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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編版】私は所詮、魔王軍四天王の最弱だけど? え? あなたは魔王様!?

最強無双のファンタジーじゃなくて、ラブコメ…………に成った。




『アイツが勇者に敗れただと?』

『それも仕方ない。奴は、我ら魔王軍四天王の中でも最弱』

『ククッ。奴を倒したくらいでいい気になる勇者なんぞ、恐るに足らず』



 なーんて。

 このベタなマンガのシーンのやり取りを、残りの四天王も実際にしていそうだから、あながちフィクションでもないだろう。

 すごいな、考えた奴。実は、異世界知ってる? 私と同じ転生者では?

 前世、魔王軍の四天王だった私が地球に転生しているのだから、ない話でもなさそうだ。


向井(むかい)。なんか面白かった?」


 隣から覗き込む男子に、乾いた笑いを消し去って愛想笑いを返す。


「ううん。ただここまでで読み飽きちゃっただけ」

「そう? じゃあ俺が読んでいい?」

「どうぞ」


 持っていたマンガ本を、その男子に渡した。その男子は、そのまま私の隣に居座ってマンガを読み始める。

 ピコンと、スマホが鳴るから確認すれば。


京子【いい雰囲気♡】


 向かい側に座るメッセージを送りつけてきた女子が、ニヤけ顔で見ていた。

 これにも乾いた笑いを零してしまう。

 高校生に入って、中学生の時よりも惚れたはれたの話が増えてきて、面倒である。

 どうしても女子という生き物は、コイバナに貪欲な気がしてならない。

 ボンボンのクラスメイトが、好きなマンガを貸してくれるということで、豪邸に集団で遊びに来た日。大半の女子は、マンガよりも豪邸の住人のボンボン男子と家案内に夢中だったり、恋人とイチャイチャしたり。賑やかだ。

 彼女は、私をこの集まりに引っ張り込んだ中学からの親しい友人である。

 おちょくりのメッセージに【どこが】と短く送り返す。ただ隣に座っているだけじゃん。



 向井(むかい)小暮(こぐれ)に生まれて、早十六年。



 地球の人間暮らしも慣れてはいるが、恋愛感情を抱くかどうかは、正直無理だと断言出来る。

 独り身を貫き魔王軍で戦い、四天王まで上り詰めた私が、人間の子どもらしく恋だの愛だのをするイメージが湧かない。魔王様には尊敬の念は抱いていたけれど、それを恋慕と呼ぶには恐れ多いしね。


 隣に座ってきた男子は、秘かに人気があるクラスメイトだ。堂本(どうもと)くん。

 顔立ちもよくて、明るく人懐っこいスポーツマン系で体型もいいときた。モテるのも、当然。

 何かと話しかけてくる堂本くんとフラグが立っているんじゃないかと、中学からの付き合いの宮本京子は面白がっているが、私にはその気がないので、スマホをいじりながら窓辺に移動した。すると、彼の隣と虎視眈々と狙っていた女子が動く。さらっと隣に腰かけて、会話を振った。こちらに視線が向けられた気がしたが、知らないフリする。



 途端、懐かしい感覚が貫いた。


 地上が揺さぶられて、クラスメイト達が悲鳴を上げる。大きな地震で、ガタガタと音を立てて部屋が揺れた。

 窓辺にしがみつきながら、外を見て私はひたすら驚愕する。



 魔力だ。魔力を感じる。


 地球に、魔力が生まれた。


 前世で馴染みある魔力に、鳥肌が立つ。その腕をさすり、自分を抱き締めた。その中にある魔力が滾ることを確かに感じながら。



 魔力が芽生えたその日。

 迷宮が誕生する大災害が起きた。



 世界各地で、地上が割れたり、山が生えたり、中に続く巨大な穴が空いたのだ。

 その中には、魔物が蔓延り、人間を襲って喰らった。


 被害が拡大しないように、のちに『迷宮』と呼ばれるその魔物の巣窟は、封鎖されて軍が見張った。


 しばらくの間、世界中が被災地として過ごしていたが、やがて人々は自分達に魔力という力があると気が付き、それが魔物への有効な対抗手段だと知る。

 私も被災暮らし中、魔力を練り、身体を鍛え始めた。この世界の魔物に食い散らかされてはたまらないもの。いざという時の備え。前世の記憶を頼りに、魔力操作をしていけば、肉体強化も容易い。魔法も問題なく、発動させられる。『迷宮』の魔物の強さは知らないけれど、ちょっとやそっとで負けやしないだろう。

 問題は、一人では対処しきれないことだ。『迷宮』が崩壊して、全ての魔物が溢れ出したのなら、困る。


 そう思い悩んでいたら、救世主は現れるものらしい。

 日本の東京都の『迷宮』を『攻略』した若者が現れたのだ。

 年齢は私より一つ下の男子高校生。魔法を駆使して、魔物を倒していき、最奥の『ボス』を討伐して、完全に『迷宮』の魔物を駆除したというのだ。


 ……まるで、勇者だな。

 前世、勇者が死因の私としては、敬遠したい救世主だ。


 その救世主は、魔法の天才だとも持て囃されて、教えてが広まることとなった。

 そうして、『迷宮』が出現した地球は、適応した。人々は魔法を学び、魔物との戦いを学び、『迷宮』に挑んだ。



 大災害から二年を経て、『冒険者』の資格を得た者は、『迷宮』への攻略が許されるようになり、新たな世界となった。

 魔物の素材は、新たな資産となり、魔物の心臓の核は『魔石』と呼ばれて、新たな原動力となった。

 だから、力をつけることが出来た人間にとって『迷宮』は稼ぎ場となった。

 当然、無許可で『迷宮』に入れることは出来ない。むやみに命を散らさないためにも、許可に、資格とお金が必要。


 お金は、ボンボンの花巻(はなまき)くんに出してもらい、一学年からの付き合いのいつものメンツで『迷宮』潜りをした。花巻くんが仕切っているが、ちゃんとこちらにも利は大きい。入場料はもちろん支払い、あとは獲物の利益を個人で得られる。

 私は周囲にはそこそこの実力を示して、適当に助言も与える立ち位置をキープした。


 あまり強すぎても、救世主のように祭り上げられかねない。

 英雄の彼は今も、日本各地で活躍している。なんなら外国でも助っ人として活躍したと、ニュースで見たくらいだ。

 ちなみに、十七歳という若さの英雄くんは、クール系らしい。笑顔を一切見せないほどに不愛想。

 まぁ、そんな情報、どうでもいいか。


 今や『迷宮』は高校生のアルバイト場としても人気で、お金になる魔物の素材や魔石を得るために『迷宮』入りする。だから、『迷宮』が機能しなくなってしまうボス討伐を阻止するために、ボス部屋は封鎖されているのだ。そうやって、どうやってか、永久に湧いてくる魔物を討伐し続ける。ただでは転ばない。

 ボンボンの花巻くんは、京子が回復職に特化しているし、私がいる方が安心だと理解して、いつも誘ってくれるのだ。

 私は全体を見て、後方支援もいけるからね。

 魔物は、特に知能が高いわけではない。まだボス戦は未経験だが、少なくとも、前世の魔王軍の下っ端レベルの魔物ばかりだ。

 生前ほどの力がなくとも、元魔王軍四天王の私の敵ではない。


 花巻くんに誘われるだけでもいい稼ぎをするが、私はソロでも入れる『迷宮』にも行く。

 すでに経験を積み重ねてその資格を得た私には、許可をもらえる。そこでそこそこの魔石集めをしては、換金している。


 それには事情があるのだ。

 向井家は、今は母子家庭なのである。私が中学に入る前に、夫婦関係は崩れて離婚へ。

 そもそも、父親は甲斐性なしのクズ男だ。母が見切りをつけるのは、当然だった。

 子どもは、私を含めて弟と妹の三兄弟だ。サラリーマンの父親だけの稼ぎでは足りなくて、母もパートで働いていた。ので、離婚後は、母の稼ぎで暮らしていたのである。父親も教育費を送ってくる約束だが、三人の子どもに母一人で育ってていることに変わりない。それは、結婚時と大差変わらない生活のようだ。


 その父親は、末の娘の私の妹を溺愛しすぎた。

 よって、妹は甘ったれた子となったのである。


「お姉ちゃん、お小遣いちょうだい!」


 両手を合わせて上目遣いをする妹に、しらけた目を向けた。

 母にも稼ぎを渡しているほどに『冒険者業』が稼げている私に、おねだりをする甘ったれな妹。


「言ったでしょ。お小遣いは使い道を提示して、そのあと証拠にレシートを出せって」

「うっ」


 付け入る隙を見せずに、突っぱねた。

 嫌そうに顔を引きつらせた妹は、むすっと唇を尖らせる。


「なんでそんなに厳しいの! 可愛い妹にお小遣いぐらいちょうだい!」

「はぁ? アンタ。今年のお年玉をどうしたか、覚えていないの?」

「ううっ!」


 冷たく見下すと、妹はたじろいだ。

 妹はとんでもない浪費家である。今年は高校一年生ともなり、お年玉は総額一万八千円を得た。

 そのお年玉を、なんと正月早々に家族みんなで遊びに行ったゲーセンで使い込んだ。最早、溶かした。

 目を離した隙に、クレーンゲームに一万八千円を溶かしたのだ。

 おいコラ、愚妹よ。数時間でクレーンゲームでそんな子どもには大金を使うとか、どうやったら可能なんだよ、おいコラ。

 一回百円や三百円じゃないか、それをたった数時間で……! 恐るべし、甘ったれ妹!

 そのあと母にこってり絞られたのに、父親と会って、おねだりしたお金で友人と遊び回っていた妹に絶句した!

 お金を持たせてはいけない人種である。絶対にお金を貸すな、絶対に。


 魔王軍四天王の一人にもいたよ、軍資金を使いこもうとする金使いの荒い奴。

 自分が稼いでいないのに、自在に大金を動かそうとする。自分の見栄などで浪費しないでほしいものだ。

 魔王軍の参謀が私に泣きついた時は、マジ困った。私に止めさせないで。


 そういうことで、妹には絶対にお小遣いをあげなかった。


 魔物の素材で、魔物に有効な武器も開発されていく。銃刀法違反の国だったのにね。

 まぁ、まだ不慣れな開発の武器を買うより、魔法主力で戦う方がいい。


 私の前世は、炎の四天王だった。

 だから、ソロで入った『迷宮』は火の海にして殲滅する。ソロで入れる『迷宮』の魔物の素材は、あまり価値がないので、消し炭だ。あとは残る魔石だけを拾って、換金である。


 四天王最弱の汚名は、返上である。ここでは私も最強の部類だ! はははっ!



 順調に稼ぎ、力を蓄えていたら。


「聞いてよ! 救世主とレイドして『迷宮』攻略することになったよ!!」


 花巻くんがそう発表したものだから、ポッカーンと呆けてしまった。

 なんと、順調に『迷宮』潜りをこなしすぎて、救世主くんのレイドに参加するパーティの一つに選ばれてしまったらしい。


 放置出来ない『迷宮』は、救世主くんの指揮の元、ボスを討伐するのだ。

 ボス討伐を将来有望な『冒険者』として経験させるお国の目論見もある。なので、常連の花巻くんのパーティが声をかけられるのは必然だった。

 私としては、救世主くんが勇者っぽいから嫌なんだけど、何も彼と親しくなるわけでもないし、ボスのレベルは確認したいから、参加しようと重い腰を上げた。


「小暮ー! 写真!」

「はいはい」


 『冒険者』の楽しみとしては、ロールプレイングゲームとして、コスプレもといお洒落に気合いを入れる。

 今回の救世主くんとのレイドも、気合い入れて、皆が一張羅を着こなす。そういうファンタジーが題材ものが溢れるから、衣類も豊富だ。

 京子は、緑のローブにミニスカとタイツ姿が最近のお気に入り。それに魔法強化の杖。ヒーラーらしい。

 私も、赤のポンチョ風パーカーと、短パンとレディーブーツ。こちらは、現代風寄り。

 そんなツーショットで、自撮り。

 なんといっても、救世主くんが登場するので、カメラ機能はオンのまま。京子は、そわそわした。

 まぁ、京子だけではない。花巻くんが揃えたパーティメンバーは、皆浮足立つ。

 いや、花巻パーティだけではない。もう一組、救世主くんのパーティとは違うパーティがいて、待ち合わせ場所でそわそわしている。


 ヒュッと息を呑んだ。

 救世主くんパーティが来たとざわめく中、私は一人、恐怖で固まった。


 テレビでも何度か目にしたクール系の男子高校生、救世主の影野(かげの)竜弥(たつや)は、冷めた目で前を見据えて歩んでいる。

 艶やかな黒髪と黒い瞳。でも私の目には、魔力がこもった瞳は冷たい炎が灯って見えた。

 何より、魔力は。彼の魔力は。

 彼を覆うようなドラゴンの形をしていた。


 前世でも、幾度も見てきた魔力の形だ。



 ――――魔王陛下!!?



 ザッと、片膝をついて頭を下げる。


「え? 小暮?」

「向井? どうした? 気分が悪いのか!?」


 京子も堂本くんも私の体調不良を疑った。他は、誰も見えていない。

 魔力があんな可視化しているということは、自身でコントロールしているのだ。

 絶対に魔王陛下は意図的にやっている。前世の記憶がなければ、同じ魔力の形はしない。

 これは、あぶり出しだ。

 魔王陛下を知る者が、こうして膝をつかないわけがないのだから。


「――――名乗れ」


 威圧的な少年の声が、目の前で発せられた。


「……炎の四天王、ヘスティアです」


 まさか、こんなところで前世の名前を名乗ることになろうとは。

 これで大丈夫だろうか。

 魔王とか、魔王軍とか、そういう単語を出さなければ、周囲に聞かれても問題ないはず。


 とにかく、覚えているかはさておき、私がかつての魔王軍四天王のヘスティアだと答えて、魔王陛下の次のアクションを待と――――。



 考えが、強制中断された。


 ドラゴンの魔力をまとう影野竜弥に、抱き締められていたのだ。


 完全に、思考が止まってしまう。


「ヘス……! 会いたかった!!」

「……!?」


 会い、え? 何?

 魔王陛下の生まれ変わりが、何故私を抱き締めて……!?


「まお、えっと……えっ!?」


 大いに混乱しているけれど、何か物申すことも出来ないお方にされるがまま。

 彼に抱き締められているせいで、周囲がざわめいている。ざわざわと混乱が広がっているようだ。

 誰も収拾出来ない。なんと言っても、魔王陛下、違った、日本の英雄だ。彼を止める者は、そういない。


 ギュッと頭の後ろに回した手で抱き寄せては、すりすりと頬擦りする影野竜弥。

 慣れぬ温もりと感触に、呆然としてしまう。

 魔王陛下の抱擁に対して、どんなリアクションが適切なのか。

 幸い、魔王陛下の方が、腕を緩めてくれた。


「ヘスティア……」

「へいか……??」


 とろんとした熱い眼差しで覗き込む美男子に、心臓がバクバクと高鳴る。張り裂けそうだ。

 え。ナニコレ。心臓が破裂して死ねる。死因、バクバクしすぎ。


「影野くん! これはどういうこと!?」


 一人遅れてやってきたスーツ姿の大人が来た。

 あ、テレビでよく見る影野竜弥の冒険者ギルドからのマネージャー……?


()()()()


 言葉少なめの影野竜弥は、キリッと言い切った。


「え!? 捜し人ってその娘!? ええっ! えっと……場所! 場所変えましょう!?」


 オロオロと周囲を確認したあと、慌ててマネージャーは提案する。


「そうだな、話をしたい。予定を調節してくれ。行こう、ヘス」


 影野竜弥がコクリと頷くと立ち上がり、私にも手を貸して立たせてくれた。


「待って! 竜也! なんなのその子!?」


 立ちはだかるのは、影野竜弥の英雄パーティの一員として、SNSで宣伝している女子高校生だ。確か、私達とタメのはず。へそ出しという露出多めの魔法使いタイプの服装で、お洒落全開。


 どうして、魔王陛下の生まれ変わりに立ちはだかれるのか、理解が出来なかった。

 こんなドラゴンに抱かれる魔力を持つ彼の道を立ち塞がるなんて、見えていれば正気の沙汰じゃない。

 でも見えていないのだろう。魔力を見ることは難しいものではないが、学ばないと出来ないこと。影野竜弥は、教えていない。必要性はないと、判断したのかも。

 しかし、相手の力量を見定められない魔法使いは致命的ではないだろうか。

 私をじとりと見下す視線を向けて睨みつける彼女は、明らかに私より弱い。

 まぁ、自力で魔王陛下の魔力を可視化出来ない魔法使いなど、三流以下だ。相手の強さも見定められず、返り討ちに遭って終わるだけ。


「喧しい。彼女は、お前よりも強い。死にたくなければ、絡まないことだな」

「なっ!」


 しっしっと犬を追い払うが如く、軽くあしらう魔王陛下の生まれ変わり。仲間相手に冷たいにもほどがあるが、元々、前世でも慣れ合うような人ではなかった。愛想の欠片もないクールさからして、間違いなく、魔王陛下だ。

 なんでこんな人を勇者みたいだと苦手意識を勝手に持ってしまったのだろう。勇者の方は、真逆の熱血漢ある青年だったというのに。


 ショックを受けて立ち尽くす女子。歩き去る影野竜弥に手を引かれる私に向かって、わーぎゃー騒ぎ立てたけれど、彼の足が止まることはなかった。

 私もたくさん突き刺さる視線から、逃げることにする。


「周囲で一番マシに魔法を使うからパーティの一員として育てていたが、どうにも厚かましい。妙にこの世界の女子(おなご)は多くないか?」

「じょ、女子高校生(わかもの)故ではないでしょうか……」


 呆れ顔で零す影野竜弥に、恐る恐ると考えを伝えておく。

 魔王陛下なら、恐れ多くも立ちはだかってまで絡む魔物女などいなかった。幹部の魔物女ですら、近付くのは恐れていたもの。膨大な魔力が、こんな凛々しいドラゴンとして形にしているのだ。見えていない愚か者は、そもそも彼のお姿を見ることも不可能だった。


 そうなると、魔王陛下にとって、ちやほやと黄色い悲鳴を上げるファン達は、礼節の欠けた妙な女子(おなご)達にしか思えないのだろう。

 威圧的な膨大な魔力が見えない普通の人間にとって、顔立ち体型が一級品のイケメン男子高校生である。さらには、日本の救世主だ。ハイスペックイケメン男子。異性が群がるのは、必然。


「今の名前は?」


 豪華キャンピングカーに乗り込む前に、手を差し出してエスコートしようとする魔王陛下の生まれ変わりは、私に尋ねた。


「向井小暮と申します」

「向井小暮……こぐれ、可愛い名だな」


 ぐっ……! 何故とろけたような微笑みを零すのですか、魔王陛下!!

 そのまま、手を乗せるように促されたので、手を重ねてキャンピングカーに乗せられた。

 設備が一級品の豪華キャンピングカーのソファーに並んで座って、二人きりで話をすることに。


「魔王陛下。まさかまたお会いできるとは夢にも思わず……私は魔王陛下に謝罪をしなければいけません」

「よせ。もうここでは俺は影野竜弥であり、君も向井小暮だ。謝罪は不要だ」


 ここは土下座でもしようとしたが、掌を向けてまで影野竜也は制止した。


「で、ですが、魔王陛下は生前の部下を捜していたのではないのですか?」

「確かに捜していた。生まれ変わっているなら、()を見つけ出したいと願ってな」

「……私、ですか?」


 生前と同じ魔力の形をわざと取っていたのなら、魔王軍を招集したかったのではないかと考えたけれど……。何故、ピンポイントで私なのだろうか。


「生まれ変わっても、会いたいと思っていた」

「……!?」


 えっ……! なんだろう! 甘ったるいセリフだと思うのは、私の感覚の問題!?


「『迷宮出現』までどうやって見つけ出せばいいかと考えあぐねていたが、魔力の可視化という手段で見つけ出せて本当によかった。わざと魔力視を教えなかったが、教えたところで、俺の魔力を見るなり跪くのは生前の我が軍の魔物ぐらい。ちなみに、ヘスティアが初めてだ。同じ転生者仲間は」

「……!! ……じゃ、じゃあ、魔王陛下は、転生者仲間を見つけ出すために、英雄に成り上がったのですか?」

「そうだな、手っ取り早いだろう。前世の記憶なしでその辺の魔物にやられては可哀想だから、教えを広げさせるには英雄の地位は便利だったからな。テレビ越しでも魔力の可視化が見れれば、もっと早く再会出来だろうが」


 残念だ、としゅんとする魔王陛下。かわ……ゴホンゴホンっ!


「そ、そうですね。魔王陛下の魔力の形を見ていれば、招集をかけられていると判断して何とか会いに行ったでしょう」

「そうか……! 生まれ変わっても、俺に会いに来てくれるのか! ヘス!」


 ぱぁあっと明るい顔になった魔王陛下に、ズキュンと胸を撃ち抜かれた。


「な、なん、なんでですか、魔王陛下? どうしてそんな親し気に、ヘスと……? そう呼んでいましたっけ?」


 記憶にある限り、そう呼ばれた記憶がないのだが。

 ヘスティアの愛称を呼ぶ幹部すらいなかった。


 それを指摘すると、ぴたりと影野竜弥は停止する。そろっと視線を泳がした。


「…………俺は、昔から、ひたむきに頑張るヘスティアを見ていた。だから、心の中でそう呼んでいた」


 そうなの?!


「四天王まで上り詰めた時は、自分のことのように誇らしかった、ヘス。称賛の言葉は、本当はもっと言いたかったくらいだったんだ」


 ぐっ……! 魔王陛下! そんな熱く見つめてこないでください!! 心臓がバクバクしすぎて、あなたの声が聞こえなくなります!!

 ええー! 前世では、評価が高かったってこと!? 心臓が破裂しそうー!!


「あの頃は…………幹部の一人、四天王の一人として、尽くしてくれる君に満足していた……」


 不意に、青い光り魔力が灯った黒い瞳が、伏せられて仄暗くなった。


「……君が、勇者に殺された……」


 ギュッと心臓を鷲掴みにされた。謝りたい。先程謝罪したかったことである。

 勇者に敗れてごめんなさいと、土下座してはだめだろうか!


「その知らせを聞いた時、視界が真っ暗になった。感覚も全て闇に落ちてしまったかのような喪失感に襲われた。あれほどの恐怖は、二度と味わいたくはない」

「……」


 言葉が見つからない。暗い顔の魔王陛下に、自分の死で感じたことを語られた時の、正しい回答はなんだろう。


「やがて聞こえてきたのは、残りの四天王の会話だった。奴ら、なんと言っていたと思う?」


 暗い笑顔になった魔王陛下に、ゾッとする。

 あっ、それってまさか……テンプレの……。


「”あいつは我らの中で最弱”だとか”だから殺されてもしょうがない”だとか……四天王の仲間が討ち破られたというのに、嘲笑いやがって。仲間一人守れずに死なせた連中を、その場で処刑してくれたわ」


 真っ黒笑顔で青筋立てている魔王陛下ーッ!!?

 え!? 残りの四天王! 魔王陛下が、罰で処刑してしまった!? 私の悪口で!?


 そこで、ハッとする。


「そうだ! な、何故魔王陛下は転生していらっしゃるのですか!? も、もしや、勇者に……!?」


 まさか、魔王陛下があの勇者に敗れたというの!? そこまで強いとは思わなかった! 魔王陛下に勝てる存在がいると、思いもしなかった……!!


「いや、勇者なら、四天王を処刑した後に、直接殺してやった」


 しれっと、魔王陛下は答えた。

 ……えっ!!?

 勇者、何故か四天王の一人を倒した直後に、魔王が来ちゃって()られた……!?

 テンプレ総無視!! 勇者ゲームオーバー!?


「え? じゃ、じゃあ……何故転生を?」


 不老長寿だよね、魔王陛下は!



「……君のいない世界が虚しくて、勇者一行の魔力を奪って、その星を消し飛ばした」



 ま、魔王陛下ぁああー!!!



 星を! 星を消し去った!? そりゃ不老長寿でも転生しちゃうね!? いやなんでですか魔王陛下!!


 キャパオーバーにキャパオーバーがぁああ! 理解が追い付かない!

 何故そうしたのですか! 魔王陛下!

 私!? 私が元凶!? 何故私なんですか!? 私がなんだというのですか!?


 そうパニックを起こしていれば、手を取られて握り締められた。


「ヘス。前世は長寿故に焦ってはいなかったが、失くして初めて星を消し去りたいほどの酷い後悔した。想いを告げればよかった。君が欲しいと伝えればよかったと」

「……ひぃ!?」


 とびっきり甘く告げられた言葉に、胸は貫かれて腰が砕けてしまう。

 えっ!? な!? 何!? なんて!?


「ひたむきに努力する君が健気で愛らしいと感じていた。俺の伴侶になってほしい。添い遂げてほしい、小暮」


 ひぇええっ……!!

 魔王陛下に愛の告白をされている……! 求婚されている……!!

 ええ! 私は魔王軍四天王の最弱! なのになんで魔王陛下に求愛されているの!?

 未だに恋愛をする自分が想像出来ないというのに、こんな。こんなっ。こんな……!



 本当に本当のキャパオーバーを迎えた私は、真っ赤になって卒倒してしまった。

 そのおかげか、心臓破裂の危機は避けられた。らしい。



 その後、人間の脆さを学んだ魔王陛下の生まれ変わり影野竜弥が、私の看病を頑固として譲らなかったために、本日予定されていたレイド自体がキャンセルとなってしまい、目覚めた私は即座に予定の立て直しを土下座で頼み込んだ。


 レイドをキャンセルさせてしまった責任を取るために、頭下げて、ボスに単体で挑ませてもらい、ソロ討伐を完遂させてもらった。


 一同は口をあんぐりして立ち尽くしたけれど、影野竜弥だけは、何故か誇らしげ。


 ことの次第を聞いた冒険者ギルドは、私をスカウト。影野竜弥の英雄パーティの魔法使いになるようにと誘われた。

 それに反発したのは、あの妙な女子(おなご)認識された人。


「小暮は一人で『迷宮ボス』を討伐した。それ以上にお前を解雇して小暮をパーティに入れる理由は必要ないだろ」


 冷たく辛辣な一言で、魔王陛下の生まれ変わりは一蹴した。誰も反対は出来ない理由である。

 そういうわけで、問題なく、私は彼女を押し退けて、パーティメンバーに入れてもらった。



 でも、甘んじてはならない。

 魔王陛下の元で戦う以上、強くならねば!

 いくら前世の魔物に比べて弱い分類だとしても!

 怠けられない!


 そう意思表示をしたら。



「小暮になっても、ヘスのままなのだな。そういうところが、好きで堪らないのだ」



 甘く微笑まれて、また卒倒しかけるところだった。

 心臓よ、破裂するな。


「あ、あの、魔王陛下、そういうのは、もうちょっと」

「竜弥と呼んでくれ。そうか、なら俺もいきなり呼び捨てはよくなかったな。では、小暮()()?」


 茶目っ気に笑いかけられて、一瞬意識が飛んだ。

 絶対零度の魔王陛下が、年下イケメンとして甘い顔をしてきたのだ。

 ギャップの破壊力がありすぎて、倒れかけた。

 そんな私をサッと抱き留めたものだから、私の意識はさらに遥か遠くに飛ぶこととなったのだ。



 ファンタジーと見せかけたラブコメ転生……。


 地球の人間暮らし慣れはしたが、独り身を貫き魔王軍で四天王まで上り詰めた私は。

 その前世で誠心誠意で仕えていた魔王陛下相手に、気持ちをお返しするのは、まだまだ遠いようだ。




   end



かっこよく地球転生の元四天王が、最強無双するファンタジーを書きたかったのに、気付いたら、

ラブコメ路線に突入して抜け出せなかったのです……。

愛が重い元魔王陛下、強すぎか。あなたのせいですよ。


もう思い切って、愛が重たい元魔王陛下とのラブコメをすればいいと思います。

そのうち、地球では英雄冒険者の元魔王陛下の年下イケメンにアプローチされまくるラブコメ、連載すればいいと思うんです。あと勇者みたいだと思っていたことは、秘密にした方がいいですね。


ちなみに、作者の妹は過去にお年玉を一万八千円ほどクレーンゲームで溶かしたことがあります。ヤバいですよね。大人になっても母や私から、大金を絞り出す甘ったれです。困ったものです。只今絶縁中です。お姉ちゃん、激おこプンプン。


今日、毎日更新がストップする、こちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n6169in/

【『悪魔転生』のちに『赤き悪魔女帝』】

異世界転生して悪魔ライフ! のちにイケメン魔物の逆ハーとなるファンタジー!



2024年1月21日◇

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