31話 お揃いのドレス
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【原作小説『アウローラの涙』、第三幕、一章のあらすじ】
ネーヴェ領で活躍していたスターの元に、一通の手紙が届く。
――一度、聖女を連れて戻ってこい。
それは、辺境でがんばる二人の噂を聞いたスターの父からの仲直りのきっかけだった。
王都に戻った二人はアモーレ男爵と親交を深めたのち、男爵の名代として王城のパーティーに参加することになる。アウローラは初めての社交界。ダンスなんか踊ったことがない。
『どうしよう……わたし、スター様に恥を掻かせてしまうかも』
『キミと楽しくダンスが踊れるだけで、僕は十分幸せさ』
そして、いざパーティーの日。
二人は楽しく時間を過ごして王宮で一泊したとき、事件が起きる。
国王暗殺事件――夜更けに呼び出されたアウローラは無事に国王の傷の治療に成功するも、その傷に残された魔力の痕跡には、どうにも覚えがあった。
黒炎の粒子……それは紛れもなく、忌み公爵チカトリィーチェのものだったのだ。
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さて、本編も第三幕……おそらく小説三巻・最終巻に値するだろうウェブ版『アウローラの涙』で、こんなキャラ設定があった。
チカ様の兄、現在国王のダリル・ダ・タリィア王。彼は無類のパーティー好きである。
隙あればパーティー、理由があればパーティーと、派手好きな彼が『弟公爵の帰還』を理由にパーティーを計画していても不思議ではない。チカ様曰く、本来は公爵位を賜った記念パーティーも提案されたらしいが、ご破算にするために早期出立をなされたのだとか。
……と、そんな前情報はさておいて。
「この豪華絢爛なお衣装はなんですか⁉」
「おまえのドレスに決まっているだろうが。嬉しいだろ? 俺とお揃いだぜ?」
「こんな経験しちゃったら、もうお嫁にいけない……」
「安心しろ。おまえが嫁ぐ先が俺のところだ」
本当いつのまに用意されていたのか、王宮に着いて一息吐く間もなく、私は大勢の侍女さんたちに囲まれて全身を磨かれてしまった。
ピカピカのツヤツヤ。前世でもエステなんて経験したことなかったから、むくみとりのマッサージが痛いことを初めて知った。そしてある程度のお化粧をして、ドレスに着替えて。
それは白と赤を基調としたドレスだった。まんまチカ様じゃん!
さらに、かというチカ様のご衣裳は黒の貴重に、青いアクセントが効いている。これって、私のことですか? もちろん、デザインや刺繍はお揃いだ。
こんなハイセンスなペアルック、許される?
「私、聖女を殺そうとした悪女なのに……」
「だから、今や『婚約者を寝取られて気が動転してしまったこともあったけど、その後辺境で反省した結果、深い知見で領地の改善に最善を尽くす令嬢』だろう?」
「長い!」
「略して『俺の嫁』。文句あるか?」
短くまとめすぎて、今度は要点がズレた気がするのですが?
そんな間に、私の髪のセットが終わったらしい。
いつも下ろしているか、おばさん結びしているだけだったけど……こうしてアップスタイルにしてもらうと、やっぱりビビアナは貴族なんだな、と実感する。細い首筋が我ながら綺麗だ。
ま、そんな感想を口に出したりはしないけどね。
「そもそも……誰が私の噂を広めたのですか?」
「俺には有能が従者がいるんでね」
チカ様のうしろで、エドワルドさんが誇らしげに胸を張っている。
私はエドワルドさんにコソコソ聞いてみた。
「……ちなみに、疫病の件で瘴気がうんぬん広めた覚えは?」
「私がチカ様の害になることを広めるわけがないでしょう」
「ですよね~」
「おい、俺に内緒とは楽しそうだなァ」
あの、チカ様。従者と五秒くらいナイショ話しただけで、不機嫌にならないでほしい。
妬いてるの? 私そっくりの服を着たうえに、さらに嫉妬までしちゃうの?
「チカ様の今日のお衣装は、特別素晴らしいですね?」
「素晴らしいのは衣装だけかよ?」
「チカ様が素体でも素晴らしいのは、この世の真理です」
そんないつもの心からのヨイショをしたときだった。
「おい、こっちを向け」
「へ?」
顎を掴まれ、無理やり顔の向きを変えられれば。
チカ様の尊顔が間近にあった。真剣な顔をしたチカ様が、そっと私の唇を指で撫でる。
「……こんなものか」
「はひ?」
見てみろと言わんばかりに顎で鏡をさされ、言われるがまま見てみれば。
ビビアナの色素の薄い唇に、赤いルージュが引かれていた。
チカ様が指を拭いているから……もしかして、塗ってくださったのですか?
「はわ……わわわ」
「せっかく俺が塗ってやったんだ。パーティーが始まるまで、飲食は最低限にしろよ?」
「はひ……もう私は一生何も飲み食いしません」
「いや、パーティーでは食おうぜ。どうせ他に楽しみなんてないんだから」
それなら、パーティーなんて参加せずに、一緒に美味しいご飯でも食べに行きましょうよ……差し支えなければ、私はなんでも作りますから。
「それじゃあ、行くぞ」
だけど、そんなささやかな願いが叶うはずもなく。
あっという間に、パーティー会場へ入場する時間になってしまった。
「ほら、手を貸せ」
「……うっす」
チカ様が差し出された腕に、私は手を置く。
そして、重そうな扉があっさりと開かれた、そのときだった。
「……ま、これが嫌なら、本気で俺から逃げてくれ」
会場から溢れ出る眩しさに、私は思わず顔をしかめる。
目が慣れたとき、私はようやく気が付いた。
会場の誰もが、険しい嫌悪の目を向けている。
私の大好きな、チカ様に対して――






