13話 私は善良な先輩メイド
2章開始です!
さて、これにて一件落着である。
チカ様の大切なお金を横領していた侍女長は追放されたし、チカ様をカモにしようとしていたスターらの陰謀も阻止した。
……スターたちは、物語の主人公かつ正義の味方なんじゃないかって?
そんなの、私に関係ある?
チカ様に害する者は神様だろうが、幼女だろうが、漏れなく全員敵!
むしろ、私は作者様に意を唱えたいところ。こんなあくどいことするやつをヒーローにするんじゃない。チカ様を生み出してくれていなければ、猛烈なアンチになっていたところだ。
何はともあれ、これにてチカ様の楽園ネーヴェに平穏が戻った――とは、問屋が卸してくれないらしい。
「頼む! どうかアウローラだけでも、ここで匿ってくれないか⁉」
「どの口が言う」
あぁ、今日もチカ様のため息は神の吐息。
全身全霊で浴びて風に溶けてしまいたくなるが、残念ながら此度のため息は私に向けられたものではなかった。
応接間の床に額をつけたスターに対してである。
なお、聖女アウローラも悲痛な表情で、彼の隣の床に座っていた。
そんな二人を、私はチカ様と同じソファに座って見下ろしている。
なぜか――一応、私が元婚約者だからだ。
彼は図々しくも私を利用すべく、この場の同席を懇願したらしい。
「ビビアナからもネーヴェ公爵に頼んでくれないか! 詳しい理由は話せないが、アウローラは常に大勢から命を狙われているんだ。だけど、この辺境だったら……刺客も簡単にはやってこれまい! それに黒炎の魔導師のそばだったら、いざとなったら守ってくれるだろう⁉」
「どの口が言う」
僭越ながら、チカ様と同じセリフを吐いてしまった。
だってあろうことか、チカ様の金をむしり取ろうとしながら、チカ様を顎で使おうとしていたということだろう? 下賤な犬はどこかで野垂れ死んでしまえば……なんて、真の悪役令嬢らしいセリフも付け加えたくなるが……それは我慢。
だって、この聖女アウローラ。実はチカ様の腹違いの妹で、実は王女様という設定だからである。まだアウローラが赤ん坊だった頃、あの『血塗られたお家騒動』のときに、彼女はとある侍女の機転で、子に恵まれない平民の夫婦に、素性も知らせぬまま引き取ってもらっていたのだ。
そのため、その平民の家で貧しくも平和に暮らしていたのだけど……聖女の力が芽生えてから一転、その性根の優しさで奇跡を起こし続けた彼女は、最終的に女王にまで返り咲くのである。……実の兄であるチカ様を滅してまで。
ちなみに、この段階でチカ様はアウローラが本当に妹だと確信はしていない状態。生き別れた時、アウローラは本当に赤ちゃんだったからね。顔なんてわかるはずがないけれど……『実は妹が生きている可能性』を聞いていたチカ様が長年少しずつ独自調査を進めていた結果、聖女アウローラが近いんじゃないか……というところまでは調べがついているはずである。
すなわち、お優しいチカ様のことだ――スターはともかく、実の妹を見捨てられるはずがない。ならば、私が為すべきことは――
「……とは思いますが、僭越ながら私からご提案差し上げてもよろしいでしょうか?」
「言ってみろ」
チカ様の許可を得てから、私は改めてスターらを見下した。
「チカ様の大事なお金をふんだくろうとしたゴミ虫をこのまま野放しにするのも世のためになりません。ここは、人手不足を解消する駒にするべきではないかと」
すると、チカ様がニヤリと口角をあげる。
「さすが俺のフィアンセ。まさに俺も同じことを考えていた」
隣のチカ様が、私の髪をすくって「ちゅっ」とリップ音を鳴らしてきた。
どうしよう、今日も私の推しのファンサービスが過多すぎる……。
侍女長がいなくなってから、私は調理補助の仕事を任されていた。
……というか、使用人さんたちからも『今まで無視して――』みたいに謝罪されたんだけどね。その上で、「お詫びとして私に料理を教えてください」と頼んだのは私である。
これで、近い将来『私の料理がチカ様の血となり肉となり』が現実になりそうだ!
だけど、嬉しいことはそれだけではなく。
コックさんたちに疎まれるかと思ったら、なんと私のことを厨房に歓迎してくれたのだ。
ジャガイモたちの華麗な皮むき技術を高く評価してくれていたんだって。
そんな純粋な嬉しさをよそに……私は後輩指導に勤しんでいた。
「はーい、まだお皿がぬるぬるしてますよー。このお皿でチカ様がお食事をすることがイメージできますか? チカ様に油ぬるぬるで汚れた食べ物を摂取させるだと? ハァ? てめぇらの手の油がなくなるまで擦れや。キュキュッと鳴るまで!」
言い出しっぺは、私だからね。私が面倒みるのが筋というもの。
元婚約者の商人……ではなく、見習い下人のスター・アモーレ君と、数々の奇跡を起こす神の代理人……ではなく、見習いメイドのアウローラさんです。
彼らに与えた仕事は、皿洗い。私は優しいからね。ちゃんと厨房内ですよ。二人は魔法が使えるので、ぬるま湯の使用も許可している。無駄に冷水でお皿の汚れを残すのはチカ様のためにならないからね。
「きゃっ」
たまにお皿を割ったとしても、無駄に叩いたり、怒鳴ったり、食事を抜いたりもしない。どっかの侍女長とは違い、私は善良な(気持ちの上では)先輩メイドなのだ。
「はい! チカ様に向かって『ごめんなさい!』を十回!」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさ――」
「声量と誠意と愛情が足りないっ!」
私は手本として「チカ様今日も存在してくれてありがとうございまああああああすっ!」と十回ほど叫んだときだった。なぜか、背後から小突かれてしまう。……もちろん痛くない。
「チカ様っ♡」
「うるせーよ。もうおまえが部屋で大人しくしてないのは見逃してやるが、働くにしても静かに働きやがれ」
チカ様に……怒ってもらえちゃった♡
だけどチカ様、本当にそれだけで帰っていってしまう。
てっきり、アウローラたちの様子を見に来たんだと思っていたんだけどな。
「あれ?」
少々騒いでいたとはいえ、チカ様の執務室と厨房はかなりの距離がある。
厨房内でお昼ご飯の準備をしているコックさんたちも、ずっとクスクスしていたとはいえ「うるさい」など怒ってはこなかったぞ? だから、窓を開けていたとしても、正直怒りに来るほどの音量ではない……はず。
「あなたの顔を見に来たんですよ、奥様」
「エドワルドさん、おかえりなさい」
……奥様って誰だ? と反応が遅れたのはさておいて。
チカ様と入れ替わりにやってくるのは、チカ様の専属従者ことエドワルドさん。
新しい取引先探しで出張していたエドワルドさんと会うのは、エド君の正体だったと知らされたあのときぶりである。そんな紳士なエドワルドさんが、私を異様なニコニコ具合で見つめてくる。
私、何かやらかしたかな?






