモブ夫人らだと思うのだけど……参ったな、ビビアナの記憶をたどっても、さっぱり名前が出てこない。下手に恥を掻いて、チカ様の株を私が下げるなんて論外だ。


「どのような噂でしょうか?」


 困ったときは、オウム返しと相場は決まっている。

 できうる限りの愛想笑いを返せば、彼女らも言葉を濁すようにクスクスと笑った。


「忌み王子……いえ、忌み公爵のもとでは、何かと不便もございますでしょう?」


 ……前世では婚約も結婚も、なんなら恋人すらも無縁だった小娘意見でございますが。

『王子』とか『公爵』とか、この際どーでもいい。その人のパートナーに対して『忌み王子』なんて悪口を言うことこそ、品のない言動ではなかろうか。


 ならば、私が為すべきことは、同じ土俵に立たないようにするだけである。


「いえ、チカトリィーチェ様には、いつもよくしていただいてますよ」

「よくって……いうてあの辺境でしょう? 贅沢品どころか、日頃の食事すら質素って噂ですし……」


 にっこり笑う。

 辺境のどこが悪いんだ。そこで必死に生きている人が大勢いるんだぞ。


 贅沢品だって、チカ様が懸命に予算案を都度都度組み直していること、私だって知っているんだ。その中で少しでも私が不便しないように、公爵夫人として恥をかかないようにと配慮してもらっている。すっっごくありがたい。その配慮を私がいつも無下にしちゃっているらしいことは見て見ぬしているけれど。


 それにご飯だって、いつもおいしいよ。料理人さんたちがすごく苦心しながら、少しでもおいしいものをみんなに食べさせようとしていることか。


 握ったこぶしに爪が刺さって痛い気がするけど、表には出さない。


「今日のドレスも……皆様からしたら、そんなに質素ですか……?」

「いえ、それは……兄上である国王陛下に用意してもらったって噂が……」


 こいつら、バカなのかな?

『噂』『噂』『噂』『噂』……噂以外に話せないの? 自分の目と耳で判断することはできないの? だったら何のためについているの? ただの飾りか?


 だけど……我慢しろ、ビビアナ。

 今般若しようものなら、恥を掻くのはチカ様だ。

 忌み公爵の選んだ女は、やっぱりろくでもない女だった。私がチカ様の足を引っ張るなんて言語道断――


「それに、そもそも忌み公爵と夜だなんて……どれだけ野蛮なことをされるか……」


 ――と、あまりの品の名さに、我慢も限界だった。


「忌み公爵じゃねーよ! チカトリィーチェ様だわ! まともに人の名前も言えないようなやつらに、思慮深いチカ様のことなんか語る資格ねぇーでございますわっ!」


 そのときだった。誰かが、後ろから「おい」と私の肩を組んでくる。

 寄せられた顔から発せられる、ムスクな吐息。


「熱烈なラブコールを叫ばないでくれよ。恥ずかしいだろ?」


 それはまったく恥ずかしがるどころか、いつになく上機嫌で。

 チカ様の熱烈な登場に、むしろ怖気づくのは私を囲んでいた貴婦人たちだ。


 その化粧でも隠しきれてない青白い顔に、思わず私も笑ってしまいそうになる。

 そんなに怖いなら、陰口なんて言わなきゃいいのに。


「帰るぞ」


 力強いエスコートに、私は思わず頷きそうになるけれど。


 私も、しょせんは三流の女だから。

 このモブ夫人たちが、私たちがいなくなったあと、どんな話題で盛り上がるかなんて手に取るようにわかるわけで。


 だから、私は引かれそうになる手を逆に引っ張る。


「逃げるな」

「お、おい……」


 慌てるチカ様。もしやエスコートは慣れていても、されるのは慣れていなかったり?


 私がチカ様を無理やり連れていく先は、当然ホールの真ん中だ。

 パーティー会場の真ん中で、することなんて当然ひとつだけ。


 私は見様見真似で、ダンスの構えをとってみせる。


「ほら、レディに恥をかかせるつもりですか?」

「おまえは、ほんとに……」


 チカ様はため息は、今日もご褒美だけど……。

 今日はそのご褒美の独り占めをやめることにする。


 私のカッコいいチカ様を、この場に全員に見せつけてやるのだ。


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