22話 同志が増えたよ!
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【原作小説『アウローラの涙』、第二幕、三章のあらすじ】
ネーヴェ領南方の村が、壊滅の危機だという報せが入る。
その話を聞いて、アウローラは居ても立っても居られない。
『わたしの力で、誰かが救えるのなら!』
スターはアウローラの身を案じて止めようとするも、彼女の強い決意は変わらない。
『それなら、僕も行こう――どんなことがあっても、僕はきみと一緒だ!』
いざ二人が現地に赴くと、村は死臭で溢れていた。
いくら『アウローラの涙』をもってしても、治療は一人ずつが限界できりがない。
しかし二人は必死の看病のもと、なんとか病の鎮静化に成功する。
これにて一件落着と思ったとき、二人は思いもしれない話を聞く。
この瘴気は、忌み公爵チカトリィーチェがきてから発生した、と――
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んなわけあるか。
そもそも瘴気ってなんだ? 作中いかにも『悪い空気みたいなやつです』という風に書かれていたけど。その実態がなにか一切書かれていなかったぞ。書籍化したあかつきには、それっぽい補足がされるのかもしれないけど。
ともあれ、そんな事件の発生条件が揃ったらしい。
さて、そのイベントでチカ様の出番は一切なかったけど、実際のチカ様は――
「仕方ない。この現場はおまえに任せる」
「……止めても、無駄なのでしょうな」
当然、チカ様自ら調査に赴きますよね~~っ!
はあ、今日も私の推しがカッコいい。
領主であるチカ様が病にかかってしまう恐れがあるのに、躊躇うことないご決断。はぁ、今日も痺れる、憧れる!
そして最近胸キュン供給が増えたのだけど、エドワルドさんとの主従関係もいいよね! 今の『……止めても、無駄なのでしょうな』のあとに『わかっているじゃねーか』と言わんばかりの『フンッ、微笑』ですよ。
神様ありがとう。転生やっほい!
さて、そうと決まれば話は早い。昼食を馬車の中でも食べられるようにお弁当仕様にしてもらって、早くチカ様と移動しなければ。
と、踵を返したときだった。
「おい、念のために訊くが、おまえはどこに行く?」
チカ様に掴まれた襟首、もう一生洗えない……!
それはともかく、私が「お弁当仕様に――」と言いかけたときだった。
「おまえは城に戻るんだからな」
「なんで⁉」
私が慌てて振り返ると、チカ様はやれやれと嘆息される。
「塩の件はおまえが発案者だったから、仕方なく連れてきたんだ! 疫病の村なんて関係ないだろう」
「関係なくないです。チカ様がおわすところは、すべて私が地ならしするんです!」
「大層な忠義だがなァ……自分の立場を忘れてもらっちゃ困る」
すると、チカ様の顔がグンッと近づいた。
「おまえは、俺の女なんだよ」
「はう……」
その一言で、私のHPはゼロになる。
シンプル・イズ・ベスト。必殺技がすぎる。
さらに、チカ様は死体蹴りまでしてくるのだ。
「将来俺の子供を産む身体に、なにか問題が起きたら困る。俺が戻るまで城から一歩も出るな。いいな?」
言葉だけで妊娠するとは、まさにこのこと。
私が絶命している間に、チカ様はヅカヅカと歩いていってしまわれた。
そして「馬!」の一言だけで用意された馬に、あっという間に飛び乗っては駆けていく。
思わずアイドルが舞台袖にはけるのを見届けるが如く、最後の瞬間まで見入ってしまった私だけど。
現実の戻った私は、ぼそりとつぶやく。
「え、どうやってついていこう……」
当たり前だが、私に乗馬経験は皆無である。
そんな習い事ができる日本人いるのか? セレブリティな趣味すぎる。
だけど、問題点はそれだけじゃなかった。
なぜ、人型紳士のエドワルドさんが倒れてるのだろう?
「エドワルドさん?」
「すみません……チカ様の『俺の女』発言に、胸のときめきが……」
敗戦の戦士のように、立ち上がるエドワルドさんだけど。
これは、あれかな。同志ができたと思っていいのかな?
現に、エドワルドは力強くこぶしを握る。
「お任せください。このジジイ、必ずやお二人の愛を成就させてみせますっ!」
別に、私はチカ様を推したいんであって、両想いになりたいわけではないのだけど。
そうだとしても、現時点では私の味方をしてくれるらしいから。
私は「同志よ!」と固く握手をしてみることにした。
「――ということで、乗馬兼護衛役よろしくお願いします」
「エドワルド様に『ダビデ』と名乗るように言われたミケランジェロです。よろしくお願いいたします」
その若い騎士さんは、短いくるくる天然ヘアに、甘い顔立ちの男性だった。軽鎧越しでも、脱いだら凄そうな筋肉していそうである。もちろんだけど、こんな教科書に載っている彫刻家と同じ名前の騎士なんて、原作小説には登場していない。
……うん、どこからツッコめばいいのやら?
とりあえずエドワルドさんが、この人に『ダビデ』と名乗らせる意図はわからないけれど。
タクシー代わりに馬でチカ様を追ってくれるなら、誰でもいい。
しがみついているだけなのに、やたら腰とおしりが痛いけれど、私は半日すごく我慢した。
だけど、これだけは我慢できなかった。
寂れた村で、大人も子どもも大勢の人が、チカ様に石を投げていたのだから。
「おんどりゃああああああああ!」
般若、発動である。






