稲荷寿司
女と一緒に暮らしていた。
どれくらい一緒にいるのかもわからないくらい長く。
やがて女が
実は狐なのだと
僕は気づいた。
それもしょうがない、と
最初は諦めていたのだけど、
段々と腹が立ってくるのだ。
ある日、僕は苛立ちをぶつけてしまう。
怒鳴って怒って、
出て行け!
もう二度と顔も見たくない!
と、女を追い出してしまう。
実は狐だった女はニコニコ笑いながら、
何かを言っていたけど、
何と言っていたのか、
もう何も覚えていない。
狐を追い出してから、
僕は自分のあやまちに気づく。
そうだ、狐だから何だって言うんだ。
どうして僕はあんなに腹を立てたんだろう。
僕は狐を探す旅に出る。
連れ戻さないといけない。
のだけど、どこかの駅で立ち尽くしてしまう。
どうせ、もう帰って来ないことはわかっているのだ。
誰もいない田舎の静かな駅のホームで、
稲荷寿司を作らないといけない、と僕は気づく。
稲荷寿司を作らないと、狐も帰って来られないだろう。
そうだ、稲荷寿司を作るか。
僕は目を覚まして、ベッドの中で奇妙な夢について考える。
出勤して仕事をする。
買い物をして帰宅する。
稲荷寿司を作る。
甘く甘く油揚げを煮て
酢飯はチラシ寿司の素を使う。
十個できた。多過ぎる。
稲荷寿司をお腹いっぱい食べながら
僕は考える。
どうして女が狐だからと、
あれほど腹が立ったんだろう。
別に狐だって、構いやしないじゃないか。
稲荷寿司は余った。
狐が食べに帰って来るといいのだが。