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悪女の契約結婚はご褒美ですか?~推しボス様を溺愛していたら「俺のほうが好きだと思うぜ?」と離してくれません!?~  作者: ゆいレギナ
4章 疫病をやっつけろ!

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24話 待たせたね!

「で、チカ様。なんでついてきたんですか?」

「おまえの見張り以外になにがある?」


 あんだけしつこく見てきた村人は、鋼の精神で病人の家には入らないぞ、という感じなのに。移ることを恐れず足を踏み入れてきたチカ様はやっぱり尊い。


 だけど、だからこそ私の怒りは収まらないわけで。


「はああ? 私のチカ様を病原菌扱いするやつらを、ぶん殴るなと?」


 あまりに阿呆なことを言うものだから、思わずチカ様にまで般若を向けると。

 なぜか、チカ様が屈託なく笑っていた。


「病人を殴るんじゃねーよ」


 目じりにしわが寄った顔が、中途半端に美しくないものだから。

 怒りの炎があっさり消し飛ばされてしまう。


 私は思わず、呟いてしまった。


「……そんな顔をするから、勘違いしそうになるんですよ」

「どんな勘違いか知らねーが、全部受け止めてやるぜ?」

「またもーからかって!」


 私の耳元でいい声出してくるってことは、チカ様の調子も戻った様子。

 少年も「おねえさん?」と不安そうにしているからね。さっさと説明してあげましょう。


「これは『ペスト』っていう、れっきとした病気だよ」

「ぺすと……?」


 本当は『黒死病』って言ったほうが、この世界のひとには馴染みが早いのかもしれないけど。でも、『黒炎の魔術師』たるチカ様を連想されたらごめんなので、絶対に使ってなるものか。


 そんな鋼の精神で、私はなるべくわかりやすく説明をする。


「ノミから感染する病気でね、まぁ不衛生な所で流行りやすい病気なんだけど。しっかり治療法も確立しているし、予後も心配いらない。だから安心していいと思うよ」

「ほんと……ほんと? おねえちゃん?」


 ホッとしたのだろう。今すぐ泣き出しそうな少年をよそに、家の外でオロオロしているだけの大人たちがザワザワしている。興味持ってくれたなら、直接聞いてくれたらいいのに。


 その中で、やはり端的に話を進めてくれるのがチカ様だ。


「その治療法はなんだ?」

「投薬です。抗生剤で一発ですよ!」

「こうせいざい?」

「そう、ゲンタマイシンかストレプトマイシンを……」


 と、調子に乗って、まさに墓穴を掘った私である。

 このファンタジーな世界に、そんな抗生剤なんてあるはずないじゃん……!


 でも、ちょっと待てよ?

 なら、どうして原作小説ではこの村からペストが消えたのか。


 たしかに亡くなった人は多かった。だけど、少なからず快復した人もいた理由は――


「あぁ、アウローラの涙!」


 それなら合点がいく。アウローラの奇跡に、おそらく殺菌効果もあるのだろう。この世界風の言い方をすれば、浄化のほうがいいのかな。


 ま、そんな些末な心配はともかく。

 提案したくないけど、人命とチカ様への信仰心には代えられない。


 この危機を乗り越えて、村の人たちにはチカ様が善良領主だと崇めてもらわないといけないのだから!


「チカ様、大変です。やはり治療自体は聖女の力を借りないと難しいかもしれません」


 チカ様が、とても嫌そうな顔をする。

 だけど一呼吸してから、すべてを覚悟したようだ。


「……仕方ないか」

「……仕方ないです」


 いくら転生者とて、私は悪女。アウローラは聖女。

 どうしても越えられない壁はある。


 使えるものは、使う――ただ、それだけのこと。


「だけど、私たちにもできることはありますよ!」


 私はバーンッと、窓を開けた。

 外から入る空気が、とてもきもちいい。


 私は笑顔で、チカ様に言いのける。


「お掃除しましょ!」




 そして、毎日必死にお掃除し続けること三日。


「ところでチカ様」

「なんだ、マイレディ」

「どうして私の言うことをすんなり信じてくれたんですか?」


 お掃除ならお任せください!

 もちろん前世で清掃員のアルバイトも経験済みです!


 それ以前に、家の掃除も私がしていたからね。チカ様が叩き落としたホコリを、私が雑巾で拭きとる……あぁ、これがファーストバイトならず、ファースト掃除。チカ様との初めての共同作業にうっとりしながら、百戦錬磨の雑巾がけを披露していると。


 チカ様が小さく笑っていた。


「愛してるからに決まっているだろうが」

「ふぇっ?」


 突然の愛の爆撃に被災したときだった。やたら無駄にバーンッと開かれた扉に、必然と私とチカ様の視線が動く。後光を背に現れた青年は、無駄に決め顔だった。


「待たせたね! 救世主の登場さっ!」


 おまえじゃねーだろ、アウローラだろ。

 肝心のアウローラは、今日もスターの半歩うしろで控えめに頭を下げてくる。あくまで、自分は陰の女に徹するようだ。


 こないだ『あなた何者?』なんて怖い顔で聞いてきたくせにさ。

 ……それでも、私の心は大人である。


「お待ちしておりました。スター様ッ★ アウローラ様ッ★」


 キラッキラさせようとした声音は、ちょっと黒かったかもしれない。


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